第40話 もうすぐ見つけてもらえると思う
「原因は……」
サラが言葉を続けようとしたときだった。
「あ! 病院のお兄ちゃん!」
ふいに子供の高い声が響く。
呼ばれたノエルは後ろを振り返った。
「……あぁ、シーラ」
ノエルが振り返った先……中庭に植えられた茂みの向こうに一人の幼い少女がいた。
パン屋の娘シーラである。
「こんにちは!」
シーラはにっこり笑ってから茂みを抜け出し、ノエルの方へと駆けよった。
「……こんにちは。どうしてこんなとこに?」
ノエルは努めて穏やかな口調でシーラに尋ねる。
今は取り込み中だったが、かといって子供の挨拶を無視するわけにもいかない。
それに、こんな人気のないところに子供が一人でいるのも気になった。
「かくれんぼしてるの」
シーラは嬉しそうに答える。
「かくれんぼか。シーラは隠れる方なのか?」
「うんそうだよ! お兄ちゃんたちは?」
「俺たちは……ルイを探してるんだ。ほら、黒い髪のもう一人のお兄ちゃん、いただろう? シーラは見てない?」
「え、見たよ?」
「えっ!」
何気なく尋ねただけのノエルは、想定外の回答を得て目を見開く。
五人に期待と緊張が走った。
「見たのか!? いつ!? どこで!?」
「さっき、裏門の方に歩いてったよ」
「う、裏門? なんで……」
ようやく得られたルイの手がかりに、ノエルは安堵と同時に焦りを抱く。
(外に行ったのか? まさか、本気で警護屋に交ざりに行ったんじゃ……)
「もう一人いたよ。その人が手をひいてた」
「え、もう一人……?」
「ねぇ、きみ」
ノエルの横からシーラに話しかけたのはサラだった。
「その人はどんな人だった? 何か他に覚えてることないかな? ルイは嫌がってなかった?」
「ううん」
シーラは見知らぬ人間であるサラにも物怖じすることなく、しっかりと首を振り、笑みを浮かべる。
「一緒に歩いてた。それでその人はね、髪が長かったの。男の人だったけど」
「髪が長かったの? 男の人で?」
「うん。色がね、銀色だったの。青っぽくてね、珍しいよね」
「銀色!? 青の!?」
「は、ちょっと待てよっ」
シーラの言葉に、サラとイリヤが声をあげて反応し、ノエルたちは何事かと身構える。
「そんなまさか……っ」
「だから悠長に構えてる場合じゃねえって言ったんだ!」
「記憶がないのに……!」
叫んでサラは走り出す。
「ま、待って!」
「あ、おい! ちょっ、いきなり何なんだよ!?」
サラの後をとっさにリズが追い、ノエルも慌てて駆け出した。
置いてけぼりを喰ったナタリアは、隣に立つイリヤにちらりと視線を向ける。
イリヤは視線に気付いて一瞬ナタリアを見たものの、話しかけることはなく再びサラの背に視線を戻した。
「おいサラ!!」
イリヤの鋭い呼び声に、サラはスピードを緩めないまま後ろを振り返った。
「シオたちに早く合図を!! 探すのが先よ!!」
「ちっくしょ!」
地面の土を蹴飛ばして、怒りとも焦燥感ともつかない気の昂りを散らしたイリヤは、小さな声で素早く呪文を紡ぎ始める。
すぐ傍にいるのに、具体的に何と言っているのか聞き取れず、ナタリアは眉をひそめた。
イリヤの手元から光が伸び上がり、一瞬だけ軌跡を残して消える。
「今のが、合図?」
「あぁ。悪いが行くからな」
イリヤはナタリアにそう告げ、先に行った三人を追いかけて走り出した。
残されたナタリアとシーラは、互いに顔を見合わせる。
「えーっと、かくれんぼの最中なんだっけ?」
「そうだよ」
「楽しい?」
「うん」
ナタリアは質問することがなくなって、どうしたものかと顔を引きつらせた。
「全然、誰も探しにこないわね?」
「きっともうすぐ見つけてもらえると思う」
「そうなの」
「うん。だからいいよ」
「え?」
「お姉ちゃんも、行った方がいいんじゃない?」
「あ……そうね」
シーラの子供らしからぬ空気の読み方に面食らいながら、ナタリアは四人が去った方向に目をやった。
子供を一人にしていいのかと思って走り出すのを堪えたナタリアだったが、本当は自分もすぐに追いかけたかったのだ。
「じゃあ、あたし行くけど大丈夫?」
「うん。一人でも全然平気だよ」
「そっか。そういえば一人で隠れてたんだもんね」
「うん」
シーラはまっすぐに頷いた。
このしっかりした様子なら大丈夫だろう。
そう判断して、ナタリアは先に行った四人と同じく、図書館の裏門に向かって駆け出した。




