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第33話 人生が終わるっ

 中央政府区域(セントラルエリア)において広域避難所となっている都立図書館では、朝食は炊き出しが行われていない。前日の夜に配られる固形の非常食が朝食代わりだった。


「そういやさ、この辺りの魔物はだいたい倒したから、結界の外もわりと安全なんだってさ」


 今朝の分となるビスケットをかじりながら、寝起きのまま毛布にくるまっていたおれは、ノエルに話しかけられて、無言で顔を上げた。


 初日におれたちに貸してもらえた小さな部屋は、当分使用しても問題はないらしく、おれたちはそこで寝起きをしている。

 リズは女の子なので、流石に寝るのは別だ。

 術具製作の作業場の女子仲間たちと同じ部屋で寝泊まりしているらしく、じいちゃんとエリックさんもたまに戻ってきてはいたが、基本はそれぞれその作業場で睡眠をとっていた。


「……うん?」


 本当ならノエルもじいちゃんと一緒に、医療チームのメンバーと診療場所の近くで寝起きしてもよかったが、おれの具合がいつ悪くなるか分からないうちは一人にさせられないということで、二人で個室を使うという贅沢な状況になっている。


「いやだからさ、ここの結界張ったとかいう外生まれ……? の人たちがいなくても、警護屋さえ同行すれば周辺ならわりと動けるらしいんだ。で、近場の食品店とか回って、食糧をもっと確保しようって話が出てるんだって」


 そのノエルはビスケットの最後の一欠けらを口に放り込んで、どかっとおれの隣に腰掛けた。


「だから、メシの種類が増えるかもよ? 良くない?」

「あぁ、うん……、いいねそれ……」


 いまだ覚めきらない頭でおれはとりあえず返事をした。

 ノエルはおれの生返事に不服そうな顔で、はぁーと嘆息する。


「お前さー、なんか寝不足? 昨日も寝る前どっか行って、戻ってきたの遅かったろ?」

「あー、うん。ちょっと会う約束してて……」

「あれ? 例のスティアさん?」

「うんそうー。色々ねー、話盛り上がってるんだー」

「へえー。人見知りのルイにしちゃ珍しいな」


 ノエルは立ち上がり、大きく伸びをした。


「いや、最初は緊張したんだけど、面白い人だったからすぐ慣れたというか」


 話していたら目が覚めてきて、おれは話しながら毛布をばさばさと丸める。


「だっておれ、役立たずで暇なんだもん。本ももう要らないって言われたし、他に手伝えることないし……」


 毎日毎日本を探して持っていっていたら当面役に立ちそうな情報は集まったらしく、リズに本はもう大丈夫かなと言われたのは昨日のことである。


「魔物退治なら役に立ちそうだけど」

「やめろよ? お前また魔物退治でぶっ倒れたらシャレになんないって。ここ来るまでが綱渡りみたいなもんだったんだからな?」


 即却下されて、おれは「だよな」と項垂れた。


「じゃーなんか手伝えないかな?」

「ていうか何がしたいんだよ?」

「えー、っと。……ノエルのとこの手伝いは? 人足りてないって聞いたけど」


 あー、と呟いて、ノエルはくしゃくしゃと頭をかいた。


「人手不足はだいぶ落ち着いてきたんだ。魔物で重症だった人もみんな回復してさ。医療系の魔法使えりゃ問答無用で即戦力だったんだけど」

「やっぱりそうだよな」


 魔物退治に関係ない魔法で使えるようになったのは、物を浮かしたり移動させたりするやつだけである。


「おれ、ただ飯喰らいだ」

「あはは、んなの、ほとんどがそうだって。書架フロア見てみろよ。みーんなゴローって寝っころがって暇そうにしてるぞ? 子供は外で遊んでるしさ」

「そうじゃなくて、おれの周りがどうしてるかって話」

「お前血迷っても警護屋の奴らのとこに混じりに行くなよ?」

「………………」

 先手を打つように釘を刺されておれは無言になった。


「あっ、ちょっと考えてんなお前っ! ぶっ倒れる奴なんて足手まといだからな! やめろよ!」

「……はい」


 正面切って足手まといと言われてしまっては、素直に頷くしかない。

 おれはしゅんとなって項垂れた。

 すると、ノエルはちょっと慌てたように視線を彷徨わせはじめる。


「あ、いやまぁ……おれたちをここまで連れてきてくれたのはお前だし、お前の強さも凄さも分かってるから」

「え、あー、うん」

「感謝もしてる」

「お、おぅ」

「だけど、ここに移動するって危ない橋を渡ったのは、ルイの他に戦える人がいるっていうのが理由だ。それなのにお前がまた戦いに出るとか本末転倒だからな」

「そ、そう……だな……」


 そういえば、そんな流れで移動するのを説得したんだった。


「あー、じゃあ俺もう時間だから行くけど。暇ならそのスティアさんに相手してもらえよ」

「ん……分かった」

「じゃあな」


 ノエルはソファに沈んだままのおれの頭をくしゃくしゃと撫でてから、ひらっと手を振って部屋を出ていった。

 本当に全く、ここ数日のノエルはお兄ちゃん感が増してきた気がする。

 なんか色々と心配をかけたし、おれのせいかもしれないけれど。



「はぁ〜」


 一人残されたおれは、ビスケットを口に放り込み、再びソファに寝転がった。

 だがほんの少しの間の後、いきおいよく起き上がる。


「駄目だっ、人生が終わるっ」


 何かしていないと駄目人間になってしまったようで焦りだけが募っていく。

 立ち上がっておれは部屋の中を意味もなくうろうろした。

 いやこれは本当に意味がない。

 どこに行って何をするにしても、とりあえず部屋から出よう思い立ち、おれは何も考えずに部屋のドアを開ける。


「うわっと!」

「っわ!」


 だが開けたドアの目の前にいた人と、おれは思いっきりぶつかってしまった。



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