第31話 ちょっと弟に似てたから
「僕はスティアだ」
「え……、ス、ティア?」
唐突話を変えられて、名を名乗られたと気付くのに、若干の間があった。
「君は?」
「あ、ぁ、……る、ルイです。ルイ=ウィルマリア」
ファミリーネームまで遠慮せず名乗れとノエルに言われたの思い出し、おれはフルネームを答える。
だけど相手の名乗りが簡単だったのに、ちょっと気負い過ぎたかもしれない。
なんかちょっと恥ずかしい。
「……ルイ? ……いい名前だ」
「え、はあ」
名付けの理由を聞いたばかりの身としては、適当な返事をするしかない。
「君も暇潰し?」
「え、いや、あの……本を、探しに」
「本を? 何の本?」
「何っていうか……、資料になりそうなものを……。あの、破魔の、術具作りに役に立ちそうなの……」
「破魔の術具って……、君、そんなもので魔物退治にでも行くのか?」
「えっ、た、退治に、ですか? いや、それは……どうだろう」
もう行くと言っても行かせてもらえないだろうと思う。
ここに来るまではそうしなければどうにもならなかったから、そうした。
けれど、ここにはもう、どうにもならない理由がない。
「……どうだろうって、行けって言われたら行くのか?」
「い、行けと言われたら……?」
考えたのは、ほんの少しだ。
(行く、だろうな)
「君はまだ子供なんだから」
だがおれが答えるよりスティアさんが話し始める方が早かった。
「大人に任せればいい。そういうのが仕事の人に」
「…………そう、ですね」
スティアさんの意見を、おれはとりあえず肯定する。
リズと同じ事を言うと思った。
けれど、リズが特別な意見を持っているのではないのだとも思う。
リズの意見は、きっと普通だ。
普通じゃないのは、そんな意見をひっくり返したくなる、自分の魔物退治の力。
「若い子は特に、こういう時、自分が何とかしなきゃ、何とかしてやるって血気盛んになるけどね。でも何もしなくたって大人がどうにかするんだから、待っていればいいんだよ」
行ってからスティアさんは、所狭しと積み上げられた本を上手く避けて、本棚から床に危なげなく着地した。
「………………」
灰褐色の瞳と目が合う。
「説教くさかったな」
「……はぁ」
「ははは、君がさ、ちょっと弟に似てたから、小言を言いたくなったんだ」
「…………」
おれは返せる言葉を見つけられず、沈黙した。
「……うん。生きて、大きくなってたら、今の君くらい」
「…………お、おとう、と……さん……って」
「もういないんだ。……あぁすまない、勝手に比べられていい気はしないか」
「………………」
「うん。……はは、気まずそうな顔だな」
スティアさんはそう言って笑う。
「す、すみません……」
おれは、取るべき態度を間違えたかもしれない。
おれが気まずい顔をしたから、大丈夫だと示すために、スティアさんは無理をして笑ったような気がする。
家族を失くしたという相手に気を使わせてどうするんだ、おれは。
「……君は優しい子だな」
「え」
突然、意味の分からない感想を言われておれは固まった。
「は……、はぁ」
「僕が勝手に話し出したことなんだから、君がそんなに気を使わなくていいんだよ」
「えぇ……」
まるでおれの思考を読んだかのような言葉だった。
おれはそんなに表情に出ていただろうか。
おれはただ、まともな受け答えもできずに、固まってしどろもどろになっていただけなのに。
そんなおれのどこに、優しいと感じる要素があったと言うのだろう。
「あ、あなたの方が……」
「ん?」
「優しいと思います……」
「えっ」
思ってもなかった事を言われたという風に、スティアさんは固まった。
なんでスティアさんがその反応なのか、おれにはさっぱり分からない。
固まりたいのはおれの方である。
「……ははは、僕ら何か変だな」
先に緊張を解いたスティアさんが息を吐きながら笑った。
「は、はは……」
釣られておれも息をもらす。
「あはは」
それはすぐに、ちゃんとした笑いになった。
「あははは、なんか、ほんと……、あはは」
何が言いたいのかもよく分からなくなって、とりあえず抑えきれない息を吐く。
「……いや、すみませ、……なんか、ほっとしちゃって」
「緊張させたかな? こんな所で一人で読書なんて怪しいことをしておいて何だけど、別に頭のおかしい変な人じゃないから安心してくれ。どれ、
本探し、手伝ってあげよう」
「え、いやそんな」
流れるような会話運びで手伝いを申し出てくれたスティアさんに、おれは反射で遠慮の言葉を口にしかけた。
が、スティアさんは既に腕をまくって床の本に視線を滑らせている。
それを見ておれは、すぐに遠慮を引っ込めることを決めた。




