第2話 魔法力ゼロ ★
魔法都市ミッドガルドでは、魔法エネルギーで列車が縦横無尽にレールの上を走る。
夜でも消えることのない煌々とした灯りも、道を行きかう術車も、快適な温度を作り出す空調もすべて、魔法エネルギーで動く。
「これさ……」
それらは全て、ここに住む住民たちの魔法力で動いているらしい。
あちこちに設置した集積装置が、住民一人ひとりから少しずつ魔力を吸収するんだとか。
最近は人口の増大が止まることを知らず、エネルギー過剰気味だとも言われているらしいけど、おれには全くピンと来ない。
なにせ、おれは魔法が全く使えないので、魔力のエネルギー効率なんて肌で感じることはないからだ。
「……これ、動かすのにさ、何人分くらいの魔法力使ってるのかな?」
学校に向かうため、都市の北へ向かう列車に揺られながら、おれはノエルとリズに尋ねた。
「えー、十人分くらいかしら?」
「おいおい、もっと多いだろ。一日動かすんだし」
「え、おれ三人分くらいかと思ってた」
「はは。んなわけあるかっつーの。術車だって魔法エネルギー供給しなきゃ二人は乗ってないと動かせないのに、こんな金属の塊たった三人で一日中動くかって」
「……そういうもんかぁ」
魔法に対する感覚の乖離が酷すぎて、自分がだんだん惨めに思えてくる。
「どうしたのルイ、なんか元気ない?」
「え、そう……?」
「あぁリズ。こいつ今日基礎魔法の授業なんだ。ちょっと労わってやって」
「え、そうなの? 可哀そう……。基礎魔法の先生って、うるさくて有名だよね」
人の悪口を滅多に言わないリズが『うるさい』と表現するのだから、おれの憂鬱な気分も分かってもらえるだろう。
いやもう、口うるさいとかいう意味でもそうだが、物理的にも相当にうるさいのだ。
「どうせおれ、魔法力なんて皆無ですよー。今時珍しい魔法音痴ですー。都市に魔法力も提供できてない非都市民ですぅー」
「すねんな」
「すねてないもん」
「よし。頑張ったらきっとリズがご褒美くれるぞ」
「えっ、何勝手に決めてるの?」
「ご褒美……?」
ノエルが適当にホラを吹いたのは明白だったが、おれはそこに今日の授業を乗り切る救いを見出した。
きらきらした目で、おれはリズを見る。
こういう時、リズは押しに弱い。
「ご褒美欲しい…………、それならおれ、頑張れる」
「……あー」
リズはおれの魂胆も全て見通したらしいが、その上で白旗をあげた。
「分かった……分かったから……」
「ご褒美、なに?」
「まぁ……そうね……可哀そうなルイのために、クッキーを焼いてあげよう」
「ルイのために?」
「可哀そうな、ルイのために」
言葉尻を捉えてツッコミを入れるノエルに、リズはきっちり反論する。
おかげでおれは二重に可哀そう認定を受けることになったが、そんなものはどうでもいい。
「リズのクッキー! うまいんだよな! 可哀そうでも報われる世界って素敵だな〜! あ、リズ、クッキーにチョコ入れて!」
「チョコチップクッキー? はいはい。ルイの好みは分かってるわ」
「あーもー、持つべきものはリズだな〜」
「あのさ、いちゃいちゃとハートは公共の場で飛ばすなって」
飛ばした覚えは全くないが、ノエルってばなんでもすぐに色恋沙汰にしたがるの、自分がそういうお年頃だからだろうか。
おれはリズに対してそういう意味は全く含んでいないけど、ノエルは含んでいるから、おれの行動が気になるのかもしれない。
だとしたら、気を使わないとだ。
「よし今度話し合おう」
「はぁ? なにを?」
「ノエルのハートについて」
「…………おい待て。お前の頭の中で今なにがどうなった?」
「いやいや、思春期ってやつだもんな。いいよな、青春」
「お前も似たような歳だろっ」
「ははは〜、おれは人生経験が三年だから思春期迎えるのは早いって〜」
「その理屈なんかおかしいだろ!」
「ふふふっ」
リズが唐突に笑い声を漏らした。
「リズ?」
「どうした?」
「ううん……」
リズは笑いを一旦収めてから息を吸い込んで口を開く。
「ハート、二人の方が飛ばしあってるなって」
「…………」
「…………」
おれたちは信じられない気持ちでお互いに顔を見合わせた。