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第26話 あなた達がついててあげて

「サラ!」


 おれが突き飛ばした女の子を、その名を呼んで受け止めた男がいた。

 二人は同じ形のローブを着ている。

 それはどこか、遠い記憶の彼方に見覚えが、あるような……。


「う……」


 キリ……と、頭の奥が痛む。

 上手く息ができない。


 サラと呼ばれた女の子は何が起こったのか理解できない顔で呆然としていたが、すぐに表情を引き締めた。

 身を支えてくれた男の手を振り払い、おれの手を掴んでくる。


「私を嫌ったっていい! でもしっかりして!」


 掴まれた手が熱い。

 全身からどっと汗がふき出した。


「いやだ……っ知らない! 離せ……っ!」

「アスカ!」

「おいやめろ!」


 誰かが、掴まれた腕を解放してくれる。

 心臓がうるさく早鐘を打っている。

 どくどくと、鼓動に合わせて頭が痛む。

 何かが頭の奥から迫ってくるような、嫌な感覚。

 体の震えが止まらない。どうしたんだ、どうしたんだおれは。


「あなたはアスカの何なの!?」

「何って、あんたこそ何だ!」


 近くで、どこか遠くで、誰かが声を荒げているのが聞こえる。

 誰なんだろう、どこに誰がいて、おれはどこに……、おれは誰で、……って、違う、そうじゃない。


「……っ、おれはルイだ……知らないっ、何も知らない……!」

「きゃっ、ルイ!」


 ふらついたのを誰かが支えてくれた。

 肩に回される華奢な手の感覚。


「おれ……は……知らない……いやだ……」


 支えてくれている手にすがって、ただただおれは訴えた。

 知らないのだ。

 だから。

 もう許してほしい。


「アスカ……どうし……、なにが……」

「記憶喪失なんだ! うちに来てからの三年分しか記憶がない! 知り合いなのは分かったからっ、混乱させんのやめてくれ!」

「……きおく、そうしつ?」

「そんな、アスカが……まさか」


「ぅっ、ぐ……」


 頭をえぐるような痛みが襲ってきて、立っていられなくなった。


「ルイ! しっかりして! ノエルっ、ルイが!」


 支えてくれる腕ごと、ずるずると地面に沈んでいく体。

 痛みに体の自由が奪われる。


「ルイ! 大丈夫か!? どした!? 具合が悪いのか!?」

「……った、いたい……っ、あたまが、……うぅ」

「っ大丈夫だ! じき治まる! 大丈夫だからな!」

「ルイっ、ここにいるから! ついてるからね!」


 あぁ、いつもの二人の声がする。

 どこにいるんだろうと顔をあげると、二人はすぐ傍にいた。

 なんだこんな近くにいたのか。

 それならもう大丈夫。安心だ。

 そう思っておれは、襲ってくる痛みに抗うのをやめて意識を手放した。


   ***


「ルイっ、ルイ!?」

「……大丈夫、気を失っただけみたいだ」


 ルイの息や脈拍を確認し、ノエルはリズにそう呟く。


「でもどうしよう、また倒れるなんて、さっきまで元気だったのに」


 不安そうにルイの頭を胸に抱え込んだリズは、近くに人が立ったのに気付いて顔を上げる。

 金髪の少女が真っ青な顔でルイを見下ろしていた。


「……ちょっと、診せて」

「や、何するんですかっ」

「少し触れるだけよ。この子が使うのと同じ体系の魔術を扱えるの。原因が探れるかもしれない」

「………………」


 リズは判断に迷ってノエルに視線を送った。

 ノエルは、無言で少女を見つめている。

 信じていなければすぐ否定の声をあげているはずである。

 とりあえず了承しているのだと悟って、リズも少女の言葉を受け入れた。

 診やすいように体勢を直す。


「…………」


 サラは静かに膝を付きルイの額にそっと手を触れた。

 綺麗なラインを描くサラの横顔と、苦しそうに眠っているルイの顔に、リズは交互に視線を送る。


「…………っ」


 サラははっと息を呑むと、ルイの額に触れていた手を引っ込めた。

 そして弾かれたように立ち上がる。

 そしてふるっと肩を震わせた後、さっと踵を返して元来た道を帰り始めた。


「お、おいあんた!」

「ねえ! 何か分かったの!?」


 後ろから声をかけられて、サラは二人を肩越しに振り返った。


「……命には関わらないから、あなた達がついててあげて」


 そう言い残し、急ぐように立ち去る少女の後を、連れの男が追う。


「え、知り合いなんじゃなかったの……?」

「……そ、そんな風だったけど。……何だったんだ」

「いいわ、そんなの後よ。ルイを休ませてあげなくちゃ」

「あ、あぁ、そうだな」


 三人より前方にいたノアとエリックが、騒ぎに気付き荷物を放り出して駆けてくるのを、ノエルは視界の端に捉えていた。


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