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第23話 真剣にそう提案した

 救助は来ないまま、二日後の朝には食糧が尽きる。

 それはかなりまずい事態だと思う。


「あー、ってことはだ」


 頭をぽりぽりかきながら、ロジェさんが話し出す。


「つまり、魔物に襲われるの覚悟でその都立図書館に行くか、餓死(がし)するのと魔物の掃討が終わるのとどっちが先かサバイバルをするか、二つに一つというわけだ」

「身も(ふた)もない説明、ありがたいね」


 ロジェさんがまとめた結論に、クライドさんは肩を(すく)めて皮肉な笑みを浮かべてみせた。


「待ってください。その情報をどうして俺たちに?」


 ノエルの疑問はもっともである。

 そんな大事な話、誰彼構わず話していたらすぐパニックになるだろう。

 本来なら、責任者やリーダーの人たちだけで共有されて話し合われるべき問題である。


「まぁ、本当なら伏せておこうという話になっていたんだが……」


 クライドさんの言葉に舎長さんも難しい顔をして小さく頷いた。

 舎長さんとクライドさんだけの情報だったらしい。


「……意見が割れるのは目に見えていたしな。グループが分裂して食糧の分配でモメても先は暗い。それに移動はやっぱり全滅の危険もある。だけど……」

「ルイを頼りに図書館への移動を提案しようって言うんですか」


 クライドさんの説明を先回りして、ノエルは疑問を投げかけた。


「あぁ。そのつもりで……なんだ、何か、否定的だな」


 ノエルがもろに不機嫌そうなオーラを出す横で、リズも同じように怖い顔をしている。

 そのことに気付いたクライドさんは、戸惑いの表情を浮かべた。


「何かマズイか? さっきの魔物退治の力は本物だった。問題なさそうだと思ったが……」

「確かに倒せてはいますけど、……昨日からもう三度も戦ってるんです。丸一日も経たない間に何十匹も相手して、本当に外生まれだとしても、そろそろ魔力の回復も追いつかなくなる頃だ。それに、地震が起こる前からルイは体調を崩してて、いつ倒れるか分からないんです」

「そうなのか?」

「あ、えっと……まぁ、はい」


 聞かれえたら違うとは言えない。

 倒れたのは事実だ。


「すみません……」


 誰もそんなことは言っていないのに、この緊急事態に病気だなんて役立たずにも程がある気がして、おれは思わず謝罪を口にした。


「いや、こっちこそすまない。それじゃあ移動は無理か……」

「移動の途中でもしルイが倒れても、ルイ無しで魔物をなんとかできますか?」

「警護屋が俺たち二人だけじゃ、さっきみたいな群れは無理だぞ。正直全滅もあり得る」

「じゃあどうすんのよ」


 ぶっきらぼうにナタリアが尋ねる。


「食糧が無くなった後、誰かが吸収装置(プラント)を復旧させて、魔物を全部倒してくれるまで、飲まず食わずで待ってましょうって?」


 ナタリアの言葉は、その場のみんなの顔を暗くさせた。


「それ、全員が文句も言わずに納得すると思う?」

「やっぱり、意見は割れると思うか?」

「割れないわけないじゃない。目の前で人が死んでるの見てる人いっぱいいるのよ? 死にたくないって皆必死よ。みんな理性で平気なフリしてるけど、内心ピリピリしてるわ。……気付いてる? あたしたちがこうやって話してるの、みんなチラチラ見てるわよ」


 言われて周囲を窺って見ると、確かにナタリアのいう通り、おれたちの方に視線を向けてくる人がたくさんいる。

 遠巻きにはされているが、おれたちが何を話しているのかは気になるようだ。

 そりゃまぁ、この建物の責任者の舎長さんや、都警隊のクライドさん、それに警護屋さんもいるのだから当然か。


「食糧に余裕がないのが知られるのは時間の問題だしな……」

「もともと都警舎は避難所指定されとらんからな。備蓄もそう多くはない」


 今度は舎長さんが申し訳なさそうである。

 でもそうなると、舎長さんは昨日、食糧の備蓄がさらに足りなくなるのを分かった上で、おれたちを受け入れてくれたということになる。

 それも、嫌な顔ひとつせずに。


「おれたちが避難してこなければ、もっと食糧は持ってたんじゃ……」

「事実としてはそうだがな、流石にそれで市民を見捨てたりはせんぞ。都警隊は都市民を守るためにおるんだ」

「…………」


 おれはなんとなく、言葉を続けられなくなって、黙り込んだ。


「ねぇ、何も都立図書館まで行かなくても、近くに食糧を備蓄してる避難所はないの? そこまでなら、なんとか移動できたりしない?」

「あるにはあるが、避難所に指定されてる建物はだいたい、横に広くて窓も多い。魔物に囲まれて一度に襲われたら侵入を防ぎきれんのだ」

「おいちょっと待て」


 パチンと指を鳴らしながら待ったをかけたのはロジェさんだ。


「なら地図とその情報をくれ」

「……どうする気だ?」

「守りの戦力を割くことになるが、強行軍で食糧だけ調達してくる」

「あぁ、なるほどその手があったか」


 舎長さんは手で膝を打った。

 その横で、クライドさんは変わらず暗い顔をしている。


「それは、どれくらいの確率で成功して帰って来れる?」

「そりゃーどんな数の魔物と遭遇するかによるな。さっきみたいな大群で来られたら、まぁ死ぬね」

「それじゃダメだ。そんな危険な賭け、リスクが高い」

「じゃあみんなで飢えるか?」

「食糧がなくなってもすぐ死ぬわけじゃない。餓死する前に魔物除けが復旧する可能性は十分あるだろう」

「みんながその可能性を追ってくれればいいけどよ。今は、食糧不足がバレたら意見割れが起きてまずいっつー話をしてんだろ」

「なんとか説得して……」

「甘いこと言ってても始まらねぇだろうが」


 二人の議論は熱が入って、険悪なムードに突入しそうである。


「移動……」


 おれは小さく呟いた。

 全員が、おれの方を見る。


「移動しましょう。その都立図書館に」


 おれは真剣にそう提案した。


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