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第22話 ちゃんと名乗れよ

「兄貴!」


 ナタリアがそう呼んだのは、都警隊の制服を着た、ナタリアと同じ金髪の男の人だった。

 年はたぶん、二十の半ばくらいだろう。


 そしてそのすぐ後ろには、警護屋の一人と、舎長さんがいた。


「……ナタリア、この少年と知り合いか」

「え、うん。学校で授業がいくつかかぶってんの」

「そうか、同級生か」

「そうよ。あ、紹介するわ。言ってた兄貴」

「クライドだ。クライド=クリフトス。都警隊の隊員をしている。よろしく」


 すっと目の前に手を出されて、おれはおっかなびっくりその手を握り返した。

 ノエルとリズも続いて順番に握手をする。

 すると流れのように警護屋の人からも手を差し出された。


「ついでに自己紹介、便乗させてもらうぜ。俺はロジェ=ブレイカー。向こうにいるのが双子の弟のユーグで、見ての通り警護屋だ」

「俺は舎長のジイル=コンスティンだ。といっても書類仕事ばかりで現場には不慣れでな、肩書きに似合わず役には立たん」


 次々と大人に自己紹介されて、おれは正直ビビっている。


「えと……ルイ、です」

「ルイ=ウィルマリアな。ちゃんと名乗れよ。うちの姓を」

「あぁぁ、うん」


 さっそくダメ出しされている。


「ノエル=ウィルマリアです。さっき話してたの聞いたと思いますが、身元不明のルイを引き取ったのがうちで、それで名字が一緒です」

「なるほどー。じゃあまあ、お前さんたちは義理の兄弟みたいなもんか」

「そうですね。で、こっちが隣に住んでる……」

「リズです。リズ=スプリング。よろしくお願いします」


 二人とも物怖じもしないで立派過ぎるんですけど。


「なぁ……じいちゃんは?」


 握手を終えてから、おれは思わずノエルに小声で尋ねた。

 ここに大人がいてほしいと思ったのだ。

 だがノエルは小さく首を横に振る。


「さっきの魔物の襲撃で、気分悪くなった人がいて診てる」

「あぁ……」

「エリックさんも手伝ってる」

「なるほど……」


 となると、自分でちゃんと対応しなくちゃいけないわけだ……。

 いや本当、初めましての人は苦手だし、その上相手は歳の離れた大人だし。憂鬱な気分にもなるというもんだ。


(いや、こんなんだから、ノーラさんにもビビられちゃうんだよな)


 パン屋のノーラさんとの一件で、ちゃんと人間関係を築いてこなかったことを反省したばかりである。


(ちゃんとしないと)


「いやー、本気でビビったぜ。一人で片しちまうんだもんな」


 おれがそんな決意を新たにしていると、ロジェさんが陽気に話しかけてきた。


「マジで廃業しようかと思ったくらいだ!」

「えぇ……」

「や、しねえよ? 都市生まれが外生まれに魔物狩りで劣るのは当然だしな。何度か出くわしたことがあるが、アイツらは確かに強かった」

「あ、ほんとにいるんですね、外生まれって……」


 ここに来ておれの出生に信憑性が生まれる。


「いるいる! けどまぁ、お前さん、外生まれでも強い方だろ?」

「え、そうなんですか?」

「だって呪文も唱えてねぇもんよ! あんな神業見たことねぇや!」

「……あー」

「ま! 何にせよ助かったっつーことで!」


 ロジェさんはにっかりと笑っておれの肩をばしばしと叩いてきた。

 いたい。


「おーい、そろそろ本題に入ってもいいか」


 おれが痛がる顔を見たのか、クライドさんが助けに入ってくれた。


「おぅ、すまんすまん」

「……今朝の話なんだが。飛空伝信(エアリング)の信号を拾ってな」

飛空伝信(エアリング)?」


 耳慣れない言葉を聞き返す。

 するとみんながおれを一斉に振り返った。


「え、もしかして……知らないのおれだけ?」


 みんなが無言で視線を合わせあっているところからすると、本当にそうらしい。

 なんかちょっとショックというか、なんというか……。


「まぁ、この三年の間に話題に出たことなかったんだろ」

「えぇ……」

「あー、飛空伝信(エアリング)ってのはだな」


 クライドさんが、すっと手を挙げて説明役を買って出てくれる。


術導線(ワイヤー)を通して連絡する通信と違って、術機で信号を目に見えない波にして空気経由で伝える通信方法だよ。多少不安定だが、今は地震で術導線(ワイヤー)があちこちで切れてるみたいだから、こういう時には大活躍なんだ」

「それは……誰でも使えるんですか?」

「あぁ、術機があれば。その術機はプロじゃないと作れんだろうけど」

「へぇ」


 どういう仕組みでそんなことができるのか、さっぱり分からない。

 これはどうやら、できない確信がある方の魔法だ。


「で、話を戻していいか?」

「あ、すいません」

「いや大丈夫だ。……で、だな。その通信なんだが、どうやら都立図書館が広域避難所になってるらしいって情報が入ったんだよ」

「避難所?」


 隣から疑問を挟んだのはノエルだ。


「いや、本来はそういう使い方される施設じゃないんだが。まぁ避難所というか、魔物の対策基地だな。とにかく、魔物の難を逃れた人たちが、敷地に立てこもって魔物の掃討作戦を始めたらしい。どうやら戦力になる人間も多く集まってるようでな。周辺の食糧もそこに移してるって話だ」


「近いんですか?」

「近いうちには入る。同じ中央政府区域(セントラルエリア)内だからな。ただ、こっちは南側で図書館は北だが」

「結構遠いですね」


 ノエルは考え込むようにして呟いた。

 歩けば確実に魔物と出くわす羽目になるだろう。


「だが嫌でも今日明日中には移動を始める必要がある」


 渋い顔で言ったのは舎長さんだった。


「救助を待たずに?」


 ノエルはすかさず疑問を投げかける。


「待てるもんなら待ちたいのは山々なんだが。ここの食糧の備蓄はそこまで余裕がないもんでね」

「………………」


 その言葉は全員を一瞬沈黙させるだけの力があった。


「今いる人数を考えると、食糧の備蓄は持って明後日の朝までだ。道中の食糧を考えると動くなら明日までには出発したい」


 舎長さんの言葉には明確なプランがある。


「救助を待つことも考えたが、都市中に魔物がうろついている状況だと、要救助者全員を安全な場所に移すより、外壁の魔物よけの吸収装置(プラント)を復旧させて都市の中の魔物を掃討する方がどう考えても早いだろう」


 誰もが難しい顔をして沈黙した。

 舎長さんの説明は単純明快で、異論を唱える余地がない。


「……つまり、救助は来ないわけね」


 状況をまとめたナタリアの声は、開き直ったかのように妙に明るかった。


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