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第18話 全部の命が平等だったら

「魔物の群れだ! ……っ、でかいぞ!」


 おれはその言葉で一気に目が覚めて飛び起きた。


 ロビーに緊張感が走る。


 窓の外は明るい。既に朝だった。

 魔物が活発になる夜が明けて仮眠をとっていたらしい警護屋の二人も跳ね起きたのが見えた。

 ノエルたちは分けてもらった食料の備蓄で食事の準備をしていたらしく、缶詰を開けようとしている体勢で固まっている。


「南からだ! 武器がある奴は集まれ!」


 すでに魔物との戦闘は何度か経験しているらしく、多少もたついてはいるものの、みんな自分がどう動けばいいのかは分かっているようだった。


「女と子供は窓から離れて奥に行け! 破魔符(ディスタグ)の準備! 窓を固めろ! 何度壊されても張りなおせよ!」


 ロビーに指示が飛び、武器を手にした男の人たちが窓やドアに張りつく。

 中には昨日おれたちとここに辿りついた若い男の人も混ざっていた。

 戦える者として説明を受けたらしい。


 おれはどうやら“女と子供”のくくりに入って説明を受けなかったようである。


「ルイ、行くなよ。また倒れるだろ」

「う……」


 ノエルに先手を打たれる。


「分かってるのか? 倒れて意識を失うとか、マジで本当ならすぐ検査して入院くらいの重症なんだからな? もうお前がやらなきゃいけない状況でもない。じっとしてろ」

「……う、ん」


 おれは後ろ向きに頷いた。


「くそ! なんだあの数!」

「見たことねぇぞ!」


 警護屋の二人が焦りの声をあげる。

 どうやら魔物は相当な数がいそうである。


「……あの、窓に貼ってるのは?」

「あぁ、破魔符(ディスタグ)だな」


 誰にともなく尋ねたら、エリックさんが答えてくれた。


「そのまんま、破魔(はま)の魔法陣を描いた符だ。魔物よけだな。普段はもう少し効果を高めた魔術具にして、都の外に出る時の自衛に使う」

「じゃああれは効果少ないの?」

「多少なりと忌避効果はあるが、物理的な防壁じゃないから、この状況じゃ気休めだろうな」


 魔術具店を経営するだけでなく、実際に魔術具を作る職人でもあるエリックさんは、魔法陣などの魔術には詳しかった。


「そうなんだ……」


 警舎のロビーは広い。

 それは敷地面積も大きいということで、つまり窓の数も多いことを意味している。

 窓自体はそれほどの大きさでないのが救いだけれど、一つでも破られたら中で起きる被害は悲惨なものになるのは間違いない。


 どうしようか、と周囲の様子に目をやって、おれはあることに気が付いた。


「…………」


 ちらちらと、こちらを窺う視線。

 昨日一緒に逃げてきた、おれが戦えることを知っている人たちのものである。

 戦えるのに、引きこもって守られる側に回るのかと、そう思っているのは間違いない。

 それでも直接言ってこないのは、おれを病人だと思っているからなのだろう。

 実際、魔物と戦った後に倒れてノエルに背負われていたのは、全員が知っている。


 でもおれは、自分が病気だという風には思えなかった。

 それは何も根拠がないけれど、魔物に対して戦って勝てるだろうというのが分かるのと同じ感覚である。


「ノエル……」

「駄目だからな」


 何も言っていないのに、名前を呼んだだけなのに、即座に否定してくるとか流石すぎやしないだろうか。


「大丈夫だよ」

「大丈夫ってお前、昨日も倒れておいてっ」

「ルイ? 何考えてるの? 絶対駄目だからね?」


 隣にいたリズも、おれとノエルの最低限以下の会話で事情を察してくる。


「でもこのままじゃ……」

「プロの人がいるんだから、大丈夫だよ。大人に任せるの」

「でも、群れが大きいって言ってるし」

「だから危ないんじゃない。昨日は倒れたの、全部倒し切ってからだったけど、途中で倒れたら魔物に殺されちゃう」

「いや、大丈夫だよ」

「説得力ないからな、それ」


 確かに、それはそうである。

 説得力が皆無なのは、おれも分かっている。


「だけど、たぶん、おれが行かないとどうにもなんない気がする」

「気がするってなんなんだよ!」


 とうとうノエルは声を荒げた。


 気がするものは気がするのだ。

 外の魔物の気配は、警護屋の二人が言っていた通り、多い。

 かなり殺気立っているのも分かる。


 だけど戦闘要員として配置についている人たちの戦意は、みんながみんな高いわけではなさそうである。

 魔物なんかと戦ったこともないのに、立場上そこに立たざるを得なくなった人たちがほとんどだろう。


「ノエルだって、本当に今のメンツだけで大丈夫とは思ってないだろ……」

「それは……」


 魔物の気配が分からなくても、魔物を目にした見張りの人や、窓から外を窺う人たちの緊張感、警護屋の二人の声の焦り具合は分かるはずだ。


「どこの窓も破られることはないって完全に信じるようには見えないよ」

「そうなったらみんなで戦うだけだろっ」

「じゃあ、おれも戦うよ? だけど、入ってきた魔物があちこちで人を襲ったら、さすがに全員を守りながらは無理かもしれない」

「……それは……っ、しょうがない……」


 ノエルがしょうがないとは思っていないのは明らかだったが、苦しそうにそう答えを絞り出す。


「どっちにしろ、おれ戦うことになるよ。だったら、誰かが死ぬことになるかもしれない時じゃなくて、今のほうがいいじゃん」

「……っ、それはっ!」


 ノエルはもう一度声を荒げた。


「全部の命が平等だったらの話だろ!」

「…………」


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