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第13話 確かにそれは言われていないけど

「二人とも。移動するぞ」


 しばらくしてノエルがやってきて、そう言った。

 瓦礫の中から使えそうなものをかき集めてきた袋を背負っている。


「移動って……、どこに?」

「他にも魔物がいたら危ないから、北に……。中央政府区域(セントラルエリア)に行こうってじいちゃんが。魔物よけが壊れてて、これからまだ魔物が入ってくるかもしれないなら、なるべく外側から遠く、中心に向かった方がいいって」

「家にこもってた方が安全じゃない……?」


 不安そうにリズは尋ねる。

 だがノエルは難しい顔をして首を振った。


「窓がやられてるからこもれないんだ」


 ノエルの言葉は正しい。

 魔物相手の場合、姿を隠していればいいというものではないのだ。


「魔物は生き物の気配狙ってくるし、木製の扉くらいなら破ってくるしね」

「おぉ、魔物に詳しくなってんな」


 ノエルに言われておれははっと我に返る。

 確かにその通りだ。記憶が戻ったわけじゃないのに、魔物を倒してから、魔物に関することだけ妙に知識も感覚も増している。

 そのことに関してのノエルのノリが軽いのが、本当に有難い。


「だから中心部の方にいけば、頑丈な建物も多いだろうから、立てこもれそうな建物があるだろうってことでさ」

「そうなのね。分かった」


 リズが立ち上がったのに合わせて、おれも立ち上がる。

 すると、通りにいた他の人たちも立ち上がり始めたのが気配で分かった。


「どこか……、どこか行くのか?」


 誰かからそう問いかけられる。

 ノエルは、さっきおれたちにした説明を、みんなにした。


「それなら、一緒に行かせてくれ。うちも家は窓がやられて、立てこもれそうにないんだ」


 一人がそう言い、近所のほとんど、ほぼ全員が同意を示す。

 その様子を見ていたリズが、おれの服の裾をギュッと握ってきた。


「リズ……?」

「みんな、魔物が怖いから」

「え、……あぁ」


 そこでようやっと気付く。

 みんな、魔物を倒せるおれの傍にいたいのだ。


「そりゃそうだよな」

「でも、ずるくない……?」

「え、何が?」

「誰か一人でも、さっきのこと、ルイにお礼言った……?」

「…………」


 確かにそれは言われていないけど。


「でも、まぁ……リズたちはずっと友達だったから、変わらず接してくれてるけど……、他の人からしたら、どうしていいか分かんないところはあると思うよ」


 おれが、じいちゃんのところで何年か前から世話になっている身元不明の居候であるというのは、近所では知られた話である。

 何せある日突然、診療所の裏手で大怪我をして倒れていたところを保護されたらしいのだ。

 近所で噂にならないわけがない。


「でもルイ……」

「しょうがないって」


 近所の人たちからしたら、数年前に行き倒れていた身元不明の居候が、急に魔物殺しをやってのけた、ということになる。

 それは遠巻きにもしたくなるというものだろう。


「ついてくるのは構わないです」


 ノエルは近所の人たちにそう言う。


「でも、魔物が出た時の安全は保障はできません」

「な……なんでだよ」

「さっきその子が魔物をやっつけたの、見たわよ」

「俺もだ。魔物が出たら守ってくれたっていいだろう」

「じ、自分たちだけ助かろうっていうのか?」


 いろんな声が一斉にあがった。


「違います。そういうわけじゃなくて」


 おれはふと、ノエルが荷物と一緒に、何に使うのか分からない棒を背負っているのに気が付いた。


「さっきは上手く倒してくれたけど、ルイは今、具合が悪いんです」

「具合……?」

「病気なの?」

「詳しくはちゃんと調べられてないので分からないですが、倒れることもあって、魔物が出たときにもちゃんと戦えるかは分からないんです」


 ノエルの説明でおれはようやっと、ノエルが背負っている棒の意味に気が付いた。

 次に魔物が現れたら、ノエルも戦うつもりなのだ。

 あの棒を振り回して。


「ノ、ノエル……」

「いいから黙ってろ」


 後ろからおれがかけた声を、ノエルは制止する。

 おれも、具体的に何か言いたいことが明白だったわけではないので、言葉が続かない。


「なので、魔物が出た時、ルイが戦えたらラッキーくらいだと思ってください。まずは自分の身はできるだけ自分で守れるようにお願いします。戦えない人は自分で逃げてください」

「そんな……」

「助かると思ったのに」

「そうは言っても戦ってはくれるんでしょう?」

「でも病気で倒れるって……」


 ノエルの元に集まっていた人たちはざわめいている。


「それでもいいなら、ついてきても構いません。出発は十分後です」


 ノエルの宣言で、近所の人たちは思い思いに行動を始めた。

 その場に立ち尽くす人。出発に向けて動き出す人。武器になりそうなものを見繕いに行く人もいるようだった。


「な、なぁ、ノエル。おれなら大丈夫だよ。魔物が出たらまた戦うから」


 戻ってきたノエルにそう声をかけるが、ノエルは眉間にしわを寄せたままだ。


「ルイ一人に危ないことはさせないからな」

「え、でもまさか、ノエルその棒で戦う気じゃ」

「これでもないよりマシだろ」

「いやいや無理だって。下手に自分で戦ったりしたら怪我するから、魔物が出たらおれに任せて」

「さっきから急に具合が悪くなるやつ一人に任せられるか」


 そう言われると、反論ができない。


「……まぁ、そう、だけど」

「もう出くわさないことを祈るしかねぇよ」

「う……ん」


 それは無理だと思ったが、おれは頷くしかなかった。

 いざとなったら、ノエルや他の人が戦うような羽目になる前におれが片付けるしかない。


「分かったら出発の準備だ。行こう」

「あ、うん」

「待ってノエル」


 動き出したノエルの背を、おれとリズは追いかける。


 あぁいつもの感じだと、おれはこっそり思った。

 いつだってノエルが先に歩き出し、それをおれとリズが追いかけるのだ。


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