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第12話 平気じゃないふうしておいて



 魔物に殺されてしまった人たちの最低限の遺体の安置を行ったのは、主に医療の知識のあるじいちゃんとノエルだった。

 二人が中心になって、近所の人やエリックさんも足を引きずりながら手伝っていたが、おれはリズと一緒にその役割からは外されていた。

 さっきの頭痛がまた起こるかもしれないから病人は休んでいろというのが沙汰だったけれど、魔物退治の疲れを労られているのは明らかだった。

 

「さっきの地震で、魔物よけの吸収装置(プラント)が壊れたんじゃないかって」


 診療所の中から外に運び出した待合の長椅子に腰掛けていたら、エリックさんと何やら話していたリズが戻ってきて、そんなことをおれに告げた。


「魔物よけって……」

「都市の中だと市民向けに出力調整されてるやつ。都市の外壁のやつは、外向きに最大出力で設置してあるんだって」

「あぁ……生身が維持出来なくなるんだっけ」


 学校の授業で習ったところによると、生身を生まれ持たない魔物は、魔力を一定以上奪われると実体化した生身を失ってしまうらしい。

 そうなった魔物は、大概そのまま霧散して死ぬことになる。強い魔物なら死にはしなくても、回復の為に長期の眠りについてしまい、行動不能になるという。


「そう。だから普通は魔物なんて都市に近づいても来ないんだけど、地震でそれが壊れたんじゃないかって」

「そっか……」


 さっきは有り得ないとばかり思っていたが、理由が分かれば納得できるものはある。

 これであと有り得ないのは、おれが魔物を倒せたことだけだ。


 それともう一つ。


「結構入ってきてるみたいだ」


 おれがなぜか、近くにいる魔物の気配をなんとなく感じ取れるようになっていること。


「分かるの?」

「うん……意味分かんないけど」


 本当に自分で自分の意味が分からない。


「また……襲ってくると、思う……?」

「…………」


 おれは答えるのを躊躇った。

 襲ってくると答えるのは簡単だけど、それではリズを怖がらせてしまう。


「……もし、襲ってきたら、またおれが戦うから」

「でも……」

「大丈夫。さっきの、おれひとつも怪我してないんだよ」

「…………」


 リズは何か言いたげに黙り込んだ。


「あんな魔物の群れ相手に戦って、無傷だよ? おれ強いみたいだからさ」


 言っているとおれは自分が化け物にでもなったような気分になったが、それはおれだけのものだ。

 リズを安心させられるなら、おれの気分なんてどうでもいい。


「ルイ……」


 リズは何か不満そうな顔をしておれの名前を呼んだ。


「でも、ルイさっきから具合悪そうじゃない。頭が痛いって、地震の前も」

「あぁ……」

「きっともうすぐ都警隊の人たちが助けに来てくれるから、ルイはもうあんまり無理しないで」

「まぁ、うん……任せられる人がいるなら」


 おれの答え方にリズは多少不服そうに口を尖らせたが、ひとまずそれ以上の反論はされなかった。

 だが突然、両頬を勢いよく両手でばちんと挟み込まれる。


「うぇっ、何!?」


 ほっぺを両方挟まれているせいで変な声が出る。


「平気なフリはやめて!」

「……え、あ」


 急に怒られて、咄嗟に反応が出来ない。


「フリ、なんて」

「どう見ても平気そうじゃないから!」

「…………」


 そんなことを言われても、分からない。


「あたしたちに取り繕ったってしょうがないでしょ」

「そんな、つもりは」


 リズはおれの頬から手を離して、今度はおれの手を握り込んだ。


「冷え冷え」

「あ……」

「あたしたちだって驚いたんだから、本人のルイはもっと驚いたに決まってるわ」


 確かに言われてみれば、その理屈は最もだと思う。


「びっくりしたよね? 魔物倒しちゃって」

「……うん」


 気がついたら、素直にそう答えていた。


「気持ち、落ち着かないよね」

「うん……」


 リズの言葉は、心地がいい。

 自分でも認めていなかった自分の感情が見えてくる気がする。


「ふふ、やっぱり全然平気じゃないじゃない」

「そう、みたいだ」

「じゃあちゃんと、平気じゃないふうしておいて」

「じゃないふう……」


 それは一体どんなふうだろうと、おれはふと周りを見回した。

 通りには、魔物の襲撃に逃げ遅れた近所の人たちがたくさんいる。

 皆、震える体を小さくして、家族や知り合い同士で固まってくっついていた。


「…………」

「平気じゃないなら、あたしもそうだから……」


 リズはおれの隣に腰をおろして肩に寄りかかってくる。

 リズの体温は、おれに、自分の体が冷え切っていたことを自覚させてくれた。


 今だけは何も考えなくていいか。

 そんな気になって、おれもリズの方へと寄りかかる。

 ただそうして、じっとしていた。



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