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アデルと見つめ合っていると、突然部屋にカイさんが現れた。いつも魔王軍の人たちは神出鬼没だ。


「ついさっき王国でユーデリックの気配がしたけど、どうかしたのか?」


 カイさんの問いに、アデルがアーサーのことを説明する。すると、カイさんはニヤリと楽しそうに笑った。


「へぇ、なるほどね。エアリスにそんな仲の良い異性がいたとは。そいつとはどこまでいったんだ?キスくらいはしてるのか?」


 カイさんの質問に、なぜかアデルから異常な殺気が現れる。怖い、カイさんが来るとアデルは突然怖くなる。お二人、そんなに仲良くないのかな……?


「な、カイさん何か勘違いしているようだけれど、アーサーとは別に何もないですから!」

「ふーん、でもそこのところ、アデルだって気になるだろ?異性だし、エアリスにその気が無くてもその男はエアリスのことどう思ってるかなんてわからないしなぁ」

「アーサーはそんな人じゃないですってば!」


 否定してアデルを見ると、ものすごい冷ややかな視線を向けてきている。アデルがどうしてそんなに冷たい視線なのかわからない。わからないけれど、ものすごく居た堪れなくて目線を逸らしてしまった。すると、アデルは静かにため息をついて口を開く。


「カイ、そんなことよりここに来たのなら何か有益な情報を持ってきたということだろうな」

「あぁ、そうそう。新しい聖女様はどうやら魅了の力があるらしい。手当たり次第そこらへんの男どもを魅了して良いように使ってるみたいだな。王や王子も魅了で騙されてる。全く、いけ好かない女だ。それから」


 ケッと吐き捨てると、カイさんはまた不適な笑みを浮かべてアデルをみる。


「急に王城内の一部が騒がしくなった。エアリスが生きてると知って慌ててるようだな。さっきのアーサーとかいう男が言ったからなんだろう。国内に知れ渡る前にこっそりとエアリスを始末したくて仕方ないみたいだな、数日中にこちらに攻め入るかどうか検討中のようだぜ」

「そうか、詳細がわかったらまた報告しろ」

「任せとけ」


 カイさんは腕を組んで大きくうなづいてから、私を見てにっこりと微笑んだ。カイさんもアデルの異母兄弟というだけあって見た目が美しい、全く心臓に悪い兄弟だ。


「それじゃエアリス、またな」

「ちょっと待て」


 挨拶をしていなくなろうとしたカイさんに、アデルが声をかける。一体どうしたんだろう?


「俺は最近不機嫌だったか?」

「は?」


 突然の質問にカイさんはポカンとしている。そして私も同じようにポカンとしてアデルを見た。なぜそれをカイさんに質問したのだろう。唖然としていると、カイさんは私とアデルを交互に見てほう、と呟いた。そんなカイさんを見て、アデルは罰の悪そうな顔をしている。


「……いや、いい」

「あぁ、えっと何?もしかしてアデル、自覚なしだったのか?」

「何がだ」


 アデルがムッとしてそう言うと、カイさんは楽しそうに笑い出した。


「あっははは!まじか!いつもは冷静沈着、何事にも動じずにむしろ高みの見物くらいの余裕をかますお前がねぇ。いや〜楽しい楽しい」

「だから何がだ!」


 アデルが声を荒げると、カイさんは笑顔をしまって突然真顔になる。そしてアデルをじっと見つめながら静かに低い声で言った。


「教えてやらねぇよ。それくらい自分で考えろ。まぁ、わかった頃には他の誰かに奪われてるかもな。そうなってからじゃ遅いんだよ、ばーか」


 じゃあな、と言った次の瞬間にはカイさんはいなくなっていた。急に静かになる部屋。居た堪れない、とてつもなく居た堪れない。


 無言に耐えきれなくなって何か言おうかと口を開きかけると、アデルがじっと私を見つめて手を伸ばしてくる。その手はなぜか顔の目の前まで来て、指先がそっと私の唇をなぞる。え?何をしているの?


「お前は、あのアーサーとかいう男とキスをしたのか?」


 ジッと私を見つめるアデルの瞳は戸惑うように揺れている。どうして、そんな顔をしているのだろう。アデルの触れる指先が熱い。胸がドキドキとうるさくなっている、どうしよう。


 キスなんかしていないと言いたい、そして何より今すぐにでもこの状態から逃げ出してしまいたいのに、アデルの瞳に囚われて身動きが取れない。


 アデルの指先が何度か私の唇をなぞると、その手は静かに離れていった。アデルはその手をジッと見つめて静かにぎゅっと握りしめたかと思うと、すぐにアデル自身も私から離れていく。


「明日、幹部会議を開く。エアリス、お前も準備しておけ」


 そう言って、アデルは部屋から姿を消した。新しい聖女のこともあるし胸を高鳴らせている場合では何のだけれど、まだ心臓がバクバクとうるさい。


 アデルは一体どういうつもりなんだろう、どうしてあんな質問をしたのだろう?わからないことだらけだ。静かにため息をつくと、部屋にその音が鳴り響いた。



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