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 あたり一面眩しい光に包まれて前が全く見えなくなった。眩しくて目を瞑っていると、瞼の裏の光がだんだん落ち着いてくる。うっすらと目を開けると、そこは先ほどまでいた戦場ではなく、魔王城の見慣れた一室だった。


「えっ、戻って、きた?」


 呆然として部屋を見渡すと、さっきまで隣にいたはずのアデルが目の前にいる。私もアデルもなぜかソファに座っていた。いつの間に?これもアデルの力なのだろうか。


「さて、もう一度聞こう、なぜあの場所にいた?エアリス」


 静かに、アデルが聞いてきた。感情が全く読めない表情をしているので逆に怖い。これなら、今までみたいに不機嫌だとわかっている方がまだマシかもしれない。


「えっと、戦場にやたら強い人間、騎士団長のような人間がいると聞いて、多分知り合いだと思って……」

「あの男、アーサーと言ったか。仲がいいのか」

「仲がいいというか、私と同じように無駄な殺生はしたくないという考えの持ち主だから、王国にいた頃は気が合ったの。だから、どうしてあんな戦い方をしているのか驚いてしまって」


 私の話に、アデルは相変わらず無表情だ。


「新しい聖女に騙されていたようだったな。あの男、恐らくエアリスが生きていると聖女と王に進言するだろう。そうなった時、聖女は恐らくあの男を捕縛して投獄するだろうな。最悪、命を奪うか……」

「っ!どうして!?」

「新しい聖女と王は、エアリスが生きていることを王国内では秘密にしている様子だった。だとすれば、お前が生きていることを知っている人間は邪魔なだけだろう。秘密をどこかに漏らされては困るだろうからな」

「そんな……それをわかった上でアーサーにあんなことを言ったの?酷いわ!」


 新しい聖女に私が生きていることを伝えろと言ったのはアデルだ。アーサーはきっとそれを実行するだろう。今こうしている間にもアーサーは殺されてしまうかもしれない。そんなこと、絶対にさせない!


「どこへ行く」


 私がソファから立ち上がると、アデルは怪訝そうな顔で私を見て言った。


「アーサーを助けに行くの!殺されるかもしれないってわかっているのに何もしないだなんて私にはできない」


 私の返事に、アデルは一瞬眉を顰め、すぐに真顔に戻った。今のアデルは何を考えているのか本当にわからない……。


「お前は、あの男を助けたいのか?」

「当たり前よ、アーサーはいい人だもの。何より、騎士としてとても立派な人よ。あなたにとってはどうでもいい人間のひとりかもしれないけれど、王国にとっては必要な人間だわ」

「……なるほどな、わかった。それならお前が行く必要はない。ユーデリック」


 アデルがそう言うと、近くにいたユーデリックさんが静かにお辞儀をして、次の瞬間に消えた。


「アデル?」

「アーサーという男の救出はユーデリックに任せる」

「アーサーを、助けてくれるの?どうして?理由はわからないけれど、アーサーを殺すためにアーサーにあんなことを言ったんじゃなかったの?」


 驚いた顔でアデルを見つめると、アデルは首を傾げる。


「いや、俺は別にあの男の生死には興味がないし、そもそも別にあの男を殺したいわけではない。ただお前が生きていることを新しい聖女が知れば、慌てて何かしら行動を起こすだろうと思っただけだ。お前があの男を助けたいのであれば助ける、それだけのことだ」

「そう、なの……」


 アーサーを殺すつもりではなかったと聞いてホッとすると、アデルは座っていたむかえのソファから立ち上がり、私の隣に座った。そして、そっと私の髪の毛に触れる。どうしたんだろう、前のように不機嫌そうではないけれど、それとは別に様子が少しおかしい気がする。


「お前は、あの男を好きなのか?」


 アデルは相変わらず真顔なのに、瞳の奥が何となく揺れているように思える。どうしてそう思うんだろう。わからないけれど、アデルの瞳は相変わらず光に当たって色が変化して綺麗だ。


「人としてはもちろん好きよ。私に対しては聖女だからって丁寧に接してくれるけれど、他の人には気さくで優しいし。騎士としても立派だし、王国内の人たちからも頼られていて人気があるわ」


 アーサーのことを思い出して思わず微笑んでしまう。すると、アデルはほんの一瞬、少しだけ不機嫌そうになって、でもすぐまた真顔に戻った。


「……そうか」


 そう言って静かに立とうとするアデルの袖を、なぜか咄嗟に私は掴んでいた。突然のことにアデルが驚いた顔で私を見つめるけれど、私も自分で自分に驚いている。どうしよう、掴んでしまった手前、何でもないですとも言えない。こうなったら、聞いてしまおう。ドキドキする気持ちを悟られないようにしながら、私は口を開いた。


「待って、アデル。あなたに聞きたいことがあるの」

「?なんだ」

「最近、なんだか不機嫌そうだったでしょう?どうしてなの?」

「不機嫌?俺が?」

「そう」


 私に言われてアデルは怪訝そうな顔をする。どうやら自覚がなかったらしい。それとも、私の思い違い?


「そんなつもりはなかったが」

「そう、なの?ならいいんだけど……」


 アデルは私の目をじっと見つめてくる。何を考えているのかさっぱりわからないけれど、でもどうしても目を逸らすことができない。

 そうして見つめあっていると。


「よう、戻ったぜ!って、何二人で見つめ合ってるんだよ。俺がいない間に憎いね、お二人さん」

「カイ……」




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