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65 結婚式

 転移魔法で魔王城に帰えってきた私たちは、アデルの部屋に戻ってからすぐにアデルに抱きしめられた。


「大丈夫か?まだ少し震えているぞ」


 アデルの心配そうな声が頭上に響く。ぎゅ、とアデルの抱き締める力が強くなった。正直言ってまだ少し怖い。アデルのお父さんの、目が合っただけで汚されてしまうような、壊されてしまうような恐ろしさを思い出すと心臓が止まってしまいそうだ。思わず目をぎゅっとつぶってアデルにしがみついた。

 アデルの温もり、匂い、触り心地。そこにアデルがいるのだということを確認してホッとする。私は今ちゃんとアデルに抱きしめられて守られている。そう思うと安心できた。


「ありがとうアデル。……すごく怖くて心臓が止まるかと思った。けど、 こうしてアデルに抱きしめられているとすごく安心する」


 そう言うと、アデルは頭上でホッと息を吐いた。


「親父がすまないことをした。カイやルカを見ていてわかったと思うが、人間とは違い、魔族は自分が気に入ったものは相手がいようがなんだろうが自分のものにしたがるのだ。一人に決めるという考えがない。嫌な予感はしていたが、やはり親父もお前を気にいってしまった。もう二度とあいつの前にお前を連れて行くことはしない、絶対にだ」


 アデルはそう言ってまた私を抱き締める力を強くする。気に入った相手のパートナーが自分の親子だろうが兄弟だろうが気に入ってしまえば関係ないのね……。なんだかすごい考え方で驚いてしまう。



「お前はどこに行っても誰に会っても気に入られてしまう。お前をどこにも出さず、誰にも会わせず、こうして俺の腕の中に閉じ込めたままにしてしまえたらどんなにいいだろう……だが、それをすることはお前を生きたまま殺してしまうようなものだ。俺はそんなことはしたくない。自由に伸び伸びと、自分の意志で堂々と何にも臆することなく生きるお前だからこそ、俺はお前に惹かれたのだ。だから、せめてお前がどこかで誰かと会うときは俺が必ず隣にいよう。お前を狙う全てのものからお前を守る」


 静かに体を離して私の顔を覗き込み、アデルは私の頬にそっと手を添えた。アデルの美しいオーロラ色の瞳がキラキラ輝いている。


「ありがとう、アデル。ずっとアデルのこと心配性だなって思っていたけど、そんなことなかったんだね。アデルはいつだって私のことを守ってくれていた。ありがとう」


 そう言って笑うと、アデルはフッと愛おしそうに見つめた。


「俺はお前を誰にも取られたくない。そう思って行動することを、他の者たちは皆やりすぎだと言うからお前に嫌がられたりしたら困ると思っていたが……お前が認めてくれるのであればもう気にしなくても構わないな」

「う、それは……あの、ほどほどにというか、できればいい塩梅でお願いします」

「善処しよう。できる、と言い切ることはできないがな」


 そう言って、ニヤリ、と不敵に笑った。あー、この言い方だとほどほどにするつもりなさそうだな。それにしても、こうやって少し口角を上げただけでも色気があるんだから困る。妖艶という言葉がぴったりなのは魔王だから?


「どうした?そんなに俺の顔を呆けた顔でじっと見て。俺の顔がそんなに好きなのか」


 そう言ってまた妖艶に微笑む。うう、何度見てもこの色気のある顔には慣れない!悔しい!せめてもの抵抗でプイッと顔を背けると、アデルは頬に添えていた手を使ってすぐに私の顔をまたアデルの方に向けた。目が合うとアデルはまた嬉しそうに口角を上げる。


「ずるいよ、アデル。私がアデルに敵わないって知ってるくせに」


 少しむくれてそう言うと、アデルは私を愛おしいと言わんばかりの顔で見つめた。


「だが、お前はそれでもそうやって意地を張って抵抗しようとする。そんなところも本当に可愛いな。お前のその姿は誰にも見せたくないし、絶対に誰にも見せない。俺だけのものだ」


 そう言ってアデルは顔を近づけてくる。私だってこんな風になるのはアデルだけだ。悔しいけど、アデル以外でこんな風になったりしないもの。そう思いながら、私は静かに目を瞑ってアデルの口づけを受けた。






「新郎魔王アデル、 汝、ここにいるエアリスを、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓うか?」

「ああ、誓う」

「新婦エアリス、汝もまたここにいるアデルを、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓うか?」

「はい、誓います」


 司祭のような服装をしたアルテリウスに聞かれ、アデルと私は誓いの言葉を口にした。私の横には、新郎姿のアデルがいて、私はウェディングドレスに身を包んでいる。そう、私たちは今、結婚式をしています。


 王城の一番広いパーティー会場で、私とアデルは人前式をすることになった。私の実家に挨拶に行って、アデルのお父さんに会いに行ってから一ヶ月。その間に、ファウス様やアルテリウスがアデルに人間の結婚についてあれこれとレクチャーをし、ファウス様の願いで王城で私たちの結婚式をすることになったのだ。


 司祭役を兼ねた進行役がアルテリウス、そして人間側から私の両親と国王ファウス様、騎士団長アーサー、魔族側からはアデルの異母兄弟カイさんと奥さんのディーさん、子供のルイくん、魔王軍幹部第一位のユーデリックさんが参列している。


「それでは、指輪の交換と誓いのキスを」


 アルテリウスがそう言うと、私はアデルと向かい合い、お互いに指輪を薬指にはめた。指輪にはアデルの瞳の色の小さなオーロラ色のオパールが一粒キラリと光っている。

 

 指輪の交換が終わって、私は少し屈むと、アデルが私の顔にかかるレースのベールをそっと持ち上げ、頭の後ろにかけた。

 アデルは私をじっと見つめながら嬉しそうに微笑んでいる。アデルのオーロラ色の瞳がいつも以上に綺麗で、今にも吸い込まれてしまいそうだ。この瞳に何度見つめられ、何度胸を高鳴らせただろう。

 

 アデルの片手が私の腰をグイッと引き寄せ、もう片方の手が頬に添えられる。私は微笑むとそっと目を閉じた。アデルの顔が近づいてくるのがわかる。唇にアデルの唇がそっと触れた。

 すぐに唇が離れるかと思ったら、なぜか離れない。そのまま唇をはむっと啄まれ、どんどん濃い口づけに変わっていく。待って、結婚式なんだから軽いキスで済ませるって言ったでしょう!?混乱してアデルの胸を叩くけど終わらない。


 会場がざわついているのがわかる。近くにいるアルテリウスは何やってるの!?誰か止めてよ!そう思っていると、ようやくアルテリウスの声が聞こえてきた。


「はいはい、アデル。そろそろ止めろ。結婚式でそこまでする必要はない」


 アルテリウスの言葉に、ようやくアデルの唇が離れた。うう、頭が少しぼーっとしてる。アデルを見ると、嬉しそうな楽しそうな余裕そうな顔をして微笑んでいる。何してくれてるのよ、もう!


 参列席ではお母さんが頬に手を添えてウフフと微笑んでいるし、お父さんは真顔だ。アーサーは顔を赤くして目を泳がせているし、ファウス様は……なんか青ざめてる。カイさんたちはおお!となぜか目を輝かせているし、ユーデリックさんは呆れたような顔をしていた。


「ふん、仕方ない、止めてやろう」


 そう言って、アデルは私をグイッと引き寄せて腕の中に私をおさめた。そして、参列席を見て口を開く。


「本日は我々の結婚式にお集まりいただき感謝する。見ての通り、エアリスは俺の大切な妻だ。誰にも渡さない。近寄ろうものなら殺す。覚えておけ」


 なんか、結婚式にふさわしくないワードが入ってますけど……。アルテリウスがやれやれと頭をかくと、参列席からルカくんが小さな花束を持って駆け寄ってきた。


「エアリス、おめでとう」

「ルカくん!ありがとう!」

「エアリス……!」


 アデルから離れてルカくんに近づき、花束を受け取ろうとすると、アデルが慌てて阻止しようとする。え?ダメなの?そう思ってアデルの方を見ようとしたら、ルカくんの周囲に突然煙がポンっと出てルカくんが青年の姿になった!


「エアリス、また捕まえた!隙がありすぎるよ?ねえ、結婚式に花嫁を奪うとか、ロマンチックじゃない?」


 そう言ってルカくんは私を抱きしめる。うえええええ、なんで!?また魔法で成長を早めたの!?驚いていると、アデルの方から禍々しいほどの魔力と殺気が感じられる。やばい、これはやばいと思う。


「おい、エアリスから離れろ。ルカ、お前は今度こそ殺す。いいな?カイ」

「よくねぇよ。ルカ、マジですぐにエアリスから離れろ。そうしないと本当に殺されるぞ」


 パン!とカイさんが両手を叩くと、またポンっとルカくんの周りに煙が出てルカくんが小さな男の子に変わった。


「やだ!エアリスと一緒がいい!アデル!いいでしょ!」

「ダメだと言っているだろう。そんなに死にたいのか」

「じゃあ、僕、強くなっていつかアデルからエアリスを奪うよ。それならいいでしょう?」


 キラキラとした瞳でルカくんはアデルにそう言った。近くではカイさんが片手で顔を覆い深くため息をつき、ディーさんが面白そうにルカくんとアデルを見ている。


「ほおう、やれるものならやってみろ。その時は本当にお前が死ぬ時だ。覚えておけ」


 アデルの言葉にカイくんはふんす!と鼻息を荒くしてアデルを見る。ディーさん、この状況母親としてどう思っているんだろう……そう思っていたら、ディーさんが近づいてきた。


「うちの子がごめんなさいね、全く、カイといいルカといい、親子揃って節操ないんだから」

「あ、いえ……でも大丈夫なんですか?アデルの様子だと本当にルカくん殺しそうな勢いなんですけど」

「ああ、そうね。あのアデルがあんなになるなんて面白いわ。それに、いずれ成長したうちの子がアデルにどこまで通用するのか見て見たい気もするわね。アデルを倒せばあの子が魔王になれるわけだし。もしもアデルに殺されて死ぬとしたら、あの子の寿命がそれまでってことよ」


 ふふふ、と微笑むディーさんの顔は心底楽しそうな顔をしている。ええ!?それでいいんだ?魔族、本当に意味がわからない……。


 唖然としていると、背後からフワッとアデルに抱きしめられた。


「おい、俺から離れてはダメだと言っただろう?」

「う、ごめんなさい」


 そう言ってアデルの方に向き直すと、アデルは仕方のない奴だと言わんばかりの顔で私を見た。その顔には呆れの中にどうしようもないほどの愛おしさが混じっているように見えて、私はなんだか嬉しくなる。


「アデル、私たち本当に夫婦になるのね。あなたに助けられて魔王城で暮らすことになって色々なことがあったけど、どれもこれも大切な思い出だわ。それに、私に魔力を注いでまで死にそうな私を助けてくれた。アデルのおかげで私は今ここにいるの。本当にありがとう」


 お礼を言うと、アデルは目を丸くして私を見つめている。


「私、あなたと出会えて、あなたを好きになって本当に良かった。こんな私だけど、これからもずっとずっとよろしくね、アデル」


 私の言葉に、アデルはさらに目を大きく見開いてから、今度は心底嬉しそうに微笑んだ。今まで微笑んだことはあっても、ここまで本当に嬉しそうに笑った顔、見たことない!


「エアリス、俺もお前と出会えて、愛を知ることができて本当に良かった。お前はもう二度と俺から離れられない。お前を手放すことは絶対にない。お前は俺と一生共に生きるんだ。俺は一生涯かけてお前だけを愛する。お前も俺だけを愛せ」


 アデルの言葉に、私は力強く頷いて微笑んだ。それを見て、アデルはまた嬉しそうに微笑む。そして、私たちは人目も気にせずに、長い長い口づけを交わした。






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