表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/65

64

「エアリスと一緒に来い?親父がそう言っているのか?」

「ああ、お前が妻にしたいと思うほどの人間がどんな女なのか、見てみたいんだとよ」


 私の実家に挨拶に行ってから数日後。アデルと私の前にカイさんが座っている。カイさんはアデルとカイさんのお父さん、つまり先代魔王とそれなりに交流があるらしく、お父さんからの言伝を届けに来たらしい。


「たまには会いに行ってやれよ。親父から声がかかるなんて珍しいんだから」


 カイさんの言葉に、アデルは顎に手を添えて床をじっと見つめている。


「俺はいいが……エアリス、お前は大丈夫なのか?お前も魔族になったとはいえ、元は人間。先代魔王の前に出るということは、先代魔王の周囲にいる他の魔人たちの前にも姿を見せることになる」


 先代魔王、そしてその周囲の魔人さんたち。考えただけでちょっと怖い、けど、アデルのお父さんが会いたいって言ってくれてるんだから、会いに行かないわけにはいかない。それに、アデルのお父さんに純粋に会ってみたいという気持ちもある。


「ちょっと怖いけど、私は大丈夫!アデルがいいなら行ってみたいな」

「そうか。わかった、お前を連れて行こう。何があってもお前は俺が守るから安心しろ」


 アデルにそう言われると、本当に全てが大丈夫な気がするから不思議だ。嬉しくて微笑むと、アデルも優しく微笑んだ。




 というわけで今、私はアデルのお父さん、つまり先代魔王の目の前にひざまづいています。


 ひたすら広いホールのような場所、目の前に玉座があって先代魔王であるアデルのお父さんが座っている。玉座がある場所から数段階段があって、私たちがいる床から玉座を見上げる形になっている。私たちの両側には先代魔王に仕える人なのだろう、数人並んでいた。

 先代魔王っていうくらいだから、もっとこう、ゴツくて大きくてマッチョなご老人が座ってるのかなと思ったけど、見た目は全然若く見える。見た目だけなら、なんならアデルよりちょっと上くらい?王が身に纏うような緩いさまざまな色の布のようなものを何枚を重ねて着ていて、首元にはゴツめのアクセサリーが長く垂れていた。

 長い白髪をゆらりと揺らして、長い足を組み肘を玉座の手すりに置いて頬杖をついてこちらを見ている。トパーズのような美しい瞳をじっと私に向けているのだけど、緊張して目を合わせることができない。むしろ目を合わせていいのかな?目があった途端に私、死んじゃったりとかしない?


「よくきたな、アデル。息災で何よりだ」

「はい」


 アデルのお父さんの言葉に、アデルは一言だけ返すと跪いたままお辞儀をした。アデルの声も低めで落ち着いた良い声だと思っていたけど、アデルのお父さんはさらに低く、威厳のある声だ。


「それで、その横にいるのがお前の妻になる女か」

「聖女エアリス、俺の魔力を流し込んだので、今は魔族となっています」


 アデルの言葉に、その場がざわついた。元は人間、しかも聖女だったということが驚きらしい。


「ふふふ、ははは。元は人間、しかも聖女。カイから聞いてはいたが、やはり面白い。お前のような男の心をいとめるとは、一体どんな女かと思って楽しみにしていた」


 そう言って、アデルのお父さんは玉座から立ち上がって階段を降りてくる。え、もしかしてこっちに来る?どうしよう、足音がどんどん近づいてくる。目の前に、アデルのお父さんの足が見えた。どどどどどうしよう、目の前にいる、確実に目の前にいるよね!?


「おい、エアリスとか言ったな。顔を上げて俺に顔を見せろ」

「は、はい!」


 顔を上げろと言われてしまったので、上げないわけにはいかない。意を決して上を向くと、アデルのお父さんがいる!す、すごい、威圧感がすごい……!唖然として見つめていると、アデルのお父さんが膝をついて目線を近くしてきた。わ、すごい綺麗な顔!さすがアデルのお父さん、整っていて神々しさまである。あまりの美しさに見惚れていると、アデルのお父さんが片手を私の顎に置いて、さらに上を向かせた。


「ほう、良い顔をしている。しかも意志の強そうな美しい瞳だ。体つきはまあ、可もなく不可もなくといったところか。気に入った。お前、俺の元へも来い。たっぷりと可愛がってやろう」


 は?何を言ってるのこの人?人っていうか、先代魔王だけど。突然の意味不明な発言に私が驚いて絶句していると、周囲に突然火花がパチパチっと舞った。そして隣から突然禍々しほどの魔力と殺気が浮かび上がってくる。横目で視線を向けると、アデルの両目が真っ赤に光ってアデルがとてつもない魔力を身に纏っていた。


「ア、デル……!」

「その手を離せ。そしてエアリスから離れろ。いくら父親、先代魔王といってもエアリスに不要に近づきクソのような発言をするのは許さない。今すぐ殺してやる」


 ドウッ!とアデルから魔力がさらに放出される。それを見てアデルのお父さんはニヤリ、と笑みを浮かべ、立ち上がった。そしてアデルのお父さんの両目も真っ赤に光り、物凄い魔力が一気に放出された!


 物凄い閃光と轟音が鳴り響き、辺り一面にまるで爆発が起こったかのような光景が浮かび上がる。吹き飛ばされる!と思ったけど、いつの間にか私の周りには防御魔法が施されていた。


 そのまま爆発と轟音は激しさを増す、ように見えた。けれど、一瞬でそれは一箇所に吸い込まれるかのようになって消え、辺りが静寂に包まれる。何が起こったのかわからないけど、周囲を見渡すとどこも崩壊していないし、他の魔人さんたちも全員無事だ。


「はっはっはっ、面白い!何にも心を動かさないお前が、たった一人の人間にこれほどまで執着し、先代魔王を殺そうとするとはな」


 そう言って、アデルのお父さんは白髪の美しい長い髪をサラリと靡かせて玉座の方へ戻っていく。アデルのお父さんからはすでに魔力は出ていない。アデルを見ると、両目は元に戻っているけれどまだ少しだけ魔力を纏ってお父さんの後ろ姿を睨んでいる。

 アデルのお父さんは玉座に座ると、また長い足を組んで、肘を手すりについて頬杖をついて私たちを見下ろした。


「お前がそんなになるほどの女だ、興味深い。だが、手を出せばお前は今度こそ本気で俺を殺そうとするだろうな。そうなれば俺も本気を出して相手をしてやらねばなるまい。そんなことをすればここは一瞬で消滅するだろう。それは困る。仕方がない、その女は諦めよう」


 そう言って、アデルのお父さんは私を見て妖艶に微笑んだ。あまりの色気にクラクラしそうになるけど、アデルが絶対に怒るのが目に見えているからクラクラしてる場合じゃない。頑張ってアデルのお父さんの視線と笑みに耐えながらお父さんをじっと見つめる。


「そういう負けず嫌いそうなところもそそるな。お前がアデルの女でなければ今すぐにでもお前の全てを暴き、飽きるまで抱き潰して身も心もドロドロに溶かしてしまえるのに、惜しいことよ。……おっと、こんな軽口を言うのもアデルは許せないのか、ははは、本当に面白いな」


 アデルのお父さんの発言にアデルの身に纏う魔力と殺気が増して、アデルのお父さんはアデルを見ながらまた楽しそうに笑っている。うわあ、なんだろう、この二人本当に親子なんだよね?魔族ってこういう感覚なの?それとも先代魔王だから?訳がわからなくて戸惑っていると、アデルのお父さんは私に視線を向けて口角を上げた。


「お前も随分と厄介な男に好かれてしまったな。こんなことでは窮屈なのではないか?まあ、今更こんなことを言ったところで、引き返す道はお前には残っておらぬがな」


 フン、と楽しげにアデルのお父さんはそう言った。ふと横から視線を感じてアデルを見ると、アデルは不安そうな複雑そうな顔をして私を見ている。まさか、お父さんの言葉に不安になったの?


「私は、アデルと一緒になることを後悔していませんし、これからもしません。アデルは確かにやきもち焼きだし嫉妬深くて戸惑うこともあるけど、私に一生懸命愛をぶつけてくれます。私は、そんなアデルを愛おしく思うし、そんなアデルも大好きです。アデルと一緒にいると嬉しくて楽しくて、幸せなんです。生きていればいろんなことがあるけれど、たとえどんな感情でも、一緒に分かち合いたいって思います。だから、私は大丈夫です」


 一気にそう言ってから、ほうっと深呼吸をする。先代魔王に対してこんなことを言うのは失礼だろうか?でも、私はアデルのことが大好きで愛してる。それをちゃんと伝えることが今の私に必要なことだと思うから、これでいいんだと思いたい。


 アデルのお父さんは私の話を聞きながら両目を大きく見開いた。そして、嬉しそうに笑い始める。


「はっはっはっはっ、本当に面白い女だ。汚れを知らず高潔さがある。愛に囲まれて生きてきたのだろうな。フン、あまりにも綺麗すぎて汚してしまいたいほどだな」


 そう言って私を見る視線はじっとりとして欲を孕み、その視線だけで汚されてしまいそうなほどの恐ろしさを含んでいる。思わず心臓が止まりそうになるかと思ったその時、アデルが私の前に立ってお父さんからの視線を遮った。


「挨拶はもう済んだ。俺たちは魔王城へ帰る。二度とエアリスに触れるな、見るな、近寄るな」


 そう言ってアデルは私を立ち上がらせ、しっかりと腕の中に収める。ああ、アデルの温もりだ、匂いだ、すごく安心する。ホッとしてアデルを見上げると、アデルは優しく微笑んでくれた。


「よかろう、帰れ。魔王城で楽しく暮らすんだな」


 その一言を最後まで聞き終わらないうちに、私とアデルは光に包まれて、魔王城へ転移した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ