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 私を抱きかかえたアデルは自室に戻ると、アデルは私をソファへそっと下ろして隣に座った。隣と言っても隙間もなく、腰に手を回し私の体に密着して座っている。いつもながら距離が近すぎる。


「アデル、子供の前で急にあんなことするなんて……」

「さっきも言っただろう。子供だろうがなんだろうがお前を狙う輩には手加減はしない。子供だからこそあれだけ見せつければ戦意も喪失するだろう。お前を諦めさせるためならなんでもする。俺はそういう男だとわかっているだろう?それに」


 そう言ってアデルは少し怒ったような顔で私を見る。


「お前は隙がありすぎる。カイの時に散々注意しただろう。あいつらは盛りのついた獣だ。獣の姿を見てお前はフワフワでかわいいと思うだけかもしれんが、人の姿になった時点で奴らはああやって油断しているお前を拘束し、お前は身動きが取れなくなる。ルカはまだ中身が子供だからお前を襲うという思考には至らなかっただろうが、実際に成長して男になったたルカだったらわからないぞ。いい加減に危ういという自覚を持て」


 アデルは明らかに怒っている。確かに、カイさんの時にも注意されたし、ルカくんのことだって言われてみればそうかもしれない。


「……うう、ごもっともです。ごめんなさい。でも、ルカくん、狼っていうよりもかわいい犬って感じだったし、突然のことだったから多めに見て欲しい、です」

「突然で仕方がなかったのはわかる。そこに関してはお前に非はない。だが、犬みたいだろうがなんだろうがあれは狼だ。それに、狼だけじゃない、見た目がかわいいことを利用してお前に近づこうとする輩もどこかにいるかもしれないんだぞ。俺がいないところであんな目にあってみろ、考えただけで俺は気が狂いそうだ」


 はあ、と重いため息をついてアデルは項垂れる。そんなアデルを見てると、なんだか胸の中がホワホワと浮ついてしまうのはなぜだろう?


「こんなこと言うべきではないんだろうけど、私のことでそんなにも気を落とすアデルが見れてちょっと嬉しいな……。あ、もちろん反省はしてるわよ!してます!反省!」

「……お前、本当に反省してるのか?まあいい、お前はそういう奴だし、困ったことにそういうお前のことも俺は好ましく思っているのだからな。だが、お前は魔王の妻になるんだ、そのことにもっと自覚を持て」


 呆れたような視線を私に向けて、アデルはそっと私の手をとって小さくキスを落とす。


「今後はちゃんと気をつけます。本当に」


 アデルの目を見てしっかりとうなづくと、アデルはフッと微笑んだ。


「お前の実家に挨拶に行けてよかったと思っていたのに、帰ってきてひと騒動だったな」

「本当だね。でも、アデルが私の家族と仲良くなれてよかった。お兄ちゃんの子供にも名前をつけてくれてありがとう。お兄ちゃんたち、本当に嬉しそうだった」


 思い出したらまた嬉しくなって、つい頬が緩んでしまう。アデルはそんな私を見て、心底愛おしいものを見るような顔をする。


「俺は家族というものに夢を抱いたことがない。だが、子供を抱くお前を見て、お前との子供がいるのも悪くないと思えた。お前は、子供が欲しいと思わないのか?人間は子孫を残していくことに意義を見出す生き物なのだろう?」


 アデルは私の髪の毛をひとふさ取って優しくいじりながらそう言った。


「うーん、子供かぁ。聖女になるって決まってから、そういうことにはもう縁がないと思っていたから考えたことなかったな。それに、うちの両親はあんまり子孫を残すとかうるさく言ってこなかったし、一般的な家より自由なのかもしれない。お兄ちゃんだって、吟遊詩人をして旅をしているから後継って感じでもないし。戻りたくなったら戻ってくればいい、お父さんたちはそんな風に思ってるみたい」

「ほう、吟遊詩人か。確かに自由な環境で育ったんだな」

「あんまり、人として家族としてこうあるべきだ、とか決めつけがない家なんだよね。それに、一般的な在り方は他のたくさんの家庭がやっているんだから、少しくらい違う家庭があってもいいだろうって。人間一人一人違うんだから、みんながみんな同じじゃなくてもいいだろうって、だから自分が楽しいと思える方を選びなさいって言われて育ってきたの」


 私の話を聞いて、アデルはなるほどな、と微笑んだ。


「他と違う生き方をあえて選ぶのも、人間としての生存本能の在り方なのかもしれない。だが、それを抜きにしてもお前の家族は愛があり、のびのびと暮らしている。お前がお前である理由も、そんなお前に俺が惹かれた理由もわかった気がした」

「そうなの?あ、でも、子供を抱くアデルも似合ってて意外だったよ。いいお父さんになりそう」

「いいお父さん、か。俺は父親に父親らしいことをされたことがない。父親はずっと俺に魔王として接し、俺はただ次期魔王としてひたすら教育を受けただけだったからな。逆にお前は両親や兄たちからしっかり愛されて育っている。お前こそきっといい母親になるだろう。……これから子作りをするか?」


 そう言ってアデルは私のスカートの中に手を伸ばして足を優しく触り出した。アデルの手つきが優しいのになんだかいやらしくて、ゾクゾクしてしまう。


「んっ、アデルが子供を欲しいならそれでもいいけど……」

「お前は欲しくないのか?」

「欲しくないわけじゃないし、いつかはアデルとの子供ができたら嬉しいだろうなって思う。でも、今すぐ絶対に欲しいってわけじゃないし……それに、気づいたら自然にできてました、の方がなんだか私は嬉しいな。もちろん、それでできない可能性だってあるかもしれないけど、私は別にそれならそれで構わない、かな。……こんなんじゃ魔王の妻としては失格?」


 魔王なら後継はきっと必要になる。だったら、子供が欲しいと思うのは当然なのかもしれないし、そう在るべきなのかも知れない。こんなんじゃ、私はいつか愛想を尽かされてしまうだろうか?不安になってアデルを見ると、アデルはさっきと変わらずに優しい微笑みを私に向けていた。


「構わん。俺はそもそも後継に興味がない。元々何にも興味がなかったからな。お前と出会ったことで現れた感情や思考だ。だから気にすることはない。もし俺たちに子供ができなかったとしても、カイに子供がいる。カイも先代魔王の息子であり、その子供にも継承権がある。それに、魔王は継承件よりも強さが勝る。血が繋がっていなくとも誰よりも強ければ魔王になれるからな。俺の父親はそうやって魔王になった、だから何も問題はない。俺はお前の自由な発想や行動を気に入っている。お前からそれを奪うつもりはない。それに」


 アデルは綺麗なオーロラ色の瞳を私に向けて私の頬に手を添えた。


「お前となら二人でどんなに長い時を過ごしても退屈しないだろう。幸せで満ち足りた日々を過ごせる。だから子供がいてもいなくても何も問題ない。お前は紛れもない俺の妻だ」

「アデル……!」


 アデルの言葉が嬉しくて思わず微笑むと、アデルは私の微笑みを見て満足そうに笑う。そして、優しくキスをしてきた。アデルからの愛を感じられるような、ゆっくりと優しい、愛おしむようなキス。嬉しくてそれに応えるように私からもキスをすると、だんだんと濃いキスになってきた。アデルのキスはいつだって心地よくて頭も体もフワフワしてしまう。


「話は終わりだ、子作りとは関係なしに、これからお前をたっぷりと愛そう」


 そう言って、キスですっかり力の抜けてしまった私を、アデルはヒョイっと抱きかかえてベッドまで運んだ。



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