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カイさんがいなくなって、部屋には私と不機嫌なアデル、やれやれといった顔をしたユーデリックさんが取り残された。
いまだにアデルの手は私の腰に回っていて、相変わらずソファに座りながらもアデルと密着している状態だ。なぜいつまでもこんな状態に……?
「た、台風みたいな弟さんね」
無言に耐えられなくなってアデルに話しかけてみると、アデルは相変わらず不機嫌そうに私を睨んでくる。うう、どうしてそんなに機嫌が悪いんだろう。
「カイのことが気に入ったか?」
アデルから、低い低い声で静かに聞かれる。気に入った、というのはどういう意味でだろう?
「ええと、気に入ったかどうかはわからないけれど、とても気さくで悪い人には見えなかったかな。あ、それに狼姿だととてももふもふで撫でがいがあって……」
そこまで言って、なぜだかわからないけれどしまった、と思った。アデルの表情がさらにどす黒くなったのがわかったからだ。そして、私が言い終わらないうちにアデルは私の両腕を掴んでソファに押し倒して来た!ま、待って、どういうこと!?
「ア、アデル?」
どうしよう、急にどうしたんだろう。助けを求めようとしてユーデリックさんの方をみると、すでにいない!ドアがパタンと閉まった音がしたので、たぶんユーデリックさんが部屋を出て行ったんだわ。酷い、見捨てられた!
「お前はどうしてそんなに無防備なんだ?あいつの言ってたことを聞いていただろう。あいつは脳が蕩けた馬鹿だ。あいつにこうやって組み敷かれたらお前は何もできないんだぞ。わかっているのか?」
ドスの効いた低い声で淡々と言われる。怖い、どうしよう、すごく怒っている。
「狼姿はもふもふで撫でがいがあるだ?撫でている間にあいつが人の姿に戻ったらどうする?こうやって組み敷かれ、そのままお前は抵抗する暇もなくあいつに美味しく食われて終わりだ」
た、確かにおっしゃる通りなんだけど……どうしてアデルがこんなにも怒っているのかがわからない。驚いたまま何も言えないでいると、アデルは大きくため息をついた。
「実際に教え込まないとだめなのか……?」
そう言いながらアデルは片手で私の両手首を掴んで私の頭の上に固定すると、空いたもう片方の手が私の足元に降りてくる。え、待って、足、触られてる……?
ぞくぞくとした不思議な感覚が押し寄せてきて、変な声が出てしまいそうになる。一体どうなってるの!?
「ま、待ってアデル、お願い!どうして怒っているのかわからないけれど、あなたの言う通り私が悪かったから!お願いアデル!」
必死に訴えると、アデルはハッとして私を開放し、離れた。離れてからも心臓がドクドクとうるさい。
「これに懲りたら、あいつにはもう気安く近づくな。わかったな」
ソファから立ち上がり私を見下ろすアデルに、思わず小さく頷いてしまった。それを見てアデルはとりあえず満足したのだろう、私から目をそらすとチッ、と舌打ちをして部屋から出ていく。
本当に何だったんだろう。まだ心臓がドキドキと鳴り響いて止まらない。
あんなに優しかったのに急に怖くなって、アデルのことがよくわからなくなってきた。私はきっと、アデルのことを何もわかっていないんだと思う。これからアデルとどう接したらいのだろう……。




