59 エアリスの実家2(アデル視点)
エアリスの両親に頭を下げられ、エアリスはほらね?と言わんばかりに微笑んでいる。
「エアリスが聖女として生きていくことになってから、エアリスが家に帰ってくることは一度もありませんでした。それは聖女だから当たり前のことだと、エアリスとお別れする時から王国の人間に言われたことでしたし、私たちもそう思い込んできました。
でも、まさかエアリスが王国を追い出されてるだなんて思いもしなかったし、魔王に拾われていると知って驚きました。エアリスから手紙が届くようになったのは魔王城で暮らし始めてからのこと。エアリスがただ使われるだけの聖女としてではなく、エアリス自身として生きることができたのは、魔王様に拾っていただいたおかげです」
本当に心の底から嬉しそうに微笑む母親を見て、エアリスはこんなにも家族から愛されているのだと実感する。
「それに死にそうなエアリスをあなたはニ度も助けてくださった。一度目は森で瀕死なエアリスを、二度目は転生者との戦いで瀕死なエアリスを。感謝こそすれ、怒ったり責めたりするはずがありません。それから、あなたはエアリスの結婚相手であってもやはり魔王だ。我々に敬語を使うのはおやめください。いつも通りのあなたで良いのですから」
表情を変えず、淡々とだがしっかりとした口調で父親は言う。
「……わかった。ご好意に甘え、普段通りの口調にさせてもらう」
「よかったぁ!ずっと敬語のアデル、何だか不思議だし違和感でしかなかったからホッとする!」
嬉しそうに言うエアリスを呆れたような顔で見ると、エアリスの両親は俺たちを見て優しい眼差しで微笑んでいる。魔王としてそんな眼差しを向けられたことがないので、何だかこそばゆい。だが、嫌な気持ちはしない。むしろ、少し心が温かく感じるのだ。俺が、こんな気持ちになるとは。
「そうだ、今日は泊まっていくでしょう?泊まっていって!二人のために腕によりをかけてたくさん美味しいもの作るから!」
そう言ってエアリスの母親は俺とエアリスの顔を交互に見てそわそわしている。
「アデル、泊まっていっても良い?」
「お前が望むならもちろん構わない」
「よかった!それじゃ早速料理するわね!」
「俺も手伝おう」
うふふ、と嬉しそうに笑って立ち上がる母親に、父親が声をかける。母親は嬉しそうに父親を見て、父親も愛おしそうに母親を見た。
「お前の両親は愛し合っているのだな」
そう言ってエアリスを見つめると、エアリスは顔を赤らめて嬉しそうに微笑んだ。
◇
エアリスの母親の作る料理はどれもこれも美味しかった。食に対してこだわりも好みもない俺でも美味しいと思える味だ。きっと、そこにも愛がこもっているのだろう。
エアリスの周りには愛が溢れている。エアリスがどこまでも純粋で優しくあたたかいのはそのせいだろう。そして、だからこそ俺はそんなエアリスに惹かれたのだ。
「お腹いっぱいだね、久しぶりにお母さんの手料理を食べられてつい嬉しくて食べすぎちゃった」
えへへとお腹をさすりながらエアリスは笑みをこぼす。
夕飯を食べ、お風呂に入って寝る支度を済ませ、俺たち二人はエアリスが昔使っていた部屋にいる。ベッドの端に並んで腰をかけ、話をしていた。
「ずっと部屋をそのままにしててくれてたなんて、なんだか嬉しいな」
「お前にしては可愛らしい部屋だな。こだわりがなさそうだからもっと殺風景かと思っていたが」
そう言って、エアリスの洗いたての髪の毛をそっと掴んでいじる。ほのかに香るシャンプーの良い香りが鼻先をかすめた。
「アデル、本当にここで寝るつもり?ベッド二人で寝るには狭すぎない?客室だって一応あるのよ?」
「俺はお前が過ごした部屋でお前と共にいたいのだ。狭かろうが別に1日くらい我慢できる。俺がいるのは嫌か?」
髪の毛をそっと耳にかけ、耳を優しく触りながらそう聞くと、エアリスは身じろいだ。
「くっ、くすぐったい!嫌じゃないけど……変なことしないでね」
「変なこと?なんだそれは」
顔を近づけてそっと耳元でささやいてからはむっと耳を甘噛みした。
「んっ!だから、そういうこと……実家でするのはちょっと……」
「どうして?嫌なのか?」
「だって、声とか聞こえちゃったら、困る、でしょ……」
エアリスはごにょごにょと小声で言う。
「ふん、それなら魔法で声が外に漏れないようにすればいい。それなら問題ないだろう」
手早く部屋に魔法をかけると、俺はエアリスをベッドに優しく押し倒した。
「せっかくお前の実家に来たんだ。俺との愛しい思い出を作りたいとは思わないのか?」
「……その言い方はズルい」
むう、とすこし頬を膨らませて抗議しているが、そんなのは抗議のうちに入らないな。何より、顔が赤らんでただ可愛いだけだ。
エアリスへ口づけながら体へ手をのばすと、エアリスは口で言うこととは反対に抵抗なく受け入れてくれた。
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