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 両親への手紙を書いて、すぐに返事が来た。いつでも歓迎すると書かれていたので、一週間後にアデルと一緒に帰省することになった。でも、その前にアデルは行きたいところがあるらしい。


「アデル、ここは?」


 魔王城から少し歩いたところに、教会のような建物がある。厳重な結界魔法がいくつも張り巡らされているけど、アデルは簡単にそれを解いて建物の中に入った。


 建物の中はホールになっていて、何もない。こんなところに何の用事があるんだろう?そう思っていると、アデルが片手を上に上げた。すると、ホール中央の地面に大きな魔法陣が浮かび上がる。


「行くぞ」

「えっ、どこに?」

「行けばわかる。転生者について詳しい者に心当たりがあると言っただろう?そいつに会いに行く」


 そういえば戦いの前にそんなこと言ってた気がする。でも、私も一緒に行っていいのかな?そう思っていると、アデルが私の腰に手を回してグイッと引き寄せた。相変わらず密着がすごい。


「お前は常に俺のそばにいろ。どこに行くにも一緒だ」


 私の思ってること、いつもなんですぐにわかるんだろう。アデルを見上げると、フッと微笑んで魔法陣の中に入る。そのまま私たちは光に包まれた。


 眩しくて目を瞑っていると、次第に光が止んでいく。目、そろそろ開けてもよさそうかな。少しずつ目を開くと、目の前には白いローブを羽織ったたくさんの人があちこち歩き回っている。見上げると、天井はどこにあるんだろうというほど遠い。


「ここは……?」

「転生者管理局だ」


 てんせいしゃかんりきょく?そんな場所、初めて聞いた。王国内にそんな場所あったかしら?


「ここはこの世界に来る転生者のチェック、そして管理をする場所だ。この世界に適正でない転生者は転生できないようにここで跳ね返され、別の世界へ送り込まれる」


 えっ?そんな場所あるの?てゆーか、そんなことできるの?あまりの驚きにポカンとしていると、アデルはククク、と楽しそうに笑っている。


「お前、面白い顔をしているぞ」

「なっ、だって、そんな場所があるなんて驚くわよ、普通!」


 周囲を見渡すと、至る所に机があり、人が座って画面と睨めっこしている。どこまで高さがあるんだろうという書棚には本や書類がびっしりと並んでいて、本や人が宙を浮いて移動したりしている。書棚と机だけは茶色だけど、人が纏うローブも服装も真っ白だし、壁一面も真っ白だ。


「魔王アデル!来るような気はしてたけど、本当に来たな」


 声のする方を見ると、金色のセミロングの髪の毛をサラサラと揺らして、翡翠色の瞳の美しい人がやってきた。声からすると男性?なのかな。でも中性的ですごく美人!


「俺が来た理由はわかっているんだろう」

「ああ、色々とすまなかったね。大変だったろう」


 そう言ってから、その人は私の方に視線を向けてにっこりと微笑む。わあ、すごく綺麗な笑顔……!思わず見惚れそうになると、アデルが私の腰に回していた手をグイッと引く。アデルを見上げるとすごく不機嫌そうだ。私をジトっとした目で見てくる。もしかして妬いてる?


「君がアデルの奥さんになる人かぁ。確か聖女エアリスだよね?初めまして。自分はこの管理局の管理責任者、シリウスです」


 よろしくね、と片手を差し出されたので握手しようとしたら、アデルに阻まれた。


「握手などする必要はない。お前もエアリスに不必要に触れるな」

「必要なことでしょこれ!全く、あの魔王アデルがこんなにも一人の女性にご執心とは驚いたものだよねぇ」


 シリウスさんは、ふふふ、と楽しそうに笑っている。


「それで、アデルは文句を言いに来たの?今回のことは本当に申し訳ないとは思っているけど」

「なぜあのようなクズ転生者が同じ時期に、三人も転生してきた?しかもあのようなギフトまで与えられて」

「まあ、俺たちも詳しいことはわからないけど、神様の決めたことだし。最初はおかしいと思って転生させないつもりだったんだよ。でも何度やってもエラーになって、結局転生させる羽目になった。神様の意思が働いているとしか思えないよ」

「お前たちがミスをした、というわけではないのだな」

「悪いけど、仕事はしっかり行っているよ。それは胸を張って言える」


 神様?何のこと?二人の話していることがさっぱりわからなくてキョトンとしていると、シリウスさんはそれに気づいたみたいで、私ににっこりと微笑んだ。


「アデルの奥さんのなる人だから教えるけど、転生者が来るか来ないか、来るとしたらどんな転生者かは神様が決めるんだ。でも神様は万能だけどすごく気まぐれだし、たまにやる気がなかったりする。だからここで事前にチェックして、この世界に合わない転生者は来れないように調整しているんだ。基本的に、この世界にとって有益な転生者が送り込まれることになっているからね。それはこの世界だけじゃない、他の世界でも同じだ」


 シリウスさんは私にわかるように、一つ一つ丁寧に教えてくれているけれど、正直言ってキャパオーバーだ。そもそもこんな管理局があること自体が驚きだし、神様が決めているとか、この世界だけじゃなく他の世界もあって、他の世界にも転生者が送り込まれているとか、にわかには信じがたい。でも、多分、本当のことなんだよね……?


「だから、あの転生者たちがこの世界に来たことには何らかの意味がある。そう思うしかないよ。現に、王国との戦いは終わったわけだし、アデルはエアリスと夫婦になるわけだろ。悪い側面だけじゃない、良い側面だってあった。そこに意味があるんだろうね」


 シリウスの話を聞いて、アデルはふむ、と小さく呟いた。


「なるほどな、完全に納得できたわけではないが、お前たちのミスでないことはわかった。それさえわかばいい」

「何、俺たちのミスだったとしたらどうするつもりだったの」

「ふん、想像はつくだろう」

「うわぁ、怖い怖い」


 怖いと言いながらもシリウスさんは何だか楽しそうだ。


「この場所は、神様クラスもしくは魔王クラスの魔力のある者しか入れない。そうでなければ、生命としての形を保っていられないんだ。君はアデルの魔力を纏っているから来れたんだよ。そういうわけで、この場所については、極秘だから。他の人に漏らさないよう気をつけてね」

「わ、わかりました!」


 すごく笑顔だけど、有無を言わさぬ圧を感じる……。シリウスさん、こういう時は笑顔でも本心がわからなくて逆に怖いかもしれない。


「知りたいこともわかった。帰るぞ」

「えっ、もう帰るの?せっかく二人で来たんだからゆっくりしていけばいいのに」

「こんなところでゆっくりしても何も面白くないだろうが。それにお前たちの邪魔をするわけにもいかない。お前たちは忙しいだろう」


 そう言って、アデルはさっき来た魔法陣のあった場所に私を連れて入る。


「またここに来ることがないように祈る」

「ははは、そうだね。それじゃ、元気で」


 光の向こうの先で、シリウスさんが手を振っていた。


 光がおさまって目を開けると、教会のような建物のホールの中央に戻っていた。


「なんかすごいところだったね。シリウスさんも良い人そうだったし……いや、でもなんかちょっと得体が知れなくて不思議な感じだったな」


 うーんと考え込んでいると、アデルに腕を掴まれて引き寄せられる。そのままアデルの方を向かせられて、いつの間にか目の前にアデルの顔があった。


「う、え?アデル?」

「シリウスのことが気に入ったのか?」

「え?いや、気に入ったというか、綺麗な人だなとは思ったけど」

「他の男にうつつを抜かすとはいい度胸だな」

「うつつを抜かしてなんかいな、っ!」


 言い切る前に、アデルの唇が私の唇に重なる。執拗にねちっこく、舌を入れられながら何度もキスをされて頭がぼうっとする。唇が離れて、アデルは私の顔を見ながら上機嫌な顔で微笑んだ。


「お前は俺のことだけ考えていればいい。他の男のことなど考えるな。目移りは許さん」


 目移りなんてしてないのに。それにそんなこと言うなら連れて行かなきゃよかったのに。プロポーズを受け入れてから、アデルの私に対する執着が増した気がするんだけど気のせいかな?そんなことを考えつつアデルのキスで力が入らない私を、アデルは抱き抱えて建物を後にした。



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