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「俺にとってもエアリスは大切な存在だ。そのエアリスに何かあれば俺だって黙っちゃいない。それは忘れるなよ、アデル」


 真剣な顔でそう言うアルテリウスを、アデルは険しい顔で見つめている。


「お前のような存在が一番やっかいなのかもしれないな。だが安心しろ、何があってもエアリスは俺が幸せにする。悲しませるようなことはしない。エアリスが悲しむ顔を見たくないのは俺が誰よりも一番思っていることだ」


 アデルの言葉にアルテリウスはアデルをジッと見つめる。そして、表情を和らげてニッと笑った。


「そうか、それならいい。よかったな、エアリス。幸せになれよ」

「えっ、あ、うん。ありがとう!」


 とりあえず、深刻そうな雰囲気は脱したような気がするからよかった。アルテリウスはもういつも通りのひょうひょうとした顔になっているし、ファウス様も穏やかそうな表情で目の前のお茶を静かに飲んでいる。


 あれ、そういえば、なんかさっき気になったことがあった気がしたんだけど、なんだっけ?さっきまでの会話を思い出して、うーんと考える。えっと、なにか気になったこと……。


「あれ?私って、アデルの奥さんになるの?」

「は?」


 ふと口から言葉が出ると、アデルが両目が飛び出るんじゃないかってくらいに見開いて私を見ながらドスの効いた低い声で疑問を口にした。アルテリウスとファウス様は複雑そうな顔で私を見てからアデルを見てまた私を見た。なんならファウス様はティーカップを口元につけたまま固まっている。


「お前、何を言っている。俺の妻になるのは不満か。あれだけさんざん愛し合ったくせに、お前は妻になりたくないのか」

「ブフオッ」


 ファウス様がアデルの最後の一言を聞いた瞬間になぜかお茶を吹いてしまった。ファ、ファウス様!?


「大丈夫か?そりゃ、この二人の様子ならやることはやってるだろ。今更驚くなよ」

「うっ、げほっ、ごほっ。わ、わかってるんです。わかってるんですけど、いざ実際に言葉にされると衝撃が大きいといいますか」


 ファウス様の背中をさすりながらアルテリウスが言うと、ファウス様がせき込みながら悲し気に私とアデルを見て言った。


「アデル、まさかとは思うがお前、エアリスにプロポーズしてないのか?」

「ぷろぽーず?」


 アルテリウスの疑問にアデルが疑問で返す。


「結婚を申し込むことだよ」

「俺とエアリスはお互いに思い合っている。いちいちそんなことする必要ないだろう」

「ありますよ。現にエアリス様は混乱しているようですよ。あなたがちゃんとプロポーズしないからでしょう」


 ちょっとイラついたような顔でファウス様がアデルへ言う。いつも穏やかそうなファウス様がそんな表情するのなんだか珍しいな……。そう、確かに私はアデルからプロポーズされていない。突然私がアデルの妻になると言われて別におかしいことではないし、もちろん嫌なことではないのだれど、いまいち実感がもてないのは事実だ。


「いいか、魔族はどうか知らないが、人間は絶対ではないが基本的に結婚相手にはプロポーズをするんだ」

「体も重ね合わせ、お互いに思い合っているのにか?」

「うっ」


 ファウス様がまた胸を抑えてうめいた。ファウス様さっきから様子がおかしいけど、大丈夫かな……?


「それでもだ。ちゃんと相手の意思を確認しなきゃいけないだろ。世の中には心も体も通じ合っていても、結婚できないっていう人間もいるし、結婚できるとしても、あえて結婚を選ばないって人間もいるんだよ。一人一人生きてる状況も経験も考えも違う。それをちゃんと確認する必要があるだろ。人生のパートナーとして一緒に生きていくって言うのは、一方的に決めることじゃないんだ、お互いの気持ちを確認し合って、歩み寄るもんなんだよ」


 一番結婚というものに縁が遠そうなアルテリウスが、しごく真っ当なを言っていてすごく不思議な感じがしたけど、ファウス様がうんうんと首がもげそうなくらいうなずいている。

 でも、アデルはよくわからないというような複雑な顔をしながら私を見てくるので、苦笑してしまった。そうだよね、魔族として魔王として生きてきたアデルには人間の考え方はちょっと難しいのかもしれない。


「いいのよ、私はもう魔族になってしまったのだし、気にしてないわ。確かにびっくりしたけど、アデルは私を妻にしたいと思ってくれて、それが言わなくても当然だと思ってるんでしょう?私も、アデルの奥さんになるのは不満じゃないしむしろ嬉しいもの」


 そう言ってアデルを見ると、アデルは目を輝かせて嬉しそうだ。よかった。これで険悪な雰囲気はなんとか終わりそうかな、なんて呑気なことを考えていたのだけど。


「駄目です。エアリス様が良いと言っても、この件に関しては私が許しません。ちゃんとエアリス様に求婚して承諾を得ないなんてありえません。絶対に私が許しません」


 ファウス様が眉間に壮大に皺を寄せ、アデルを睨みつけてそう言った。ああ、ファウス様、せっかく場がおさまりそうだったのに……!

 アデルとファウス様が険悪なムードで睨み合っている。うわああもう、いつまで続くの?この状況嫌すぎるんですけど!


「まあ、俺もファウスの意見に賛成だな。それにアデル、お前、エアリスの両親のこと考えたことあるか?自分の娘が突然魔族に変えさせられたエアリスの両親の気持ちをさ」


 アルテリウスの言葉に、アデルがハッとして私を見つめた。


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