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アデルと体を重ね思い合ってから数日後、魔王城にアルテリウスとファウス様が招かれ、私が魔族になってしまった理由を説明することになった。
「エアリスを死なせないために魔力を流し込んだ、か。なるほどな」
アデルからの詳しい説明を聞いてアルテリウスが納得した顔でそう言うと、隣にいるファウス様も静かにうなずいた。
「それで、エアリスは良いのか?仕方ないこととはいえ、相談もなしに突然魔族になっちまったんだろ」
真剣な眼差しでアルテリウスが私を見つめてくる。ファウス様も同じようにジッと私を見てくるから、なんだか緊張してしまう。
「うん、アデルが私を助けてくれるためにしてくれたことだし、何よりも私はここで生きていくと決めていたから。むしろ魔族になれてよかったと思ってるわ」
笑顔でそう言うと、アルテリウスもファウス様も驚いた顔で私を見て、それから二人で目を合わせて笑い出した。え、私、そんなにおかしいこと言ってる?横にいるアデルを見ると、アデルも少し笑ってから私を愛おしそうな目で見つめてきた。うっ、そんな優しそうな顔されると、心臓がドキドキしてしまう。
「ははは、そうかそうか。やっぱりエアリスは面白いな!まさか魔族になれてよかっただなんて言うとは思わなかったよ」
「本当ですね。全く、エアリス様にはかないません」
楽しそうに笑いながら二人にそう言われて、褒められているのかもしれないけれどなんだか複雑な気分だ。
「エアリス様が魔族になったいきさつはわかりました。それとは別に、魔王アデルにひとつ聞きたいことがあります」
笑っていたファウス様が急に真剣な顔でアデルに話しかけると、アデルはファウス様に視線を向けて目を細める。なんだろう、急にぴりついた雰囲気になっている。
「エアリス様は魔王城で生きていくことを決めました。お二人を見ていれば、お二人が思い合っていることはよくわかります」
えっ、そうなの?見てわかるの?それはそれでなんだか恥ずかしい……。そう思ってアデルを見ると、アデルはファウス様から視線をそらさずに、私の手をギュッと握り締めた。
「魔族は相手を一人に絞ることはなく、複数の相手を持つということを聞いたことがあります。あなたもそのつもりなのでしょうか。エアリス様の他にも関係を持ち親密な仲になることがあるのでしょうか」
「……それを聞いてどうする」
「もしそうであれば、俺はエアリス様を諦めません。あなたが複数人と親密な仲になるのであれば、エアリス様だってそれが許されるはずです」
ファウス様、何をおっしゃってるんです!?驚いてファウス様を見ると、ファウス様は真剣な眼差しで私を見る。えええ、どう見ても冗談ではなさそうだ。
「へえ、面白そうだな。それじゃ俺も便乗して立候補するか」
ニヤニヤと楽し気にアルテリウスが言う。いやいや、待って!アルテリウスはこの状況を完全に楽しんでいるでしょう!私が慌てていると、アデルの私の手を握る力が強まった。
「俺はエアリス以外に興味がない、エアリス以外と親密な仲になどなりたくもない。もちろんエアリス以外を妻にするつもりはない。それに、エアリスが俺以外に目移りすることは許さん、絶対に」
グイッと私の手を引き寄せるとアデルは私の腰に手を回した。アデルと体の半分が密着してる、アルテリウスとファウス様の前で恥ずかしいんですけど!
「お前はまだエアリスを諦めていないのか。俺はお前のあの時の所業を許したつもりはないぞ。たとえエアリスが許しているとしても、俺は許さない」
アデルが怒気のはらんだ声でそう言うと、ファウス様はグッと言葉を詰まらせた。あの時って、王城で暴動を起こした国民に石を投げられた時のことかな……。
「許してもらおうだなんて思っていません。……ですが、それとこれとは話が別です。あなたがエアリス様一人だけを愛し抜くと言うのであればそれで構いません。ですが、俺が生きている間、エアリス様があなたのせいで悲しむようなことがあれば、俺は絶対にあなたからエアリス様を奪います」
「俺はエアリスを悲しませるようなことは絶対にしない。よって、お前の出る幕はない、失せろ。それからアルテリウス、面白半分でこの話に乗るのはやめろ、趣味が悪い」
アデルが冷ややかな視線を二人に送りながらそう言うと、アルテリウスはヘラヘラとした楽しそうな顔から一転、真剣な顔になる。それを見てアデルの私の腰に回した手の力が強まった。アルテリウスは私を真剣な眼差しでジッと見てからアデルに視線を移し、口を開く。
「確かに俺のエアリスに対する思いは、お前やファウスとはちょっと違うかもしれない。でもな、俺にとってもエアリスは大切な存在だ。そのエアリスに何かあれば俺だって黙っちゃいない。それは忘れるなよ、アデル」




