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52 気になる聖女(アデル視点)

 目の前で愛する女が乱れた姿で俺を見つめている。俺の手で、体で、心で、エアリスを乱すことができることに高揚する。愛しているから大切にしたい。愛しているからめちゃめちゃにしてしまいたい。相反する気持ちをぶつけてしまいたい。俺をエアリスに刻みつけてしまいたいと、体が勝手に何度も動いてしまう。


「アデル、……ああ、あっ」


 部屋の中に響くいやらしい音も、乱れた姿も、可愛い声で俺を呼び切羽詰まった様子で鳴く声も、俺がそうさせているのだと思うとたまらない。ずっとエアリスの中に入ってひとつになっていたい。エアリスの暖かさ、柔らかさに包まれて、気持ちがよすぎてどうしようもないのだ。俺が、誰かに対してこんな気持ちを持つなんて、こんな行為をしたいと思うなんて、エアリスに出会う前の俺にはきっと信じられないだろう。


「エアリス、愛してる」





 その聖女の初めて出会ったのは、王国とのとある戦いの時だ。王国に新しい聖女が現れたと聞いてどんな者かと様子を見に来たが、目の前の光景に自分の目を疑った。


(なんだこれは)


 敵国の聖女が、手当たり次第に治癒魔法をかけている。王国の兵士はもちろんのこと、なぜか戦っているはずの魔物にまで治癒魔法をかけているのだ。治癒魔法をかけられた魔物たちもポカンとして聖女を見ている。


「あの聖女、頭がおかしいんでしょうか」


 隣で見ていたユーデリックが呆れたように言った。ユーデリックの言うとおり、あの聖女は頭がおかしいのかもしれない。敵と味方の区別がつかないのだろうか。そう思っていると、王国の兵士にこっぴどく怒られている。それなのに、聖女は殺そうとするなんてかわいそうだと兵士に啖呵をきっていた。


(怒られるに決まっているだろうな。それにしても、怒られているのに言い返すとは本当におかしな聖女だ)


 戦いなのだから殺し合うのは当然だ。それなのに、殺そうとするのはかわいそうだと怒っている。あの女は一体何を考えているのか。呆れたように聖女を見ていると、聖女は言い返すのを諦めてすごすごとその場からいなくなった。きっと、邪魔だからどこかに行けと言われたのだろう。


(ふん、馬鹿な女だ)


 馬鹿だ、と思うのになぜか気になってしまい聖女を遠くから見る。すると、聖女は魔獣の子供を見つけた。怪我をしていたのだろう、治癒魔法をかけてから優しく魔獣の子供を抱き抱えると、キョロキョロと辺りを見渡しながら歩き出し、何かを探してる。


(魔獣の子供の親を探しているのか)


 とんだお節介だな、そう思っていると、魔獣の子供の親が現れた。親は聖女の腕の中にいる子供に気づいて聖女に怒りを向ける。だが、聖女は臆することなく魔獣の子供を親へ差し出した。子供は聖女の頬を優しく人舐めすると、親の元へ走っていった。親はそれを見て聖女を認めたのだろう、静かに頭を下げてから子供と一緒に森の中へ進んでいった。


 聖女は、ほっとして嬉しそうな顔をしている。金色の髪が夕日に照らされてキラキラと輝き、アメジスト色の瞳は喜びに満ちていた。その嬉しそうな顔を見ていて、なぜか胸の中がじわじわと温かくなっていく。


(この感覚はなんだ?)


 今まで感じたことのない、不思議な感覚。その感覚に戸惑っていると、聖女が何かに気づいて顔を上げ、視線がぶつかる。


(俺がここにいるのがバレたか)


 少し離れた場所の崖の上から聖女を見下ろしていたが、こちらの気配に気づいたらしい。聖女は驚いたように両目を見開く。きっと魔王だと気がついたのだろう。


「アデル様、どうしますか」

「放っておけ、聖女がどう出るか気になる」


 さて、聖女は魔王を相手にどう向かってくるのか、そう思っていると。


「綺麗……!」


 聖女は少し頬を赤らめながら、俺を見て目を輝かせてそう呟いた。その表情を見た瞬間、心臓がドンっと跳ね上がった。


「……は?」


 聖女と視線がぶつかったまま、なぜか身動きが取れない。この気持ちはなんだ?この心臓の高鳴りは一体なぜだ?不思議に思って聖女を見つめていると、遠くから声がする。


「アデル様、兵士が聖女を呼びに来たようです」

「……ああ、今日はもう城へ戻るぞ」


 ユーデリックにそう言って、魔王城へ転移した。転移魔法で転移するその瞬間まで、聖女から視線を逸らせなかった。


 その後も、なぜか聖女が気になって仕方がない。聖女が来るようになってから、王国との戦いは拮抗していた。なぜか王国側も魔族側も被害が最小限になるような戦い方しかしないのだ。


「聖女は一体何を考えているのでしょうね」


 ユーデリックが訝しげにそう言うと、他の幹部たちも首を傾げる。不思議だったが、お互いに被害が少ないのは良いことだ。しばらく様子を見ることになり月日は流れ、その日はやってきた。


「ええと、あの、色々ありまして、王国から捨てられました」


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