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「魔力については、きちんと説明する。だが、誰よりも先にエアリスに説明したい」
「まさかエアリスの許可なしにこうなってるのか!?お前、どういうつもりだ」
アルテリウスが真剣な顔で剣先をアデルに向けた。えっ、待って、どうして怒ってるの!?
「死にそうになったエアリスを助けるためにはこうするしかなかった。他に方法がなかったんだ」
神妙な顔でアデルがそう言うと、アルテリウスはアデルと私を交互に見て静かに剣を降ろした。よかった、戦いにはならないみたい。
「急を要することだったんだな。……わかった。後日改めて説明してもらう」
「ああ」
せっかく全て片付いたと思ったのに、なんだか不穏な空気なままで気まずい。私の魔力についてユーデリックさんもアルテリウスも驚いていたけれど、一体何なんだろう?そんなにおかしいことなのかな?確かに今までの自分の魔力とは違って、自分の魔力というよりも自分の体にアデルの魔力が流れているって感覚なんだけど、それは私を助けるためにアデルが魔力を私に流しこんだからで……それってダメなことだったの?
アデルをそっと見上げると、アデルは私を見て悲しげに微笑んだ。なんだろう、胸がザワザワと騒いで仕方がない。
「城へ戻ろう、エアリス」
◇
魔王城に戻ってから、王国からファウス様が来てシリーたちを回収していった。もちろん、シリーたちにはアデルが厳重な拘束魔法をかけている。三人とも戦意はごっそり抜け落ちていてまるで廃人になったかのようだ。その様子だけだと何だか可哀想な気もするけど、でも三人がやってきたことを考えれば、可哀想だなんて思う必要はないのかもしれない。
「エアリス様、その魔力は……」
そういえば、ファウス様も私の魔力に気づいて呆然としていた。
「のっぴきならない事情があるんだとよ。俺たちには色々と落ち着いてからちゃんと説明してくれるそうだ。だろ?アデル」
「ああ。きちんと説明する、それまで待ってくれ」
アルテリウスの言葉にアデルが静かに返事をすると、ファウス様は困ったような複雑そうな顔を私に向けて、静かに微笑んだ。
◇
ファウス様とアルテリウスが王国に帰ってから、アデルは私をアデルの部屋に連れてきた。今はソファに座らされて、隣にいるアデルが片手を腰に回してもう片方の手で私の手を握っている。すごい密着度……。そういえば、傷を治してもらってから魔王城に戻ってからもアデルはずっと私のそばを離れないでくっついていた。
「アデル、ずっと私から離れないけど、どうしたの?」
「お前、自分が死にそうになったことを覚えていないのか?」
そういって私の肩にそっと頭を乗せた。えっ、あのアデルが甘えてる!?嘘でしょう?驚いてしまうけど、アデルはそのまま動かない。
「お前がいなくなってしまうのではないかと思うと気が気でなかった。今こうしてお前がここにいるということを感じていなければ不安でたまらない」
そう言って、私の手を握るアデルの手に力が入る。
「ちゃんとここにいるわ。アデルが助けてくれたじゃない」
「それは……」
そう言って、アデルは顔を上げて私をじっと見つめるけど、その表情はあまりにも苦しそうだ。どうしてそんなに苦しそうなの?
「お前の魔力について、みんな驚いていただろう」
「え、うん」
会う人会う人みんな口を揃えてその魔力はどうしたのだ、と言ってきた。ユーデリックさんは、私の魔力が魔族の魔力になっていると言っていたけど、それはアデルの魔力が私の体内に流れ込んだからだと思う、のだけど、それがそんなに不思議なことなのだろうか?
「あの時、お前自身の体に俺の魔力を流し込むことで、お前の聖女としての魔力を打ち消し魔族の魔力に変えた。そうしなければ、聖女の聖剣で受けた傷は修復できなかったんだ。聖女の魔力を纏うお前の体では、聖女としての力が強すぎて俺の魔力が聖女の聖剣に通用しなくなる」
そう言って、アデルはそっと瞳を閉じて何かに耐えている。どうしたんだろう、どうしてこんなに辛そうなんだろう。何かを言わなきゃいけないのに、それを言うことをまるで恐れているようだ。
「アデル、どうしたの?あれはアデルが私を助けてくれるためにしてくれたことでしょう。それなのにどうしてそんなに辛そうなの?アデルがしたことは何か重大なことだったの?教えて、アデルが抱えているものを、私にも教えてほしい」
「エアリス……」
じっとアデルの目を見てそういうと、アデルの綺麗なオーロラ色の瞳が不安げに揺れている。ぎゅっと私の手を握りしめる手がまた強くなって、アデルは深く深呼吸した。
「お前の聖女としての魔力を打ち消し俺の魔力に変えたということは、お前が人間ではなく魔族になってしまったということだ」
……ん?私が魔族になった?




