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5 アデルの弟

「ええと、カイさん、ですね。私はこちらでお世話になっているエアリスと申します。それで、先ほどというのはどういうことでしょうか?私とカイさんは初対面だと思うのですが……」


 不思議そうにそう言うと、カイさんはお?という顔をしてからポン、と手を叩いた。


「ああ、そうか、この姿じゃわからないか」


 そう言って、指をパチンと鳴らした。すると、カイさんの周囲に煙が出てカイさんが見えなくなる。


「えっ!?」


 煙が消えて、そこにはカイさんではなく森で助けた白銀色の狼がいた!


「あの時の狼さん!?」


 思わずソファから立ち上がって狼に駆け寄ろうとしたら、アデルに腰をぐっと引き寄せられて立てない。きょとんとしてアデルの顔を見ると、アデルは不機嫌そうに私を睨む。えっ、怖い、どうして?


「ははは!どうしても俺に近づけたくないみたいだなぁアデルは」


 ポンっと音がしてまた煙の中からカイさんが出てきた。もしかしてあの白銀の狼がカイさんなの?


「別に俺は兄貴の手のついた女でも問題ないぞ?エアリスは人間のくせに森の中で警戒もせず狼姿の俺を助けてくれたし、魔王の兄弟にもわざわざ丁寧に挨拶してくれるし、めちゃめちゃ良い子だからな。俺はエアリスが気に入った」

「は?貴様何を言っている」

「いいだろ、魔族は別に一人に決めなきゃいけないわけでもないし、自由なんだから。そうだ、せっかくだから親睦を深めるためにこれから三人でヤルか?俺とアデルどっちがエアリスを気持ちよくしてあげられるか勝負しようぜ。それでどっちがいいかエアリスに決めてもらえばいいだろ」


 カイさんの言葉に耳を疑う。この人は一体何を言っているの?さ、三人で?気持ちよく?カイさんの言葉の意味を考えたら恥ずかしさで顔が熱くなってきた!魔族、意味が分からない!


「お前、ちょっと黙れ。黙らないと一度殺すぞ」


 アデルが殺気をまとってカイさんを睨んでいる。こんな殺気、今まで戦ってきた中でも見たことが無い……!アデル、もしかしたら王国と戦っている時全然本気を出してなかったんじゃないのかな。


「お~怖い!エアリス、こいつが嫌になったらいつでも俺のところに来ていいからな?こいつよりうんと優しくしてドロドロに蕩けさせてあげるから」

「いいから黙れ!」

「そんなことよりカイ様、カイ様はどうして森の中で怪我をしてらしたのでしょうか」


 ユーデリックさんが口を挟む。よかった、ユーデリックさんのおかげで話が逸れそう。


「あぁ、ここに来る途中で人間の兵士たちに会ったんだよ。俺を見つけて急に攻撃してきたから、反撃してやったんだ。兵士は全然大したことなかったんだけどさ、突然出てきた女に攻撃されて負傷した。あの女、やり口が卑怯な上に異常なほど殺気がやばかったぜ。殺すのが楽しくてたまらないみたいな顔してやがった。見た目は幼くて可愛い感じなのにもったいない」

「も、もしかしてその女性、薄い桃色の髪の毛をツインテールにしたアメジスト色の瞳の女性では?」

「お、正解。知り合いか?」


 カイさんの言葉に、私とアデルは目を合わせる。その女性こそ、異世界から転生して来た新しい聖女なのだ。聖女なのに殺すのが楽しくて仕方ないって……一体どういう思考の持ち主なんだろう。


「その女は異世界から転生して来てエアリスを王国から追い出した張本人だ。「聖女の力」のギフトを持っていて王や王子に取り入ったらしい」

「うわ、まじか。最近ここら辺で妙に戦が多いのはそのせいか、なるほどな」


 そう言ってカイさんは不敵に笑い、指をポキポキと鳴らし始める。


「そういうことなら少し偵察しに行ってくるか。俺に怪我させたあの女にも一度痛い目を見せてやらなきゃいけないしなぁ」

「あまり深追いはするなよ」

「大丈夫だって。とりあえず有益な情報を取って来るだけにするから。それにこんな素直で可愛いエアリスをあんなクソ女が追い出しただなんて考えただけでも胸糞が悪い」


 そう言っていつの間にか私の目の前にいたカイさんは、私の頬に手を伸ばしてきたけれど……。


「いててててて」

「とりあえず景気づけにこの腕を折ってやろう」

「やめろやめろ、エアリスにまだ触ってないだろが」

「触る前に折るんだよ」


 アデルから何とか腕を救出したカイさんは腕をさすりながらニヤッと笑った。


「そんじゃま、行ってくるわ。またな、エアリス」


 そう言ったカイさんは、瞬きをした次の瞬間にはいなくなっていた。すごい、アデルもそうだけど、カイさんも神出鬼没だ。魔族はそういうの得意なのかな。



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