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ドオオオン


 アデルに抱きしめられたまま転移した先にでは、勇者アルテリウスと魔王の力を持つ転生者デモスが戦っていた。大きな音がして辺り一面に砂埃が舞っている。その砂埃が風に流されると、地面に横たわるデモスの首にアルテリウスが剣を当てているところだった。


「まだ終わっていなかったのか」

「お、ようやく来たか。アデルもこいつとやり合いたいかと思ってとどめは刺さずにいたんだけどな」


 アルテリウスは余裕そうな顔をアデルに向けてニッと笑う。デモスはボロボロになって地面に這いつくばって、アデルとアルテリウスを悔しそうに睨みつけている。


「どうだ、勇者にボコボコにされた気分は」


 アデルが私を抱きしめたままデモスを見てそう言うと、デモスはギリ、と歯を食いしばった。


「どうして、どうしてだ!おれは魔王の力を持つんだぞ!勇者になんて負けるはずがない!」

「お前、この状況でまだそんなこと言ってんのか」


 アルテリウスはデモスをあきれたように見下ろす。


「アルテリウス、そいつを解放しろ」

「ん?いいのか」


 アデルの言葉にアルテリウスは剣をデモスの首から離し、デモスから離れた。デモスはゆっくりと立ち上がりながら自分に治癒魔法をかけると、ボロボロになっていたデモスの傷は綺麗に治っていった。


「はっ、どういうつもりだ、情けか?そんなものかけるなんてこの世界の魔王はずいぶんとお優しいんだな!」


 デモスがそう言うとアデルの目の前に爆発が起こる。驚いて目を瞑るけど、アデルも私も何ともない。それを見てデモスはちっ、と舌打ちをした。


「お前、俺に全力で魔法攻撃をしてみろ」

「は?」

「いいから、お前の全力を見せてみろと言っている」


 アデル、どういうつもりなのかしら。そっとアデルを見上げるけどアデルは真顔のままだ。アデルの挑発に、デモスは両目を見開いてからすぐにくくく、と笑い出した。


「はははは!俺の全力が見たい?いいだろう、見せてやるよ!だがそれでお前は死ぬことになるけどな!」


 そう言うとデモスの周囲に禍々しい魔力が浮かび上がっていく。その魔力は膨大で、周囲に暴風と雷鳴が吹き荒れ始めた。


「舐めやがって、後悔させてやる!」


 デモスが光る片手をアデルに向けた瞬間、アデルと私の周囲に爆音が鳴り響く。周囲の風景が一気に吹き飛んで、私は目を瞑ってアデルにギュッと抱き着いた。そんな私を、アデルはしっかりと抱きしめてくれている。


 爆音がおさまって途端に静かになった。周囲は焦げ臭いような、何とも言えない嫌な臭いを漂わせている。そっと目を開けると、アデルと私の周囲はごっそりと地面がえぐられている。


 そういえば、アルテリウスは!?キョロキョロと辺りを見渡すと、少し離れた場所に防御魔法で覆われたアルテリウスがいた。本人はいたって平気そうな顔をしている。よかった、無事なのね!


「ふん、これで全力か。やはりたいしたことはないな」


 アデルはそう言って静かにため息をついた。


「な、なぜだ!お前なぜ平気なんだ!」


 驚愕しているデモスを、アデルは冷ややかな目で見ると、私を抱きしめる力が強くなる。


「エアリス、すぐに終わる。両耳をふさいでおけ」


 え?何が始まるの?よくわからないけど、とにかくアデルの腕の中で両耳をふさいでアデルを見上げると、アデルは両目を真っ赤に光らせてデモスの少し左側を指さした。


 次の瞬間、さっきとはくらべものにならないほどの爆音が鳴り響き、暴風が起こる。デモスの背後が一気に崩れていって、まるで天変地異でも見ているかのようだ。一瞬にして、光景が変わってしまっている。


 デモスの背後、遠くにあった山という山が全て無くなり、地形も変わってしまっている。誰も住んでいないであろう場所を選んだんだろうけど、それにしてもあまりにも広範囲すぎて唖然としてしまった。


 あれ?そう言えばさっきまでそこにいたデモスの姿がない。どこにいったんだろうと辺りを見ると、デモスがちょっと離れたところに転がっていた。どうやらアデルが起こした天変地異の爆風で吹っ飛ばされたらしい。しかも、もしかして気を失ってる?

 呆れたような顔でアルテリウスがデモスに近づくと、デモスの胸ぐらを掴んだ。


「おい、起きろよ」


 そう言って、勢いよくデモスの頬を、って、わあ!叩いた!ぺしーんてすごい音がした!衝撃で、デモスが目を開ける。


「っは!」

「おい、みてみろ。これがアデルの力だ。これでも力の半分も発揮してない。わかるか?お前が魔王の力を持っていようがなんだろうが、差は歴然なんだよ」


 ぐい、とアルテリウスが掴んだデモスの胸ぐらを一瞬にして変わった風景の方へ向けると、デモスは驚愕して震えている。


「お前とは生きてる時間も、戦闘の経験値も人生の経験値も何もかも違うんだよ。それにアデルは自分の力に胡坐をかいたりしない。アデルの力は洗練されてるんだ。お前が太刀打ちできないのは一目瞭然なんだよ」


 アルテリウスがデモスの胸ぐらを掴んでいた手を離すと、デモスはその場に崩れ落ちる。それを見てアデルはハア、と小さくため息をついた。


「ユーデリック」

「はっ」


 またユーデリックさんが呼び出された。毎回毎回呼び出されて大変そう……なんて思ってると、ユーデリックさんが私の顔を見てふん、と鼻で笑う。あれ、思ってることわかっちゃったのかな。


「拘束してこいつも魔王城の地下牢へぶち込め」

「はっ」


 次の瞬間、またユーデリックさんとデモスが一瞬で消えた。いつもいつもすごいなぁなんて呑気に思っていたら、アルテリウスが近づいてきた。


「無事でよかったわ、アルテリウス」

「まあな。そんなことより、エアリスの魔力がそんなことになってるのは一体どういうことか説明してくれるんだよな、アデル。内容によっては俺はお前を許さない」


 急に真剣な顔でアデルにそう言うアルテリウス。あれ、なんだろう、せっかく全部終わったとおもったのに、不穏な空気になってる……?


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