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「あ、ガアッ」


 アデルに抱き着いていると、シリーのうめき声が聞こえた。シリーを見ると口から何度も血を流し、地面を這いつくばりながら苦しそうにうめいている。


「シリー……!アデル、あれは」

「お前を殺そうとした報いだ。あいつは生と死の間でずっと苦しみ続ける」


 心臓が凍り付いてしまいそうなほど冷ややかな視線でアデルはシリーを見ている。シリーは本当に苦しそうで見るに堪えない。ここまでだと、いっそのこと死んでしまった方がいいのではと思うほどだ。


「ね、アデル、もういいんじゃない?あれだけ苦しめばもうじゅうぶーー」

「だめだ。あいつは絶対に許せない。簡単に死なせてなるものか。お前をあんな目にあわせたんだ、いくら苦しめても足りないほどだぞ」


 アデルの地を這うような恐ろしい声に、私は思わず驚いて目をそらしてしまった。本当に怖い、怖すぎて体が震えている。こんなアデルは見たことが無い。それでも、やっぱりこのままは良くない気がする。私は震える自分の両手をきつく握り締めて、アデルを見た。


「で、でも、アデル。やっぱりこのままではだめだと思うの。シリーも、王国でちゃんと罰せられるべきよ。このままさんざん苦しめて、最後に一思いに殺してしまえばアデルの気は晴れるのかもしれない。でも、断罪されるのであればきちんと民衆の前で、シリー自身に罪を認めさせるべきだわ。そのためにも、もうシリーを苦しめるのはやめてあげて」


 私の必死な訴えを、アデルはただ静かに聞いていた。怒りに満ちたアデルの心に、ちゃんと届くだろうか、どうにかして届けたい。そう思っていると、アデルは私からふいっと視線を逸らす。


「アデル……」


 伝わらなかったのかな、届かなかったのかな。どうしたらわかってくれるだろう。必死に考えていると、アデルが急に口を開いた。


「ユーデリック」

「はっ」


 アデルの一声で、いつものように突然ユーデリックさんが現れた。ユーデリックさんは私を見て両目を大きく見開いて絶句している。何をそんなに驚いているんだろう?私が死にそうだったことを、遠いどこかでアデル経由で知ったのだろうか?


「エアリス、その魔力……なぜ人間のお前の魔力が魔族の魔力になっているんだ?……!まさか、アデル様」

「こうするしかエアリスを助けるすべがなかったんだ。詳しい話は後でする。それより、転送した村人たちはどうなった」

「全員治癒魔法を施して無事です。ファウスに渡し、王城の牢屋にぶちこまれています」


 よかった、シリーに切られた村の人たちは皆無事なんだ!ホッとしてアデルを見ると、アデルはシリーを見て目を赤く光らせる。すると、シリーは一瞬両目を大きく開いてすぐにガクンと力を失った。


「アデル!?」

「死んではいない、気絶しているだけだ。内臓の破壊も止めている。ユーデリック、そいつを魔王城の地下牢にぶちこめ」

「かしこまりました」


 ユーデリックさんがお辞儀をすると、一瞬でユーデリックさんとシリーの姿が消えた。


「アデル!ありがとう」


 私の思いがアデルに届いていた。嬉しくなって私が目を輝かせてお礼を言うと、アデルは諦めたような顔で私を見つめる。


「お前の言うことも一理はあるからな。奴は民衆の前で罪を認める義務がある。それにしてもお前は本当に優しすぎる。それがお前の良い所でもあり、悪い所でもあるが」


 そう言うとアデルは私の髪の毛を指にとって、そっと私の片耳にかけた。


「優しい、かな。そんなことないと思う。生きながらえて民衆の前で罪を認めたとしても、結局はきっと死罪になる。苦しんでひと思いに死ぬ方が苦しみから解放される気がするし、さんざん苦しんで苦しみから解放されても、その後ずっと牢屋でただ死を待つことの方がもしかしたら残酷なのかもしれない。私はアデルが思うほど優しくなんてないよ」


 そう、もしかしたらもっと残酷な道をシリーに与えてしまったのかもしれない。自分の言ったことが、選択したことが本当に良かったのかわからない。そう思ってうつむいていると、アデルが私の顎に手をそえてグッと上を向ける。目線の先には、優しい表情をしたアデルの顔があった。


「どちらがより苦しく残酷かなど、誰にもわからない。どちらにせよ、あの女はその苦しみと残酷さを受けなければいけないほどのことをしたのだ。お前が気に病むことなどどこにもない。それに、そうやってわざわざ悩むのはお前が優しいからだ」

「そう、なのかな」

「ああ、だからお前はそのままでいろ。お前がいつまでも優しく純粋でいられるように、俺がお前の分まで残酷さを引き受けよう。俺は魔王だからな」


 フッと自信ありげに微笑むアデルをみて、重かった心が一気に軽くなる。


「そんな風に言ってくれるアデルだって十分優しいわ。ありがとうアデル」


 そう言って私はアデルに抱き着いた。そうしなければ、なんだか涙が溢れてきてしまいそうだったから。アデルは私をギュッと抱きしめ返して、背中を優しく撫でてくれた。


「そういえば、ユーデリックさんが私の魔力に驚いていたけれど、あれってどういうことなの?」


 ふとユーデリックさんの表情と言葉を思い出して、アデルから体を離して尋ねると、アデルは急に神妙な顔つきになった。


「その件については、お前に詳しく説明して謝らなければいけない」


 謝る?何を?説明って何だろう?


「だがそれはすべて片付けて城に戻ってからだ。今はやらなければいけないことがある」


 よくわからないけれど、まだ勇者アルテリウスと魔王の力を持つデモスが戦っている。早く駆け付けなきゃ。

 アデルを見て大きく頷くと、アデルは私を抱きしめたまま転移した。



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