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47 アデルの怒り

「貴様、絶対に許さん」


 アデルの両目が鮮血のように真っ赤に光った。


「何言って……ひっ!」


 シリーは突然自分の胸元を掴んで両目を見開いた。次の瞬間、シリーの口から血が流れ出る。


「ゲホッ、ゴホッ、う、ああ」


 胸元を掴みながらシリーはうめき声を上げ始め、そのまま倒れ込んだ。倒れながらもシリーは胸元を掻きむしり苦しそうに呻いて悶えている。


「ガアッ、ゲフッ、ゴホッ」


 何度も何度も血を大量に吐き出し、地面を這いつくばっている。


「お前の内臓という内臓全てを壊している。壊しながら死ぬ直前でほんの少し再生し、また破壊する。その繰り返しだ。お前は生と死の間で繰り返し苦しめ」


「お゛、ガアッ」


 口から血を吐き出し、アデルに手を伸ばしてまるで命乞いをしているように見えるが、アデルは一瞥してすぐに私へ視線を戻した。


「エアリス、お前は死ぬな。こんなとこで死んではならぬ、俺を残して死ぬなど許さないからな」


 さっきまでシリーを鬼の形相で見つめていたのに、アデルの瞳に宿った赤い光はおさまり今はただただ悲しそうな辛そうな表情をしている。もう、アデルにそんな顔をさせたくない。


「ア、デ、ル、いい、の、もう……」

「ダメだ、俺が許さない」


 そう言ってアデルは両目を瞑り、一瞬苦しそうにしながらすぐに両目を見開いた。そして私に口づけをする。


「!」


 アデルの口から、私の口へ魔力が流れ込んでくるのがわかる。そしてそのまま私の体内へどんどんアデルの魔力が流れ込んでいった。清らかで美しい、圧倒的な魔力。アデルの魔力が私の全身の細胞一つ一つに行き渡るのが感じられる。心地よくて、ひんやりとするのに暖かくて、それだけでもう満たされた感覚だった。


 アデルに全てを包み込まれている。心地よくて、満たされていて、ずっとこのままアデルに包まれていたい、アデルと一つになっていたい、そう思えるほどだった。


「……ス、エアリス」


 一瞬意識を失いかけて、アデルの声に呼び起こされる。ゆっくりと瞼を開けると、目の前には心配そうに私を見つめるアデルがいた。


「アデル……」

「エアリス!よかった……!」


 目覚めた私に安堵したアデルが私を抱きしめた。さっきまで魔力で抱きしめられていた感覚だったけど、今はこうして生身の体でちゃんと抱きしめられている。魔力で包まれた感覚も気持ちよかったけれど、アデルの温もり、匂い、体の感触を感じられる心地よさに思わず嬉しくなった。


「アデル、助けてくれたのね」


 剣が刺さっていた箇所の傷口は塞がっていて、体のどこも痛くないし熱くもない。声もちゃんと出せる。

 どうして聖女の剣の力でできた傷が治せたのかいまいちわからないけど、あれだけの魔王の魔力なら治ってしまうのも頷ける。


「本当によかった。お前が死ぬなんて俺は耐えられない」


 ぎゅっと抱きしめる力が強くなった。こんなにもアデルは私のこと思ってくれてるんだ。嬉しくてつい顔がにやけてしまう。


「うふふ」

「……おい、この状況でなぜ笑っている」


 つい笑い声が漏れてしまった私に、アデルが呆れたように言って体を離して私の顔を見た。


「ごめんなさい、アデルの気持ちが嬉しくて。助けてくれて本当にありがとうアデル」


 なんだか気恥ずかしくなってアデルに抱きつくと、アデルはフッと笑って私を抱きしめ返してくれた。


「困ったやつだ。そんなところも愛おしいのだがな」



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