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 聖女の聖剣を持ってシリーはアデルに襲いかかってきた!既のところでアデルは私から離れ、シリーの剣を避けた。すぐにアデルも剣を出現させてシリーの剣を受け止め、払い除ける。


 聖女の聖剣は唯一無二であり、その力は魔王さえも凌駕すると言われている。そもそも私は聖女の聖剣を生み出したことがないし、使ったこともないからそれが本当かどうかわからないけれど、確かにシリーの剣を受けるアデルの表情にはいつもの余裕さが見られない。剣を受けることに強い衝撃がアデルにかかっているのが見てわかるほどだ。


「ほらほらほらほら!どうしたのよ!剣を受けてばかりで反撃すらできないのね!ざまぁないわ!」


 嬉々として剣を振り下ろすシリーと、なんとか剣を受け止めることに精一杯のアデル。どうしよう、どうしたらアデルを助けることができるの?私はどうすればいい?考えなきゃ、アデルのために、私ができること……。


「何もできない聖女様も無様ね!そこでそうやって見てることしかできないでしょう?でも大丈夫、すぐに終わらせるから」


 そう言ってシリーが微笑んだその瞬間、アデルの目の前からシリーが消えた。あれ?シリーはどこに……。


「カハッ」

「エアリス!」


 胸元に、何か熱いものを感じて視線を下ろすと、胸元にシリーの剣が突き刺さっている。そして胸元からじわりじわりと血が服に染み込んでいる。あれ?


「魔王を殺すと思ったでしょ?ざーんねん。魔王にとっておきの苦痛を与えるにはこれが一番だもの。あんたのことも殺せて一石二鳥だわ」


 背後からシリーの声がする。そうか、シリーが後ろから私の胸を聖剣で突き刺したんだ。胸の内側が熱い。痛いを通り越してどんどん熱くなっていく。

 なんだろうこれ、痛いはずなのにそれ以上にとても熱い。それに、血がぽたりぽたりと剣を伝って落ちていくのが見える。


「エアリス!」


 遠くでアデルの声がする。ああ、どうしよう、心配かけてる。大丈夫って言わなきゃ。でも、大丈夫って言いたいのに、声が出ない。喋ろうとすると内臓が痛くて熱くてたまらない。


「ふふふ、あははは!いい気味!」


 シリーはそう言うと、背後から消えて気配がなくなった。いつの間にか私の目の前の直線上、少し遠くに立って嬉しそうに笑っている。


 とにかく、この剣をどうにかしないと。胸に刺さった剣を掴んで意識を集中する。

 背後から刺されているから剣先を掴んでいる状態なのだけど、不思議なことに血が流れ始めた両手に痛みは感じられない。


「う……」


 両手が光ると剣も同じように光出した。そのまま意識を集中させていると、剣が光の粒になって消えた。

 なんとか剣を消滅させれたみたい。私だってこれでも聖女だ、むしろ私の方が本物の聖女なはずなのだから、シリーの剣を消すことは可能だろう。


「エアリス!」


 私が剣を消して前に倒れ込みそうになるのと同時に、アデルが私を受け止めてくれた。ああ、かろうじてまだアデルの感触がわかる。よかった。アデルがいる、アデルは無事だ。


「ア、デ、ル……」

「喋るな、今すぐに治癒魔法をかける」


 アデルが治癒魔法をかけてくれて一瞬楽になった、ように思えた。でも、すぐに傷口は開いてまた血が流れ出す。


「どうして……!なぜだ!」

「あはは!聖女から生み出された聖剣でできた傷なのよ、魔王の力で治せるわけないじゃない!あはは!」

「貴様……!」


 通常の傷なら魔王の魔力でも問題なく治癒できても、聖女の力そのものを宿す聖剣でできた聖女の体への傷は、魔王の力では打ち消されてしまって治せない。それでも、アデルは治癒魔法をかけ続けてくれていて私の命はなんとか繋ぎ止められていた。


「アデル、もう、いいから、無理しないで……」


 この後、魔王の力をもつ転生者デモスとの戦いも控えている。勇者アルテリウスがデモスと戦ってくれているけれど、万が一にもアルテリウスだけでは倒せない場合、アデルの力も必要になるはずだ。ここでアデルの力を無駄に消費して欲しくない。


 何より、意識がだんだんと朦朧としてきてる。きっと、このままだと……。


「エアリス、気をしっかり持て!」


 アデルの表情はあまりにも辛そうで悲しそうで見ているこっちが辛くなる。アデルにはそんな顔して欲しくない。いつだって余裕そうで、私のことをからかって楽しそうに笑うアデルが好き。だからそんな顔しないで。


「あははは!もうそろそろ死ぬんじゃない?残念だったわね、魔王アデル。大切な聖女様を守れなくて、しかも死なせてしまうなんて!いい気味だわ!

 そうだ、助けてほしい?助けてほしいなら、そうね、私にまた心臓を掴ませてよ。最初はうんと優しく、丁寧に触ってあげるわ。うんと気持ちよくしてあげるから。でも、少しずつ力を強めてあなたの苦痛に歪む姿を見てから、最後は一気に掴んで潰してあげる!

 それをさせてくれるならその女を助けてあげてもいいわよ、でもその頃にはあんたは死んでるけどね!あははは!」


 手を叩いて高らかに笑うシリーを見て、私を抱き止めるアデルの手の力が強まった。 


「……貴様、許さぬ」


 アデルから一気に膨大な魔力が浮かび上がり、アデルの両目が鮮血のように真っ赤に光った。



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