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「久しぶりね、魔王アデル、それにくたばり損ないの聖女エアリス」
村人たちに守られるようにしてシリーが顔を歪めて笑っている。……あれ?
「なによ、何をそんなに見てるのよ気色悪い」
ついシリーの顔をじっと見つめてしまっていたら、私の視線に気づいてシリーが不機嫌そうに言ってきた。
「顔が、斑点がなくなってるなと思って」
アデルの心臓を掴んだ代償として、シリーの腕から顔中にものすごい数の斑点が浮かび上がっていたのに、綺麗に無くなっている。
「デモスが消してくれたの。私の可愛い顔が台無しだって綺麗に跡形もなく消してくれたのよ」
頬に片手を添えてうっとりとした顔で言うシリー。
「確かに、とても可愛い顔に戻ってるわ」
シリーは性格には難があるけれど顔は本当に可愛らしくて、みんなが虜になるのもわかるなと思っていたから思わずそう言うと、アデルもシリーも唖然として私を見ている。ん?何か変なこと言った?
「な、何?ふざけないで、そんなおだてたこと言っても見逃してあげないわよ」
「別におだててなんかいないけど。あなたのこと、出会った時からとても可愛らしいと思っていたもの。こんなに可愛い子は見たことないって思ったわ」
純粋に思っていたことを言うと、シリーはさらに驚いた顔をして、アデルはクックックッと笑い出した。え、なんで驚いてるの?なんで笑ってるの?
「へ、へぇ、そうでしょう、私、可愛いのよ!誰よりも可愛くて愛らしく、みんなから敬られる存在なのよ!」
ふふん、と胸をはって自慢気に言うシリーを見て、私は思わずぽつりとつぶやく。
「……でも、だからこそなんでそんなに歪んだ顔をするの?せっかくの可愛い顔がそれこそ台無しだわ」
こんなに可愛いのに、シリーの顔はいつも歪んでおどろおどろしいものを醸し出している。せっかくの愛らしい顔がまるでおぞましく感じられてしまうんだもの。
そう思っていたことを口にした瞬間、シリーの顔がさらにおぞましくなった。
「は?」
こ、怖い!どうしよう、もしかして余計なことを言ってしまった?!シリーの恐ろしすぎる気迫に心臓がドッドッと嫌な音をたてている。
「だ、だって、前国王と戦いの話をしている時も、私を王国から追い出した時も、アーサーを人質にした時も、あなたの可愛いらしい顔はどこにもなくて、とても恐ろしい歪んだ顔になっていたのよ。本当はあんなに可愛い顔なのに……」
私の言葉を聞きながら、シリーは顔を引きつらせて私を凄まじい形相で見てる!だ、だからその顔!
「……はぁ、やっぱりあんたみたいな女は大嫌い。せっかく命だけは助けてあげようかと思ったけど、気が変わったわ、やっぱりお前は、殺す!」
そう言って、シリーは近くにいた村人の肩に突然剣を突き刺した!




