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 禍々しいほどの殺気を纏ったアデルに声をかけると、アデルはハッとした顔で私を見つめる。それからすぐに目を逸らして地面を見つめた。


「……カイ、近くにいるのだろう」

「おう、バレてたか」


 突然、カイさんの姿が現れる。


「それにしても、エアリスのこととなると本当にやばくなるんだな、驚きを通り越して呆れた」


 バランの惨状を見てカイさんはため息をつく。そんなカイさんを一瞥して、アデルは口を開いた。


「この男を拘束して魔王城の地下牢に繋いでおいてくれ」

「はいはい、わかりましたよっと」


 そう言ってカイさんが私を見ながらウィンクすると、指をパチンと鳴らした。その瞬間、カイさんとバランの姿がその場から消えた。


 さっきまでの戦いが嘘だったかのように、その場が静寂に包まれる。この後アデルに何て声をかけたらいいだろう。悩んでいると、アデルがゆっくりと私の方へ歩いてきた。


「エアリス、俺が怖いか?」

「え?」


 そう尋ねてくるアデルの顔は、先ほどまでとは打って変わって悲しそうで痛々しい。いつもの私をからかって楽しんでいるような余裕そうな顔はどこにもない。ただただ私を見て悲しそうに不安そうにしている。


「お前のこととなると、正気を失いそうになる。本当であればあんな男、あの場で始末してやりたかった」


 自分の掌を見つめてからぎゅっと拳を握る。その拳から血がじわじわと滲み出ていた。アデルは、自分の手に爪が食い込むほどにその手を握りしめている。


「アデル、血が出てる!」


 私は慌ててアデルに駆け寄って手を無理やり開き、治癒魔法を施した。


「確かにいつもと違ってびっくりしたけど、別に怖いとは思わないわ。それに、私がやめてと言ったらやめてくれたでしょう?だから、大丈夫よ」


 アデルの心が少しでも和らげばいい、そう思ってアデルを見て微笑む。そんな私の顔を見て、アデルもほんの少しだけ悲しそうに微笑んで、私を抱きしめた。


「アデル……?」

「どうしたらお前を独り占めできる?お前を閉じ込めて誰の目にもつかないようにしてしまいたい。お前を見て邪な考えを抱くような奴は全員殺してしまいたい。お前に危害を加えようとする奴も全員だ」


 ぎゅっ、と私を抱きしめる腕に力がこもる。いつもは余裕そうなのに、アデルの気持ちがこんなにも複雑で重いものだなんて思わなかった。自分がこんなにもアデルに思われているだなんてやっぱり不思議だ。


 よしよしと背中を撫でてあげる。こんなことでアデルが落ち着くかどうかはわからないけれど、何て言葉をかけてあげればいいのかもわからないから、こうするくらいしかできないのだ。


 はあ、と大きなため息が聞こえた。少しは落ち着いたのかな?そう思っていると、アデルが静かに体を離して私の顔を覗き込んだ。綺麗なオーロラの瞳が私をじっと見つめている。そして、その顔がいつの間にかすぐ目の前にあって、唇が触れた。


「!?」


 アデルの唇の感触がある。驚いて思わず後退りそうになるけれど、いつの間にかアデルの手が私の頭を押さえて離さない。唇が少し離れたかと思うと、またすぐにそれは触れ合って、アデルは私の唇を食むようにキスを繰り返している。

 次第にそのキスは激しさを増してきて、私の頭はだんだんと朦朧としてきた。どうしよう、急すぎて何が起こっているのかわからない。離れたいのに離れられないし、気持ちよくてふわふわする。


 アデルの舌が口の中から無くなりようやく唇が離れて、私は呼吸を整えた。アデルを見ると、その顔は色気を放っている。そもそも顔面がいいのに、キスをして色気がダダ漏れになるなんてヤバすぎる。さっきまであんなに辛そうな悲しそうな顔をしていたのに今は全く違うなんて、こんなの詐欺じゃない!?


 アデルは朦朧としている私の顔を見て、満足そうに微笑んだ。


「城へ帰るぞ」



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