34
「はぁ〜なんだ、バレてたか。まぁ想定内ではあるけど、エアリスなら簡単にこっちに来てくれるかなって淡い期待をしてたんだけどな」
バランはさっきまでの控えめで大人しそうな顔は消え、ニヤリと嫌な笑みを浮かべている。やっぱり、シリーたちの仲間だったんだ!
「エアリスをバカにした態度、後悔させてやる」
アデルがそう言ってふん、と鼻で笑うと、バランは鞘から剣を取り出した。
「ははは、やろうっての?いいねぇいいねぇ!殺し合おうぜ!俺はお前を倒してエアリスをもらっていく」
そう言ってバランは私を見ながらゲスい笑みを浮かべている。さっきまでのバランと全然違う、気持ち悪い!
「あの二人に渡す前に俺がエアリスを好きにしてもいいよなぁ?無理矢理犯して、可愛らしいその顔を苦痛と恐怖に歪めたらどんなにいいだろうな。想像しただけでゾクゾクする。そうだ、その後にあの二人と一緒にさらに滅茶苦茶にしてやろう!やばいな、興奮してきた」
気持ちの悪い笑みにハアハアと荒い呼吸。一体何を想像しているんだろう、本当に気持ちが悪い。これがこの男の本当の姿なんだ。
「と、いうわけで魔王にはここで死んでもらうよ」
バランがそう言った瞬間、目に見えない速さでアデルの目の前に現れて剣を振り下ろす!
キィン!!
アデルはいつの間にか片手に剣を出現させて、バランの剣を受けた。剣と剣がぶつかり合う衝撃で周囲に暴風が吹いた。
「アデル!」
バランの動きが速すぎてアデルはバランの剣を避けたり受け流したりするだけになっている。バランは勇者の力を持つだけあって、やはり強いのかもしれない。どうしよう、アデルが負けるわけない、そう信じているのに胸が苦しくて張り裂けそうだ。
バランの剣を受けていたアデルの足元が一瞬ぐらついた。それを見逃さなかったバランがアデルに剣を向ける。
アデルが地面に倒れこみ、バランの剣がアデルの胸元で止まった。
「ははは、こっちの世界の魔王は大した事ないんだな」
そう言ってアデルの胸元に剣を突き刺した、ように見えた。
「どこを見ている。それは残像で俺はこっちだ」
アデルがそう言った瞬間、バランの口から大量の血が吐かれる。
「ガハッ」
バランの背後にアデルがいて、アデルの剣がバランの胸元を突き刺していた。
「な……ぜ……いつの……間……に……」
バランは口から血を流し振り向きながらそう言って地面に倒れ込む。
「急所は外した。死ぬギリギリ手前で出血が止まるよう回復魔法もかけておいた。俺はお前が死のうがどうでも良いが、ファウスたちが納得しないだろうからな。それにあの二人の情報もお前から吐かせなければならない」
地面に突っ伏しながら血を流しているバランの目は朦朧としていて焦点が合っていない。死なせないと言ってはいたけれど、ギリギリの所で生かしておくアデルの残虐さが伺えた。
「それに、お前はエアリスで良からぬ想像をしただろう。俺はそれが許せない」
バランの髪の毛を掴んでアデルはバランを覗き込む。その顔は憎しみに満ちていて恐ろしいほどだ。
「全てが終わったらお前の記憶からエアリスを消す。お前の記憶と想像の中にエアリスがいるだけで腹立たしい」
そう言って、バランの頭を地面に叩きつけた!叩きつけられた頭から血がドクドクと流れている。バランは相変わらず焦点の定まらない目をしているが息はしているようだ。
「ア、アデル!もうやめて!」
私がそう言うと、アデルはハッとして私を見て、苦しそうな表情をした。




