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「俺は自分が勇者の力を持つ転生者だと気づいてから、ずっと魔王を倒すことだけを考えて生きてきたんだ。この力はそのためにあるんだって信じて疑わなかった。でも、この世界にはすでに勇者がいて、気が付いたら魔王と和解していた。一体どういうことだろうって思ったよ。それでも、勇者が魔王と和解するくらいなら、魔王はもしかして悪い奴じゃないのかなって思ったんだ」


 この世界の勇者が魔王と戦わないなら、自分が代わりに戦う選択肢だってある。でも、バランはそれを選ばなかった。


「元々いる勇者が選ばないことを、どうして俺が選ぶ必要があるんだろうって。戦いなんてものはない方がいいに決まっている。そう思って、俺は静かに暮らしていたんだ。そしたらある日突然、魔王の力を持っているって男が現れて」


 そこには聖女の力を持つ女性もいて、二人は相反する力の持ち主なのに仲が良さそうだった。そして、二人はこう言ったそうだ。


「この世界にすでにいる魔王と聖女、そして勇者を全て殺してしまおう、この世界のあるべき姿に戻すべきだ、俺たちはそのためにこの力を与えられたんだって言ったんだ。でも、俺は二人と性格が合わないというか……あの二人は戦うことにしか興味がないような人たちで。合わないなって思って断ろうとしたら、半殺しにされた」


 半殺し!?バランの言葉に思わず絶句してしまう。驚いてアデルを見ると相変わらず無表情のままだ。


「いいから言うことをきけ、さもなくばお前も今すぐ殺してやるって脅されてしまったんだ。怖くて怖くて……でもこの世界にすでにいる魔王アデルなら、もしかしたらあの二人をどうにかしてくれるんじゃないかと思って、一か八かで手紙を送ったんだ。あの二人からは監視されてるから、なんとか魔法で一時的に監視の目を逸らしてこうして会うことができたんだ」


 そこまで言って、バランは胸に手を当ててほうっと大きくため息をついた。きっと、緊張して話すことも大変だっただろう。バランの気持ちを考えるとなんだか心が痛くなる。バランを見つめていると、バランは私の視線に気づいて悲しげに微笑んだ。


「話はわかった。お前はこちらに寝返りたいと言うことだな」

「虫のいい話だと思われるかもしれないけど、俺はできれば戦いたくない。でも死にたくもないんだ。本当は誰の命も消えないでほしい……甘いと言われてしまいそうだけどね」


 バランは心の優しい良い人なんだわ。そんな人があの二人と仲良くできるわけがない。


「俺はお前がこちらに来ても別に構わない。国王と勇者アルテリウスにも話をつけておこう」


 アデルがそう言うと、バランは目を輝かせて嬉しそうに笑った。


「本当に!?ありがとう!やっぱり魔王アデルは良い魔族だ!聖女エアリスが一緒にいたいと思うだけのことはあるね」


 その通りなのだけれど、バランの言葉がなんだかちょっとくすぐったい。そっとアデルを見ると、アデルはまだ無表情のままじっとバランを見つめていた。


「それで、こちらに寝返ったことをあの二人にバレないために、一つお願いがあるんだ」

「お願い?」

「聖女エアリス、あなたに俺と一緒に来てほしいんだ。あなたが一緒に来てくれれば、あの二人も俺を疑うことはない。エアリスのことは俺が絶対に守ってみせる。あの二人には指一本触らせないよ。だから、一緒に来てくれないかな」



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