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「それにしても、魔王アデル。あなたがこうして私を魔王城へ入れて話を聞いてくれるとは正直思っていませんでした」


 ファウス様はためらいがちにそう言って、眉を下げて微笑んだ。


「シリーのことについて緊急の用件だと言われれば何かをあったのだろうと思うだろう。それに、お前はあの暴動事件の後、エアリスを一度も呼びつけることがなかった。それに免じて話を聞いてやろうとも思ったのだ」


 二度と私を呼びつけるな、というアデルの言葉をファウス様はちゃんと守ってくれた。だからこそ、アデルは今回ファウス様を信頼して話を聞こうと思ったのだ。


「あなたは本当に……魔王だけど魔王らしからぬところがありますね。だからこそ、エアリス様もあなたと共にいることを選んだのでしょうけど……少し、羨ましいです」


 悲しげに微笑むと、ファウス様は私に視線を向けた。


「エアリス様。あの時は本当に申し訳ありませんでした。いくら民を落ち着かせ王家の信頼を取り戻すためとはいえ、エアリス様に怪我を追わせてしまうなど……それに、あのやり方は間違っていた。本当に申し訳ありませんでした」


 そう言って、ファウス様は深々と頭を下げる。


「ファウス様、面をお上げください。あの時ファウス様がああするしかなかったということはわかっています。

 アデルには優しすぎると言われてしまいますが、それでもファウス様は国王としてすべきことをなさろうとしたのだと、私はそう思っています。正しかったとは思いませんが、ファウス様を責める気にもなれないのです」


 私の言葉に、ファウス様は顔を上げた。その顔は悲しげで辛そうで、見てて居た堪れなくなる。


「私はもう気にしていません。それに、アデルがあの時かわりに怒ってくれましたから。だから、ファウス様ももうそんなに気になさらないでください。ね?」


 そう言って微笑むと、ファウス様は私の両手を取って嬉しそうに微笑んだ。


「あなたには本当に敵いませんね。ありがとうございます。あなたは魔王アデルを夢中にさせてしまうだけのことはある。あんなことをしてしまいましたが、私はやっぱりあなたのことがずっと……いえ、これは言うべきではありませんね。これ以上は魔王に怒られてしまう」


 ファウス様はそう言って、私の両手を離しながら私の斜め後ろを見て苦笑した。なんだろうと思って振り返ると、ものすごい形相をしたアデルがファウス様を睨みつけている!


「アデル?どうしたの!?」

「……無駄話は終わったか?終わったのであればさっさと帰れ」

「そうですね。今日はこのくらいにして、また近いうちに詳しく話し合いましょう。その時はアルテリウスも交えて作戦を練りたいですね」

「そうだな。……そうだ、これを持っていけ」


 そう言ってアデルが片手を出すと、片手が光ってそこにはいつの間にか魔石が数個現れていた。


「これは?」

「結界の強化魔法が施された魔石だ。結界が破られたと言っていただろう。この魔石を結界の中に置いておけば強化される。また破られることはないだろう」


 アデルがそう言うと、ファウス様は驚いた顔でアデルを見つめた。


「いいのですか?」

「ああ」


 アデルが魔石を渡すと、ファウス様は魔石を大事そうに握りしめた。


「ありがとうございます。あなたは本当に……魔王らしくない魔王ですね」

「そもそも魔王らしいとはなんだ?人間が勝手に魔王というもののイメージを作り出しただけだろう。もしくは、過去にいた魔王の行いだけで他の魔王もそれと同じだと勝手に思い込んでいるだけだ」


 胸の前で腕を組み、アデルはふんと鼻で笑う。


「俺は魔王だが魔王である以前に俺だ。俺は俺として生きてる。それだけだ。それに、お前の国を助けることはエアリスの故郷を助けるということだからだな。それ以外の何でもない」


 アデルの返答に、ファウス様は嬉しそうに笑った。


「あなたは本当にエアリス様のことしか頭にないのですね。魔王を虜にするなんて、エアリス様は本当にすごいお方だ」


 アデルがどうしてそこまでして私のために尽くしてくれるのかさっぱりわからないのだけれど……ファウス様もアデルもなんだか楽しそうで嬉しそうで、私もつられて笑ってしまった。




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