27
「その男は突然アルテリウスを訪れ、自分は魔王の力を持つ者だと言って襲ってきたそうです」
アルテリウスは応戦し、魔王の力を持つ男はある程度戦って満足したのか、立ち去ったそうだ。
「また会おう、次会う時は俺がお前を殺す時だ、と言って去っていったそうです」
——勇者アルテリウス。この国の勇者であり、一時はアデルとも刃を交えたことがある。だけど、その後アデルとアルテリウスは話し合い、お互いに干渉しないということで決着がついた。でも、それが前国王の逆鱗に触れ、アルテリウスは国を追放されてしまったのだ。
追放されたとはいえ、アルテリウス本人としてはむしろ良かったようで追放先で静かにのびのびと暮らしていると便りで聞いてはいたけれど、まさかそこに魔王の力を持つ男がわざわざ訪れ、しかも戦うだなんて。本当に、その男は一体何を考えているのだろう。
「アルテリウスは、無事なのですよね?」
アルテリウスは勇者だ。その力は魔王と互角とも言われている。でも、やっぱり心配なものは心配だもの。尋ねると、ファウス様は静かに微笑んで頷いた。
「少し怪我を負ったようですが、無事です。近々彼もこちらに伺うつもりだと言っていました。魔王アデルと今後のことについて話がしたいと」
「なるほどな。俺もその話は直接聞いてみたい」
勇者と魔王は本来敵対する者同士。だけど、アデルとアルテリウスは敵対するどころか話が合うようだった。だからこそ、アデルを倒したかった前国王はアルテリウスをよく思わなかったのだけれど……。
「私も、久しぶりにアルテリウスに会いたいな」
アルテリウスも私と同じように無駄な殺生は行わないというタイプの人だった。私は聖女である以上、国のために聖女の力を使わなければいけないと思って国に残ったけれど、アルテリウスは勇者だからという考えに縛られず、自分が思う通りに行動した。
追放された時には民たちから随分とひどく言われたようだったけれど、そんなことは気にもせず、むしろ重責から解放されると言って嬉しそうに国を出ていくような人だった。だからこそ、アデルとも気が合ったのかもしれない。
アルテリウスのことを思い出して思わず微笑んでいると、アデルが複雑そうな顔で私を見ている。
「アデル?」
「……そういえばお前はアルテリウスと面識があったのだったな。確か、当時はお前も一緒に国を出ないかと誘われていたのではなかったか」
「そういえば、アルテリウスが国を出る時、私にも聖女という重荷をおろして一緒にくればいいと言ってくれたわ。でも、勇者がいない上に聖女もいなくなるなんて国として危ういし、生まれ育った国を簡単に捨てれるほど私は強くなかったもの。結局は、私もその国から捨てられてしまったけれど……」
そう言って苦笑すると、アデルは私をじっと見つめたままだ。表情は相変わらず複雑そうで、何か言いたそうな顔をしている。どうしたんだろう。
「もし今アルテリウスに一緒に来いと言われたら、お前はアルテリウスの所へ行くのか?」
「え?どうして?今私はアデルと一緒にいるのに、アルテリウスがそんなこと言うわけないじゃない」
アデルは随分と不思議なことを聞いてくる。キョトンとしてアデルを見ると、アデルはなぜか不安そうな顔をして私を見つめている。本当に、一体どうしちゃったんだろう?
「魔王アデルは魔王の力を持つ男の脅威よりも、エアリス様のことの方が気掛かりでならないのですね」
ファウス様はそう言って苦笑している。私はファウス様が何のことを言っているのかわからなくて、またキョトンとしてしまった。




