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「シリーが逃げた!?」
今、目の前には王国の現国王になったファウス様がいる。王国と魔王城の危機に繋がる大事な話がある、と言ってファウス様は魔王城を訪れたのだ。
「正確には連れ去られた、ということになりますね。先日、シリーのいる牢獄に不審者が現れました。その男は、王城の結界魔法をことごとく破り、牢獄にかけられた魔法を無効にする結界も破りました」
ファウス様は神妙な面持ちで静かに話し始める。
「看守の話によるとその男は、シリーの元を訪れると、こう言ったそうです」
『俺は「魔王の力」のギフトを持つ転生者だ。「聖女の力」を持つこの女は俺がもらう。そして、この国もいずれ俺のものにする。2週間待ってやる。国を滅ぼされたくなかったら俺に従うと誓え。それができないのならこんな国、一瞬で滅ぼしてやる』
「魔王の力を持つ転生者……」
聖女の力をもつ転生者シリーにも驚いたけれど、魔王の力を持つ転生者もいるだなんて。思わずアデルの顔を見ると、アデルはいつも通りの真顔だった。
「その男はそう言ってシリーと共にその場から消えたそうです」
「……それで、お前はどうしたいんだ。わざわざ国王がここに来たからには何かあるのだろう」
アデルは表情ひとつ変えずにファウス様へ告げた。ファウス様はアデルを見て静かに深呼吸をする。
「その男は、こうも言っていたそうです」
『この世界に元々いた魔王に伝えろ。お前は俺が殺す。この世界に魔王は二人もいらないからな』
この世界の魔王を殺す。つまり、アデルを殺すということだ。
「魔王の力のギフトを持っているということは、あなたに匹敵する力を持っているということでしょう」
ファウス様は両手を膝の前で強く握りしめる。
「どうか、我々と共闘していただきたい。我が国はあなたたち魔族と戦うことなく適切な距離を保つことを選んだ。だが、あの男は我が国を自分のものにしようとしている。そんなことは絶対に許されない」
「だが、自分たちではどうしようもできない。だから俺と手を組みたいと、そういうわけだな」
アデルの問いに、ファウス様は静かにうなずいた。それを見て、アデルはフッと静かに笑う。
「なるほど。魔王の力を持つ転生者か。面白い。いいだろう、手を貸そう。魔王の力を間違った使い方で乱用しようとするクソには本当の使い方を教えてやらねばな」
アデルはそう言って口の端に弧を描いた。でも、本当に大丈夫なのだろうか。その男も性格に難がありそうだし、聖女の力を持つ転生者シリーを味方につけているとなると余計に危ない予感しかしない。
「そう不安そうな顔をするな」
そう言って、アデルは私の髪の毛をサラサラと優しく撫でる。
「それから、もう一つ。勇者アルテリウスが一度その男から襲撃を受けたそうです」
「勇者が?」




