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 アデルが、私の心臓を触る……?


「魔王って、聖女のように他の人の心臓を触ることができるの?」


 素朴な疑問をぶつけてみると、アデルは少し落ち着いたのだろうか、口の端に弧を描いて言った。


「俺ほどの魔力の持ち主であれば可能だ。もちろん限られた人数にはなるが、俺だけではなく俺と同じかそれ以上の魔力の持ち主であればお前の心臓を掴むことができる」

「そんな人が他にもいるの?!」


 魔王アデルと同じ、そしてそれ以上の魔力の持ち主がこの世界にいるだなんて驚きだわ。唖然としてると、アデルは急に顔を曇らせた。


「だからこそ、お前の心臓を触りたいんだ。俺が触りお前の心臓に俺の魔力の膜を貼る。そうしておけば、誰かがお前の心臓に触れようとしても俺の痕跡によって相手を遮ることができるからな」


 そんなことできるんだ……。驚きの連続で言葉が出ない私を、アデルは苦しそうな瞳で見つめてくる。


「お前の心臓に触れるのは俺だけだ。他の誰にも触らせたくない」


 アデル以外の人物が私の心臓に触れるようなことがあるとすれば、きっと私を殺そうとするときだ。アデルは多分それを阻止しようとしてくれている。アデルにとって、私はそんなにも重要な人物になれていたことに驚きだし、純粋に嬉しい。


「魔王が聖女の私の心臓に触れても、大丈夫なものなの?何か副作用的なことが起こったりとかは……」

「承諾もなしに勝手に触ろうとすれば、それなりの反動はあるだろうな。だからこそ、俺はお前に許可を取ろうとしている。それに、勝手に触るようなこともしたくない」


 アデルは魔王だけど、やっぱり誠実だ。なんだか嬉しくなって思わず笑みがこぼれてしまう。


「……わかった。アデル、私の心臓を触って。私も、あなた以外の誰にも触られたくない」


 そう言って微笑むと、アデルは目を輝かせた。基本真顔で表情が読めないけれど、最近はなんとなくアデルの感情が少しずつ見えるようになってきた。そういう変化も、私にとっては嬉しい。


「ありがとう。怖い思いはさせない。痛くないように気をつける」


 そう言ってアデルは静かに片手を出すと、じっと片手を見つめて集中し始めた。アデルの片手が青白く光だす。


「……っ!」


 突然不思議な感覚に襲われて、変な声が出そうになる。心臓が何かに触れられていて、包まれている感覚だ。きっとアデルの手の感覚なんだろうけど、心臓を触られることなんて初めてだから不思議で少し怖い。


「大丈夫か」

「う、うん、驚いただけで、大丈夫……」

「そうか。お前の心臓は柔らかくて暖かくて可愛らしいな」


 アデルは優しく微笑んで、心臓を掴んでいる指を少し動かした。


「……は……っ」


 また変な感覚だ。不思議で、体の内側から熱い何かが込み上げてくるような感覚。でも嫌な気持ちはしないのは、アデルだから?そう思っていると、アデルは私を見て嬉しそうな意地悪そうな複雑な表情をしている。どうしてそんな顔するの?


「お前の心臓を掴んでいるのが俺だと思うと、興奮するな」


 そう言って、ほんの少しだけ手の力を強める。


「っ……あ……!」


 心臓に力がかかる。痛いわけではないのだけれど、やっぱりよくわからない不思議な感覚だ。また変な声が出そうになって、思わず両手で口を抑える。いつまでこれが続くの?


 そう思っていると、アデルは片手に顔を近づける。そして、掴んでいるけれど目には見えない心臓に静かに口付けるような仕草をする。


「……!」


 心臓に、柔らかい何かが触れた感触。きっとアデルの唇だ。触るだけじゃなくてキスまでするなんて聞いてない!怒りたいのに、体がいうことを聞いてくれない。アデルは心臓にキスをしてからまた少し指を動かして心臓を愛おしそうに触っている。そのせいで体も頭もふわふわしておかしくなりそうだ。


「……アデ、ル、もう……無理だから……早く……!」


 私が胸を押さえながら言うと、アデルは私の顔を見て少し残念そうな表情をする。


「そうか、そうだな。もう少し触っていたいが、お前に無理をさせる訳にはいかない。そろそろ終わりにしよう」


 そう言ってアデルは片手に魔力を込める。すると、片手の青白い光がより強くなって、私の心臓の温かさも強まった。心臓が何かに守られているような感覚だ。


 そうして、次第にアデルの片手の光は弱まり、消えた。





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