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 ――二度とエアリスを呼びつけるな。


 アデルの言葉と気迫に、ファウス様は顔を強張らせている。ふと、私と目が合ってファウス様は口を開いた。


「エ、エアリス様……私は……!」


 ファウス様が何か言いかけているけれど、それを遮るようにアデルは自分の体で私の姿がファウス様に見えないようにする。


 そしてそのまま、アデルは私を連れて魔王城へ転移した。





「アデル、ファウス様は何か言いかけていたけれど……」

「それがどうした。あの男は自分と王家の信頼を取り戻すためにお前を使おうとしたんだぞ、しかもあんなやり方でだ。結局、今までの王と対して変わらないではないか。そんな男の話に耳を傾ける必要があるか?」


 アデルは不機嫌そうに私を見ている。確かにそれはそうなのだけれど。

 ファウス様もああするしか方法がなかったのかもしれない。もしかしたら、苦肉の策だったのかもしれない。


「他に方法がなくて仕方がなくああするしかなかったのかもしれない、とでも思っているのか」


 どうしてアデルは毎回毎回私が思ってることを言い当ててしまうんだろう。そんなに顔に出てしまってるとしたら、それはそれで問題な気がする。

 思わず頬を両手で隠すと、アデルはふんと鼻で笑う。


「たとえそうだったとしても、だとすればそれを事前に言うべきだろう。言わずしてあのような状況を作り出したのであれば、非はあちらにある。それに何よりもお前は血を流したのだぞ」

「血を流したって、ちょっとだったし小さな怪我みたいなものよ」

「お前がよくても俺がよくない。俺が許せない」


 そう言って、アデルは辛そうな顔で私を見ながら私の額を優しく撫でる。

 アデルの治癒魔法ですっかり治っているから大丈夫なのに、そんなに心配されるとなんだかくすぐったい。


「聖女だからといって、民の全てを受け止めようとする必要はないのだぞ。聖女だから受けとめてくれるだろう、何を言っても許されるだろう、聖女のくせに、などと思ってあぐらをかいているような民のためになど自分を犠牲にしてまで向き合ってやることはない」


 じっとアデルの美しいオーロラ色の瞳に見つめられて、まるで時が止まったように感じる。


「お前はもっと自分を大切にするべきだ。あのクソ聖女のように身勝手になれとは言わないしなって欲しくもないが、お前は自己犠牲がすぎる。もっと自分に優しくしろ」


「自分に優しく……?」


 自分に優しくしているつもりだけれど、できていないのだろうか?

 確かに聖女の力があるとわかってから、何よりもまず王国のため、人々のためにと教えられそれが当然だと思って生きてきた。

 だからそうすることが自分の喜びであると思っていたけれど、それは自分への優しさではないの?


「お前が自分へ優しくすることがどういうことかわからなくてできないのであれば、俺が代わりにお前にうんと優しくしてやろう。うんと可愛がってやる」


 そう言って、アデルは私をふんわりと優しく抱きしめてきた。


「アデルは今までだってじゅうぶん私に優しくしてくれているわ。あなたは魔王だけど本当に優しい人よ。ありがとう、アデル」


 アデルに抱きしめられてなんだか少しドキドキするのはなぜだろう。でも、嫌な気持ちはやっぱりなくて、思わず感謝の気持ちを述べると、アデルは私を抱きしめる力をほんの少しだけ強めた。









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