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 魔王アデルとの話が終わって、私はまた目が覚めた時の部屋に戻ってきた。部屋にいるのは私だけじゃなく、魔王アデルも目の前のソファにゆったりと座って紅茶を優雅に飲んでいる。


「あの、魔王アデル、いえ、アデル様?とお呼びした方がいいのでしょうか。どうして私を魔王軍の一員に?」


 とりあえず一員にさせられたのなら、魔王には様を付けた方がいいのかなと思って聞いてみる。それに、なぜ突然魔王軍の一員にされたのかさっぱりわからない。疑問を投げかけると、アデルはティーカップを静かに机に置いて私をジッと見つめた。


「アデルでいい。敬語もいらない」

「えっ、いやでも」


 他の幹部の方々に絶対怒られそうな気がする。


「大丈夫だ、ユーデリックたちにはちゃんと言っておくから気にするな」


 うわっ、なんで思ってることわかったんだろう?顔に出てるのかな?


「なんでわかったんだろう?顔に出てるのかな、って顔に書いてあるぞ」


 くくく、と笑いをこらえながらアデルが言う。うわぁ、正解みたい!恥ずかしい!


「なぜ魔王軍の一員にしたかだったな。特に理由はない。気分だ」


 気分、ですか。なるほど、ってなるほどじゃないけれど。でもこの魔王ならあり得そう。


「お前、王国軍として戦っていた時、わざと魔獣たちの急所を外したり、あまり重症にならないようにしていただろう。どちらの被害も最小限になるように図っていたこともわかっている。どうしてそんなことをした?」


 アデルは心の中を覗き込むかのように、私の瞳をジッと見つめてくる。また、光に当たってキラキラした瞳に吸い込まれそうだ。って、今はちゃんと質問に答えなきゃ。


「それは……私は本当は戦いたくない。できることなら、戦わないで平穏に、お互いが干渉しないで暮らせたらそれでいいと思うのだけれど、でも王はそれを望まないから。だからいつも、せめて被害が最小限になるようにと思って戦っていたの」


 魔王軍は王国を侵略してくるわけではない。むしろ、王国が魔王城を侵略しようとして攻撃を仕掛けていた。私はそれがどうしても納得いかなくて何度も王を説得しようとしたけれど、駄目だった。異世界人の新しい聖女はどうやら交戦的らしく、王とも気が合ってたみたいだ。


「なるほどな。平和主義者な聖女様は新しい聖女様が来たことで不要になったと、そういうことか」


 アデルは顎に手を添えて静かにテーブルを見つめている。なんとも絵になる姿だわ。ずっと見ていてもきっと見飽きないと思う。そう思っていたら、ふとアデルがこちらを見て静かに微笑んだ。って、すごい破壊力!どうしよう、心臓がもっていかれそうになる!まさか、これが魔王の力!?


「どうしたんだ?顔が赤いぞ」

「あ、あまりにあなたの破壊力がすごくて、心臓が止まりそうなの。もしかして、あなたの力ってそういうものなの?見たものの目を奪って心臓を持って行ってしまうような力?」


 胸を抑えてそう言うと、アデルは両目を見開いてから楽しそうに笑い出した。え、何かそんなに面白いことを言ったかしら?


「くくく、ははは、っはぁ、お前は本当に面白いな」


 そう言ってアデルは立ち上がって私の隣に座った。ち、近い!


「そういえば、お前を拾ってきてからメイドに魔法で一通り傷の手当てと汚れを取ってもらったが、人間は風呂に入るのだろう?湯を沸かせておいたから入るといい。せっかくの美しい金色の髪も手入れをしないと台無しだ」


 そう言って私の髪の毛を手に取っていじっている。そして、何かに気づいたように私を見た。なんだろう、すごく嫌な予感がする。


「そうだ、一緒に入って体をすみずみまでくまなく洗ってやろうか?」


 にやり、と微笑むその顔は妖艶という言葉がぴったりで、私の心臓はまた跳ね上がる。やだ、無理。この魔王本当に無理すぎる。そんなこと冗談でも言うのやめてほしい。


「お断りします!」

「なんだ、そうか。ふっ、ふふふ」


 大声で断ると、アデルは心底残念そうな顔で言った後、笑いをこらえていた。絶対に私をからかって喜んでいる!ここにいる限り、アデルにからかわれ続けるんだろうか。先が思いやられるわ……。






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