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「待ってください!!」


 部屋に鳴り響いた私の声に、アデルは驚いてこちらを振り返っている。

 ファウス様も驚いた顔をして私を見ているけど、ユーデリックさんだけはいつも通りの落ち着いた表情をしていた。


「アデルは私を王国へ返すと言ったけれど、私は王国へ帰るつもりはありません」


 はっきりそう言うと、アデルは美しいオーロラ色の瞳を見開いて私を凝視している。


「それは、どういう意味でしょうか?私との結婚はできないということですか?」 


 ファウス様がひどく戸惑った顔をしながら私へ質問した。


「ファウス様。結婚の申込みは純粋にありがたいと思いましたし、私に不自由な思いはさせないと言ってくださって本当に嬉しく思いました」

「だったら……」


「それでも、私は王国へは帰りません。私は、魔王城でこれからも過ごしたいのです」


 そう言うと、アデルがこちらへ一歩、また一歩と足を進めてくる。離れていた距離がまた少しずつ縮んてきた。


「魔王アデル。もしかしたらあなたにとって私はもう不要なのかもしれません。それでも、私はあなたと一緒に、あなたの大切な部下や魔獣たちと一緒にこれからも過ごしたいのです。どうか、また私をあなたの大切な一員に加えていただけませんか?」


 声が、少し震えてしまっているかもしれない。でも、ちゃんと言わなければと思った。私にとって、これは本当に大事なことで、アデルにちゃんと伝えたいことだったから。


「……お前は、王国で暮らした方が幸せなのではないか?第二王子は、不自由させないと言っていた。人間であるお前は、人間と共に、慣れ親しんだ王国で生きていく方が幸せなのではないか」


 アデルは私の目の前まで来て静かにそう言った。そう言いながら、不安そうな瞳で私をじっと見つめている。


「私がどこにいてどう暮らすのが一番幸せなのかは、私が決めること。そして、私はあなたと一緒に魔王城で暮らしたい。それが、私の幸せだと思うから」


 そう言ってにっこりと微笑むと、アデルの両頬が赤潮していく。


「そんな、あなたは人間です。魔王たちと暮らしても生活や習慣の違いに戸惑うことがきっと……」


 異を唱えてくるファウス様を見て私は言った。


「保護されてから今までずっと魔王城で暮らしていましたが、不自由に思うことも戸惑うこともありませんでした。

 むしろ新しい発見がたくさんありましたし、正直、王国にいた頃よりもずっと居心地がよかったんです。

 きっと、アデルが不自由しないようにと色々としてくれていたんだと思います」


 私の言葉に、ファウス様はひどく困惑した顔をしている。


「困らせてしまって、本当にごめんなさい。でも、これが私の答えです」


 そう言って、ファウス様からアデルへ視線を移すと、アデルはもう私から視線をそらさなかった。


「本当に、本当に良いのだな。俺はもうお前を二度と離してやらぬぞ」


 アデルが静かにそう聞いてくるので、私は満面の微笑みをアデルへ向けて大きくうなずいた。


 フワッ


 突然、アデルの両腕に包まれる。いつの間にかアデルに抱きしめられていた。久しぶりのアデルの匂いとぬくもりはとても安心する。


「これがエアリスの答えだ、第二王子よ。申し訳ないがエアリスは返せなくなった」


 アデルがそう言うと、ファウス様は諦めたような顔で大きくため息をついた。


「……それがエアリス様の意思であれば仕方がないですね。諦めます」


「あの、ファウス様、ひとつ提案があるのですが」


 アデルの腕の中から顔をのぞかせて、私はファウス様へ声をかけた。








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