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「いやぁ、エアリスがまさか王国の第二王子に求婚されるとはなぁ!さすがは俺とアデルが気に入った人間だ!」


 はっはっは!と嬉しそうに笑いながらカイさんがそう言うと、アデルは不機嫌そうに顔を背けた。

 少し機嫌がなおったかなと思っていたのに、アデルはまた不機嫌になっている。


「でも、アーサーの助言も気になるな」


 魔王城へ帰る直前、アーサーに小声で言われたことを思い出す。


「魔王アデル、そしてエアリス様。ファウス様にはくれぐれもお気をつけください。あの方は良い方ではありますが、狡猾な方でもあります。言葉の文面通りに捉えるのは危うい方です」


 嘘を言っているわけではなさそうだけれど、ファウス様の言葉はどこまでが本心かわからないということらしい。


 私への長年の恋心というのも、もしかしたら盛っているのかも。


「で、エアリスはどうするんだ?あの第二王子の求婚を受けて王国に帰るのか?」


 カイさんが腕を組み背中を壁にもたれさせながら聞いてきた。


「えっ、それは……」


 思わず答えに詰まる。ファウス様は悪い方ではないし、王になったらきっと良い国にしてくれるだろうなとは思う。


 でも、それと求婚への返事は自分の中では結びつかない。何より、あのアーサーが言うのだから、ファウス様も一筋縄ではいかない方なのかもしれないのだ。


 一度捨てられた王国に帰りたいのかと言われれば疑問しかない。


「私は……」


 口を開きかけた瞬間、アデルが座っていたソファから立ち上がった。


「アデル?」


 私の顔も見ずに部屋から出て言ってしまった。突然どうしたんだろう?


「あーあ、こじらせてんな」


 カイさんの言葉に、ユーデリックさんが静かにため息をついた。



 それから、ファウス様に言われた期限となる一週間後まで、アデルはなぜか私と会話をしようとしなかった。


 どんなに話しかけようとしてもかわされるし、なんなら姿すら見せないことが多くなっていた。


 アデル、一体何を考えているんだろう。これからのことを誰よりもまずアデルに相談したかったのに、アデルにとっては私のことなんてどうでもいいのだろうか。


 寂しさが心の中にどんどん広がっていく。思わず大きくため息をつくと、たまたま近くにいたユーデリックさんがほんの少しだけ眉を下げて微笑んでくれた。






「エアリス様、魔王アデル、王国への再度の訪問心より感謝します」


 ファウス様からの求婚から一週間後、私とアデル、そしてユーデリックさんは返事をするために王城へ出向いていた。


 目の前には爽やかな顔をしたファウス様が微笑んでいる。対象的に、アデルは少し不機嫌そうな真顔だ。


「それで、魔王アデル。エアリス様をこちらにお返ししていただくことは考えていただけましたか?エアリス様には私の妃になってもらいたい。もちろん、エアリス様に不自由な思いはさせません」


 ファウス様は真剣な表情で私とアデルの顔を交互に見ている。


 横に座るアデルを見ると、アデルは私を一瞬だけ見てすぐにファウス様に視線を戻した。

 アデルと目が合うなんて本当に久しぶりで嬉しかったけれど、アデルは表情ひとつ変えずに真顔のままだ。


 なんでだろう、心がすごく痛い。痛くて痛くてたまらない。そう思っていたら、アデルか静かに口を開いた。


「エアリスは王国へ返そう」


 アデルの言葉に、私は耳を疑った。ファウス様は目を輝かせて喜んでいる。


「ただし、条件がある。エアリスに不自由な思いは絶対にさせないこと。エアリスを二度と王国から捨てないこと。どんなことでもエアリスの気持ちを尊重すること。エアリスに危害を加えないこと。それが守れないのであればエアリスは渡せない」


「なるほど、エアリス様はずいぶんと魔王に気に入られているんですね。ですが大丈夫です。約束しましょう。必要であれば文面でも、それだけでは足りないのであれば魔法契約も行いますよ」


 ニコニコとファウス様は満面の笑顔でアデルに返事をしている。


 私は、もう魔王城にはいられないの?アデルは本当にそれで良いと思っているのだろうか?


 アデルの顔をじっと見つめるけど、アデルは全くこちらを見ない。そればかりか、アデルは席を立ち上がり、帰ろうとする。


「それではエアリス様、私との結婚を前提に王国へお帰りいただきます。よろしいですね?エアリス様には絶対に嫌な思いをさせません。どうか安心して王国へお戻りください」


 そう言って、ファウス様は私の目の前に手を差し出した。私がこの手を取れば、私は王国へ帰ることになる。わかっている。わかっているけれど。



「待ってください!」



 私は、部屋に響き渡るほどの大きな声を出して言った。






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