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 第二王子であるファウス様が国王と第一王子を捕まえると、ファウス様はアデルと私をじっと見つめてくる。


「魔王アデル、私はあなたたち魔族と(いくさ)をするつもりはありません。できれば友好的な関係を築きたい」

「友好的な関係、か。こちらとしては別に不要な干渉さえなければ友好的でなくても問題はないが」

「こちらとしてもお互いに干渉しないのが一番だと思っています。それで、それを可能にするためにも、聖女エアリス様。やはりあなたには今一度王国に戻ってきていただきたいのです」


 ファウス様の言葉に、アデルの纏う空気が少し穏やかではなくなったのを感じる。それに、私もその提案には納得がいかない。


「国王と第一王子がシリーと共謀して行ったこととはいえ、私は一度そちらの国に捨てられた身です。今更戻ってきてくれと言われても、はいそうですかとは言えません」


 キッパリとそう答えると、ファウス様は少しだけ困った顔をする。


「もちろん、あなたの言うことはごもっともだ。ですが、国王と第一王子が捕まり、聖女シリーも罪人となった以上、国を立て直すにはあなたが必要だ」


 そう言って、ファウス様は突然私の前に膝まづいた。


「聖女エアリス様、私と結婚してくださいませんか」

「……はい?」


 今度こそ、アデルの纏う空気が分かりやすく変化した。今にも目の前のファウス様を殺してしまうんじゃないかというほどの殺気だ。でも、ファウス様はそんなことお構いなしに私の前に膝づいたまま片手を差し伸べている。どれだけ心臓が強いんだろう、この人……。


「すみません、あまりにも急すぎる上におっしゃっている意味がわからないのですが……」


 苦笑してそう言うと、ファウス様は微笑みながら立ち上がった。


「それもそうですね。きちんと説明すると、このまま順当にいけば私が時期国王に就任します。ですが、今回の件で国民からは王家に対する不満や不信が溢れ出るでしょう。なるべく早く、ぐらついた国を立て直したい。聖女であるあなたと結婚することで、国民からの信頼を立て直すことができます」


「また、エアリスを国のためにいいように使おうというのか?そうやってお前たち人間はエアリスをいいように使うだけ使ってあっさりと捨てたのだぞ。お前もいずれ父親や兄と同じことをしないとは限らないだろう」


 アデルは私の肩をグッと強く抱きながら、ファウス様を睨んでそう告げる。


「確かに、そう思われても仕方ないと思います。ですが、父や兄と私が違うところがあります。エアリス様を思う気持ちです」


 ファウス様の言葉に、私は首をかしげる。一体、どういうことだろう?


「私は、聖女エアリス様をずっと慕っていました。エアリス様はもちろん知らなかったでしょうが、エアリス様とお話しできる時はいつも胸がドキドキしっぱなしでしたよ。今だってそうです。私はずっと、あなたに恋焦がれている。叶わない恋だと思いしまい込んでいましたが、状況が変わりました。叶うのなら、私はあなたと結婚がしたい」


 サラサラの金髪を靡かせ、アクアマリンの瞳をじっと私に向けて微笑んでいる。まさか、ファウス様が私を!?


「え、えっと、ファウス様、でも私はあまりファウス様とは接点がありませんでしたし、私のことなんてよくご存知ないかと」

「接点はありませんでしたが、あなたが王城へやって来るときは必ずあなたと会えるように調整していました。あなたに会えた日は本当に嬉しくて幸せて、胸がいっぱいだったんです。それに、あなたが興味を持っていること、好きなことは大体把握しています」


 え、大体把握していますって、どうして?どうやって?聞きたいけど、聞くのはなんだか怖くて躊躇ってしまう。


「それに、私はあなたが魔王軍との戦いでなるべく双方に被害が出ないように力を尽くしていたことも知っています。多くの人を巻き込まず、被害を最小限に食い止めようとするあなたの姿勢にも感銘を受けていました。私も、軍事に参加できていたのであれば、真っ先にあなたの味方をしたかった。ですが、私は兄に疎まれていたので軍事には一切関与できなかったのです。それがどれだけ口惜しかったか……ですが、そのおかげで私はシリーの魅了を受けることがありませんでした」


 ファウス様にそんな風に思われていたなんて。恋焦がれていたという話はちょっと気恥ずかしいしまだ信じられないけれど、でもファウス様のような人が王になるのなら、きっとこの国は安泰だろうなと思う。そう思うと、少し心がほんわかとして、思わず笑みがこぼれてしまう。

 ふと、視線を感じてアデルを見ると、アデルはなぜか痛々しい表情をしていた。どうしてそんな顔をするのだろう?ファウス様はとても良い王になるだろうし、魔族との関係もきっと良好になるはずなのに。


「エアリス様。今すぐに答えが欲しいとは言いません。ですが、真剣に私との結婚について考えてはいただけませんでしょうか。私は本気です」


 アクアマリン色の澄んだ瞳が私をじっと見つめている。本当に、真剣なことが伝わってきて、どうしていいかわからない。


「魔王アデル、あなたにもお願いしたい。聖女エアリスを解放してあげてはくれませんか」

「解放する?」

「エアリス様を保護し、手厚く迎えて下さったことは感謝します。ですが、エアリス様は人間です、あなたたちとは種族が違います。生活も、思考も、生きる年月も、何もかもが違うのです。今であればまだ間に合います。私と結婚したとしても、私はエアリス様に窮屈な思いをさせるつもりはありません。王国でのびのびと暮らす方が、人間であるエアリス様にとってやはり本当に良いことなのではないでしょうか?」


 ファウス様の言葉に、アデルはずっと無言だ。真顔で何を考えているのかわからない。ただ、私をグッと引き寄せる力が強くなった。


「一週間、考えてみてはくださいませんか?」



 

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