16 第二王子ファウス
「いやああああ!早く消して!消してよ!」
「なぜ俺が消してやらねばならん?お前の自業自得だろう」
アデルの心臓を掴んだことで、シリーの片手から全身へ黒い斑点模様が浮き上がっている。シリーは自分の顔に這う黒い斑点模様を見て、絶叫していた。
「嫌よ!私の可愛い顔が台無しじゃない!いや!消えて!消えてよ!」
両手でゴシゴシと顔を拭くが、その両手にも斑点はびっしりと浮かび上がっていた。
「いいか、クズ聖女よ。お前は確かに見ためだけは可愛らしいのかもしれない。だが、心は全く美しくない、むしろ汚れきっている。その斑点模様はお前の心の汚さが反映されたものだ。その斑点模様を消したいのであれば、心を美しくしろ。そうすればその斑点は自然と消える。だが、お前では無理だろうな、どこまでも心は穢れ腐りっているのだからな。何年かかるか、もしくは一生消えないか」
アデルの言葉はシリーに届いているのかどうかわからない。ただ、シリーはただただ窓ガラスに映る自分を見て驚愕し涙を浮かべて呆然としている。戦意は既に喪失してしまっているみたいだ。
「さて、このクズ聖女の件はこれで終わりだ。王国はこのクズ聖女をどうするつもりなのか、教えて欲しいものだな」
アデルがそういうと、ドアが開いて国王と第一王子、そして兵士たちが部屋に入ってきた。
「一部始終を見せてもらった。聖女シリー、いや、罪人シリーは捕らえて厳罰に処する」
国王がそう言うと、近くにいた兵士たちが一斉に聖女を取り囲む。抵抗できないように魔法の鎖で縛りあげているが、シリーは呆然としたまま空中を見つめたままだ。あまりのショックで精神状態がおかしくなっているのかもしれない。あこそまでいくと、少し可哀想な気もするけれど……。
「あれを見て可哀想、などど思っているのではないだろうな」
急にアデルに言い当てられ、思わずビクッとしてしまった。どうしてこうも思っていることを見透かされてしまうんだろう、そんなに顔に出ちゃっているのかな。
「お前は優しすぎる。そこがお前のいいところでもあるが、あの女はああなって然るべきだ。それほどまでにしてはいけない、残虐で恐ろしいことをしてきたんだ。可哀想でもなんでもない。それを忘れるな」
「……うん、わかった」
アデルの言うとおりだ。シリーの今までしてきたことを思い出して鳥肌が立つ。思わず身震いすると、アデルがそっと私の肩を抱いた。フワッとアデルのあたたかさが伝わってくる。
「ありがとう、アデル」
そう言うと、アデルはほんの少しだけ口角を上げて微笑んだ。わあ、アデルの微笑みってやっぱり綺麗だな……なんだか急に顔が熱くなってきた、きっと顔が赤くなってしまっているわ!アデルはそんな私の顔を見て嬉しそうになる。
「魔王アデルよ、この度のことは誠に遺憾である。聖女であるシリーがしでかしたことは到底許されることではない。あの者を厳しく罰するので、どうか今回はこのまま引き下がってはくれぬだろうか」
「元はと言えばお前たち人間があの女にたぶらかされたことも事の一つであろう。それに対して謝罪もないとは、つくづく腐った王国だな」
ユーデリックさんが冷ややかな視線を送ると、国王は額に血管を浮かび上がらせ、第一王子とその側近たちは腰の剣に手を当ててユーデリックさんを睨みつけている。
「貴様らとは永遠に分かり合えぬであろうな。シリーがいなくなることで我が国に聖女がいなくなる。魔王よ、聖女エアリスを返していただこうか」
「は?」
国王の言葉に、私は思わず耳を疑った。私を勝手に放り投げておいて、また必要になるから返せとは虫が良すぎる話だ。
「自分たちが捨てたくせに、返せとは笑わせる。エアリスは返さない。もう俺のものだ」
そういってアデルは私の肩を引き腕の中にすっぽりとおさめた。そして、なぜか私のおでこにそっとキスをする。……って、ええ?キスされた!?
「エアリス様!」
アーサーが思わずこちらに駆け寄ろうとするけど、アーサーは結界から出られないようで、見えない壁に押し返されている。
「ずるいぞアデル!俺にも後でエアリスにキスさせろ」
「あ゛あ゛?」
カイさんの発言もどうかと思うけれど、それに対するアデルの様子が凄まじい。ドスのきいた声を発してアデルを睨みつけている。私の肩を抱く力も、なんか、すごい強い。
「なんと、聖女エアリスは魔王さえも虜にしたのか。そうであれば余計に取り返さねばなるまい。いずれまた貴様らとは戦でケリをつけねばならんな」
「その必要はありません」
突然声がして部屋に人が入ってきた。その人を見て私は驚いた。第二王子のファウス様とその側近たちだ。兵士もたくさん引き連れている。
「今回のことは国王と第一王子が聖女シリーにたぶらかされ、しでかしたことです。王国を代表して、魔王、そして魔族の皆様に謝罪します。本当に申し訳ありません」
そう言って、ファウス様は深々とお辞儀をした。側近たちも同じようにお辞儀をしている。
「ふむ、なるほどな。王国の中にもまだ話のわかる人間がいたとは」
「ファウスよ!何を勝手なことをしている!」
「父上、あなたも兄上ももう終わりです。あなたたちは聖女と共にこの国を窮地に立たせました。国民を戦争に巻き込み、散らすことのない命を散らしてきたのです。それは到底許されることではない」
ファウス様がそう言うと、引き連れていた兵士たちが国王と第一王子たちの周囲を囲む。
「い、一体何を……!」
「国に害を及ぼすものたちだ。捕獲しろ」
その一声で、国王と第一王子は兵士たちに囚われた。




