1 拾われた聖女
「あなたはこの国でもう用済みなの。大人しく私の前から消えてちょうだい、お・ば・さ・ん」
そう言って、目の前にいる転生者の可愛らしい女性は、私を見下ろし悪女のような顔で微笑んだ。
◇
一人薄暗い森の中を歩く。王城からこの森に捨てられてからどのくらい経っただろう。
植物の知識はある程度あったから、食べられる薬草や川魚などをとってなんとか食いつないで来たけれど、歩いても歩いても森からは抜け出せない。それにここ数日は食べられる薬草も川もなくて何も食べられていない。かといって小型の魔獣は食べる気にならないし……。
ここは森のどこら辺なんだろう。そもそもこの森ってどこの森なのかしら……目隠しをされて森に放り出されたから全く分からない。
お腹、すいたな。あ、めまいもしてきた。歩けなくて座り込んでたけど、もう座っていることさえできなくて倒れこんでしまう。
あぁ、なんで聖女なんかに生まれてきてしまったんだろう。それに、あんなに国のために力を尽くしてきたのに……。
もう、だめかな。意識が……遠のく……
◇
!!
目が覚めた。生きてる……。って、え?ここどこ?なんか、ふかふかのベッドに寝てる……って、本当にここどこなの?なんだかすごくきれいな部屋にいるんだけど?天蓋付きのベッド初めて見た……。
部屋を見渡すと、天井からつるされたたくさんのサンキャッチャーがゆらゆらと揺れていて、揺れるたびに日の光に当たって壁や床がキラキラと輝いている。なんて綺麗なんだろう!
そもそも、あんなにボロボロだったのに傷は全部無くなっているし、ずっとお風呂にも入れていなかったのになぜか綺麗。服装だって見たことない上質な服に変わってる。ちょっと胸元空きすぎな気がするけど……?
え、本当にここどこ?なんで私生きてるの?森の中で行き倒れたはずじゃ……誰かに拾われた?誰に?どこかの貴族の方かしら。でも、国内で聖女は追放ってお触れが出てたはずだし、わざわざ聖女を拾うなんてあるはずない。それとも、どこかに売り払われちゃうとか?どうしましょう、逃げた方がいいのかしら?
ガチャ
「起きたか、聖女よ」
扉が突然ひらいて、部屋に入ってきた人物に目を疑った。え、どうして?
濃い緑色の髪に金色の瞳。背が高くきれいな顔立ちをしている。一見、異国の人間のように見えるけれど、私はその人物を知っている。
「魔王軍幹部、ユーデリックさん……」
「敵にわざわざ敬称をつけるのはお前くらいだぞ」
ふん、と鼻で笑って、ユーデリックさんは近づいてきた。
「あの、私、森で倒れていたと思うのですが」
「あぁ、倒れてた。だから拾ってきた」
「拾ってきた!?」
「そうだ、というわけで行くぞ」
そういってユーデリックさんは私をどこかへ連れて行こうとする。え、待って、お願い、脳内の処理が追い付かないのだけれど!?
◇
「というわけで連れてまいりました」
ユーデリックさんに連れられてやってきた場所は、大広間のような広い場所で、目の前には玉座がある。玉座には、これまた見知った顔が鎮座していた。
黒い艶やかな黒髪にオーロラ色の瞳。ユーデリックさんも美しいけれど、それ以上になんというか、神々しいまでの美しさを放っている。すらりとした長い脚はゆっくりと組まれて、玉座の手すりに肘をつき、あごに手をのせて私を見下ろしている。
うわぁ、相変わらず驚くほどの美しさだわ。
「久しいな、聖女エアリス」
「お久しぶりです。魔王アデル。先月の戦い以来でしょうか。それであの、この状況は一体?」
広場の両側には魔王軍の幹部が並んでいる。なにこれ、すごい光景……。
「なぜお前は森の中にいた?ボロボロになり今にも死にそうになっていた」
やっぱり、死にそうになっていたんだ。それに、まさか私が捨てられていた森って、魔王の領土内の森だったの?
「ええと、あの、色々ありまして、王国から捨てられました」
「は!?」
私の言葉に、近くにいた魔王軍幹部の一人が声を上げる。まぁそうですよね、そうなりますよね。
「魔王の領土内の森に?お前一体何をしたんだ」
あきれたようにユーデリックさんが言う。いや、私もまさか魔王の領土内に捨てられるだなんて思ってもみませんでしたよ……。
「いえ、私は何も……。ひと月前、異世界から転生して来たという女性が王城へやって来ました。その転生者には「聖女の力」のギフトがあったようで、その転生者は王や王子に取り入ってご自分が聖女なったんです。それで、もう古い聖女は必要ないと言われて」
「あっさり捨てられたのか?」
「そういう、ことになりますね」
私の話を聞いて、驚く者、あきれる者、全く興味のなさそうな者など幹部たちの反応はさまざまだ。この話を聞いて魔王はどう思ったんだろう。
「くっ、くくく、ははは!」
突然、魔王アデルが笑い出した。わぁ、魔王ってこんな風に笑うんだ!すごい、初めて見た。ぼんやりと眺めていると、魔王アデルは玉座から立ち上がって歩き出し、私の目の前までやって来た。
わわ、目の前で見る魔王の破壊力すごい!遠目からでもわかる美しさなのに、目の前で見るとさらにやばい……!
「追放された聖女エアリスよ。お前を今日から魔王軍の一員とする」
「……はい?」
ちょっと何を言われているのかわかりません。わからなすぎて、魔王アデルの美しいオーロラ色の瞳を見つめることしかできなかった。それにしてもすごく綺麗な色。光が当たって色が変化していく。なんだか吸い込まれそう……。
だけど、そんな私の片手を取って、魔王アデルは片手の甲にキスをした。って、えっ、何?どういうこと?突然すぎて心臓がバクバクうるさいし、顔が熱くなっていくのがわかる、やだ、恥ずかしい!
「安心しろ、俺がこれからうんと可愛がってやる」
魔王アデルは、くくく、と楽しそうに笑っている。え、待って、どういうこと?私、これからどうなっちゃうの!?
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