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「斉藤!追放だ」
「サイトウ殿、追放だわ」
「臆病者はいらない」
「フン、タケダ様よりも年上なくせに」
「ポーターは、私に任せて下さい」
「・・・うむ。サイトウ殿を、王城より追放の刑に処す」
「あ~、分かったぜ。皆、死ぬなよ」
・・・俺は斉藤堂参、親父に、戦国武将と同じ読みの名前をつけられた28歳のサラリーマンだ。
勇者パーティーの雑用係で一緒に行き。魔王を倒せとか言われたけども、断った。
だって、怖いのだもの。
バス停にいたら、地面に魔方陣が浮かんで、隣にいた高校生と一緒に召喚された。
高校生が、本命だったようだ。
俺は巻き込まれたのだ。
俺のスキルは、複写に、収納、翻訳、転移者には、収納、翻訳が必ず付いているから、実質、権能はコピーだ。
試したら、書類をコピー出来た。
サラリーマンだからか?
正直、日本でも微妙だ。あ、コンビニ行かなくても、コピー出来るじゃん程度だ。
対して、武田君のスキルは、現代武器召喚、現時点で、銃と、ジープを召喚出来る。
あれは、マニュアルだ。練習していたな。俺が教えた。
教えながら、一生懸命に止めた。
武田君は高校生だ。怖いだろう?嫌だろう?
『え、この国の民のために戦う?日本にいたとき、国防の事を考えた事がある?見ず知らずの国だよ。やめようよ。断ろうよ。召喚って誘拐だよ。君、戦ったことないだろう?』
『サバゲーでやったよ!』
『それ、違うよね。やめようよ!』
何故、高校生なんだ。おかしいだろ。せめて、自衛官とか、傭兵とかを召喚しないのか?
完全に舞い上がっている。ミリンダという御姫様との婚約も決まった。
『俺が助けなきゃ』
伝説のサバゲーマーが召喚された。やったー!じゃなくて、趣味でサバゲーをやっている軍人とかを召喚しないとおかしくないか?
と散々文句を言っていたら、追放になったワケだ。最後、斉藤さんから、斉藤になった。
それはいい。年下の上司など、ごまんといる。
しかし、金を請求するか。
「巻き込まれとはいえ。呼んだのはそっちでしょ!お金はもらいたい」
「金に汚いな」
チャリン!
銀貨3枚ばかりのお金が入った小袋だけ渡された。
まあ、そんなこんなで、城を追い出され、馬車で一週間ほど、オランドランという街の冒険者ギルドで下ろされた。
少なくても、収納があるのだ。
冒険者に随伴して、荷物係をやれば、暮らしていけるんじゃねえ?と考えた。
しかし、この考えは、甘かった。
「ハン、聞いたぞ。臆病者のサイトーじゃないか?」
「縁起が悪い。シッシ!」
ベテラン冒険者からは、嫌われた。
あれ、掲示板の前で、ウロウロしている奴がいる。
「君たち、どうしたの?」
と聞いたら、
「文字が読めないです。だから、受付嬢さんの時間が空くのを待っています」
「薬草の常時のクエストを受けていたのですが、もっと稼ぎたくて・・」
「俺たち、出稼ぎで、来ているのです。早く、冬期にそなえ村に食料を送りたい」
フ~ン
と俺は読んであげた。
「この、魔アナグマの駆除を行いたいです。実力に見合っています」
「有難うございました。お礼は食事でどうですか?」
「でさ、俺を雇ってよ。収納があるよ」
「「「はい」」」
駆け出しに雇ってもらったが、甘かった。奴ら、武器を持って、スタスタと歩く。俺は、彼らの荷物を収納したが、重さを感じないのに、この体たらくだ。
20キロだから、馬車を借りる代金は、コスパが悪いみたいだ。歩いて行きやがる。
ベテランは、専用の馬車があるみたいだ。
「はあ、はあ、はあ」
「まあ、もしかして、サイトウさんって、貴族だったの?」
「違うよ。異世界人だよ」
「異世界人?お城で呼ばれたと聞いたけど」
・・・結局、荷物は持ってもらい。俺は遅れて行き。捕まえた魔アナグマを運ぶ仕事だけをすることになった。
「収納!」
そして、冒険者ギルドに帰った。帰りは、俺のペースに合わせてくれた。
こういった場合、
「50分歩いて、10分休む。休むときは、靴紐をほどき。楽にする。ここは敵地じゃないから警戒は必要ないよ。頼む。それで合わせてくれ」
「「「はい」」」
・・・・
「あれ、この方法、体力に余裕が生まれる」
「そうね」
何てことのない知識に感動してくれる。
皆、素直だ。良い子だ。
いや、金を稼ぐために必死だ。知識に貪欲なのだ。見習おう。
「それは?」
「腕時計だよ。ソーラーだから電池切れの心配はない」
「あの、異世界のお話を聞かせて下さい」
「ああ、いいぜ。異世界だと、一日三食食えるぜ」
「「「嘘だー」」」
何てこともない雑談が人間関係をスムーズにすることがある。
日本時代は、苦手だったが、必死に話した。
また、文字を教えたりもした。
自分の名前を書けない子もいたが、こういった場合、冒険者ギルドの書類へのサインは、○、×のような記号を書くのが慣例だ。それぞれ特徴的な○×を書くから分かるのだそうだ。
「うわ、初めて、名前を書けただ!お礼するだ!」
「いいよ。今度、代わりに何か教えて」
「ねえ。計算の仕方、教えて」
「おう、九九の表を作ったから、いるかい。お代は、時間のある時に、魔物の解体を教えてよ」
「はい!」
文字や、簡単な計算方法は、いずれ、皆に伝わる。これを商売にしても、初めはいいだけだ。これは、撒き餌だ。
魔物の解体や、事務仕事を覚え。奴らが、クエストを達成したら、その後の仕事を全て、一括で請け負うように、俺は修練をした。
俺は、28歳だ。30歳まであっという間だ。この世界では平均寿命は50歳と言うところか。
ベテランの年齢なのに、ルーキーだ。
これだけは、出来る。あれは出来ないとなると、途端に仕事を頼みづらくなる。
サラリーマン時代の経験だ。
普段は、彼らと良好に接し、助け合う関係を構築しよう。
「体力をつけるにはどうしたらいいかな」
「それは、ドブさらいだけど、大変だよ。サイトウさんには合っていないと思う」
「有難う」
さあ、体力をつけるぞと思ったら、
「あの、ちょっと、いいですか?」
受付嬢から、声を掛けられた。何だ、逆ナンか?
「書類の読み合わせの仕事を頼みたいのです。一件、クエスト受託で、銅貨5枚でどうですか?」
「ああ、良いよ」
文字の読めない冒険者のために、クエストに何が書かれているか読んであげる。それで、納得したら、受ける。受けない等々がある。
前は、受付のお姉さんがやっていたが、時間が取られるし、よからぬ輩も来る。
純粋に文字が読めないのはいいが、
「何だ!姉ちゃんじゃねえのかよ」
「はい、私が仕事を請け負う事になりました」
ベテラン勢で、受付のお姉さんに絡みたくて、音読させる輩だ。
「お前じゃ、話しにならない!受付嬢を呼べ」
ここは、このまま背中を向け。スーと去るふりをする。
「おい、おい!」
「当職は、冒険者ギルドの準職員です。読み合わせの代理権があります。冒険者ギルドの受付嬢は、酌婦ではございません。・・・・当方の采配で、降格を申請することも可能ですが・・」
「フン!言っとけ!このゴラン様を覚えておけよ」
覚えておけと言っても、何かあるわけではない。冒険者ギルド職員に、手を出すのは御法度だ。
しかし、奴がやってきた。武田だ。研修で、魔物狩りをやっているようだ。
護衛騎士と女を連れて、当ギルドまでやってきた。
ガヤガヤガヤ~~
「あれが、異世界人か」
「あれ、サイトウと同じ容姿だ」
普通に、列に割り込みやがった。
「おい、やめろ!このゴラン様が並んでいるんだい!」
「フン、この方は、経験値を上げなければならない。お前達とは、価値が違うのだ!」
あ、ヤバい。ゴランのおっさん。殺されるかもしれない。何かそんな気がする。
だから、咄嗟に、寸劇をした。
毎日、クエストの確認だけはしている。
「あの、ヒップルームをご用意しました。あちらで、難易度の高いクエストをご紹介できます」
「あ、斉藤!こんな所で、受付なんかやっているの」
「プ~クスクスクス」
「臆病者に相応しい仕事だ」
言ってろ。
俺は、心を殺して、応接室に案内した。受付嬢は、察してくれたようだ。
俺が対応する。
調子に乗ったガキだ。
受付嬢に、無理難題をふっかけるかもしれない。
「ショボいクエストだな。魔族領に行くのよ。斉藤、付いてきてもいいよ。夜、俺のテントの番をさせてやる」
「「「キャー、ヤダ-」」」
ああ、ギスギスアンアンをしているテントか。
それにしても、女ばかりだな。
あれ、婚約者の姫がいてもいいのか?
後で、教えてもらったが、武田君の子孫にも、同じ力が受け継がれる可能性が高い。だから、女をあてがうようだ。
あれ、首輪をしている女の子がいる。奴隷か!
あれは、倫理的な理由もあるが、簡単に扱えるものではないぞ!
「見てよ。高機動車を召喚出来るようになったぜ」
車を見せびらかせる。小銃は、20式5.56ミリか。
俺は、どうせ聞かないだろうけども、アドバイスをした。
「・・せめて、軽装甲車にしろ。召喚出来るまで、それまで行くな。魔族領は歩け。銃は7.62ミリの64式にしろ。それ以外にも、迫撃砲や無反動砲も用意して騎士団を訓練して使えるようにしろ。それに、奴隷はやめておけ!」
勇者って、魔族の領地は、歩くイメージがある。あれは、潜入を現しているのだな。
知らんけど、
「あ~、負け犬の遠吠えは、うっさい。うっさい」
シッシッと手を振られた。
「お前、負けるよ」
言っちまった。1番、言ってはいけない台詞だ。これ、俺が言われても、素直に聞く気がしない。
ドゴン!
銃尾で殴られた。それから、意識は、数日飛ぶ。
最後までお読み頂き有難うございました。