7話 変化
許斐ひかる 意外と暗算が得意
桑野綾人 意外と絵が上手い
その後も仕事は順調だった。
レギュラーをもらったラジオも安定してきて、もう今年で3年目になる。
相変わらず事務所のライブにも出ていて週末は営業で地方に行った。俺たちが舞台に立つと、歓声が上がることも増えた。自分たちの単独ライブも、そこそこ大きな劇場を借りられるようになった。
賞レースにもチャレンジし続けている。
準決勝より上にはなかなか行けなくて悔しい思いもあるけれど、ずっと2人でネタが出来るのは楽しかった。何かに本気になれるのがやっぱり楽しかった。
俺が1人でテレビに出ることが増えていった。
特にネタ番組以外のバラエティは、割と俺だけにオファーが来ることが多い。無茶なドッキリや身体を張った企画がほとんどだったけど、そっちも少しずつ評価され始めたようだった。
子供の頃から憧れていた芸能人や芸人とも、共演できる事が増えてきた。
街で声をかけられることも、少しずつ増えていった。
初めは桑野と呼ばれないことに少しもやもやしたが、何度か俺が1人で出た後で同じ番組にコンビで呼ばれる事もあったので、だんだんお互いあまり気にしないようになっていた。
桑野は良くも悪くもあまりガツガツしていなくて、俺が1人で出ている番組も観てくれているようだった。あれ面白かった!といまだに言ってくれる。それが一番安心する言葉だった。
こんな風に続いていくんだと思っていた。
少しずつコンビで出られる仕事も増やしつつ、続けていけたら良いなと思っていた。
それはお互い同じだった。
ゴールデンに放送された番組に出演した際に、相方をシャッフルしてネタを披露する企画に参加した。
俺はキャラ芸人と組むことになって、桑野は実力派のコント集団に加わる事になった。
「うわ、全然売れてない舞台役者軍団みたい」
「俺もちょっと思ったよ。あんま言うなよ」
現状コンビ内で知名度に格差がある事はお互いにわかっていたので、桑野がこれだと目立たないまま終わるなと、桑野を含めて楽屋で他の芸人と直前まで笑っていた。運がないなと桑野自身も笑っていた。
桑野が加わったコンビは、入り組んだストリーリー性の高いコントを行った。
何をするにも器用な桑野は、即興だったにも関わらず小難しい演技も完璧にこなしていた。俺でもちょっと魅入っちゃうくらいで、桑野がいたコンビがその日一番評価が高かった。
そういえば養成所にいた時、桑野はコントの方が向いていると言われていた。俺が上手くキャラを作れないから漫才をやっていただけで、そういえば桑野はそこそこ演技力があったなと思い出した。他の芸人は意外だと驚いていた。
オンエアされてすぐ、桑野が話題になった。
コントのネタの完成度や面白さも話題になったが、桑野の演技が以外にも買われた。
元々知名度が無かったため、じゃない方なのにこんな才能があったんだという不名誉な売れ方をしていた。それが不憫で桑野らしくて、ラジオでいじって2人で笑った。
ただ、それがきっかけで俳優としてドラマからオファーがいくつかきた。
1話か2話くらい、ほんの少し映るちょい役をいくつかこなすようになった。
その中の一つにサスペンスの犯人役があった。
表向きは好青年のストーカー役というまた小難しい役だった。
周りはイメージ合わないと笑っていたが、桑野のぼんやりした所や楽観的でのんびりしている性格は、考えの読めない雰囲気があってサイコっぽくも見えると思っていたのでまあ、ハマるだろうなと俺は1人思っていた。
でもこの時はまだ、失敗することは無いだろうなくらいにしか思ってなかった。
桑野がこれで売れて、コンビでバラエティに出る機会が増えればいいなと、俺はそれくらいにしか考えていなかった。
このドラマがキッカケで、俺たちコンビは少しずつ離れていくことになった。




