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15話 それから

結局、俺は俺で今まで通りお笑いの仕事を続けて、桑野は演技の仕事をメインで行うことには特に変わりなかった。

ライブはスケジュールが合えば2人で昔のネタをやって、でも時々、新ネタを下す場も用意してもらえることになった。意外とほとんどアドリブでも俺たちは問題が無かったから、ネタ合わせはその場で行って、そのまま舞台に立った。

ネタを飛ばしても、変なアドリブを桑野が入れてきても、もう対処できるくらいにはお互い小慣れていて、それはそれで楽しかった。時々悲惨なほど滑ったけれど、同じネタを続けるよりずっと良かった。

今年の賞レースにも結局参加できたが、ゴタゴタしていた時期に予選があったせいで3回戦で敗退した。ひどかったもんな俺ら、と自分たちで笑えるほどの出来だったので後悔はない。ただもうそろそろ出場権も無くなるから来年こそはと、2人で意気込めただけでよかった。


俺がレギュラーを貰っているバラエティのゲスト枠に、桑野が呼ばれることが増えた。

コンビとしては中々活動はできなくても、うまいこと同じ仕事ができるよう、マネージャーが調整してくれているようだった。

俺は俺で桑野がいた方がのびのび話せるので、そういう意味でも桑野が呼ばれることが増えていった。


桑野は映画の出演も増えた。

以前撮った映画が公開され、また仕事が増えたらしい。また嫌なやつの役を貰っていたけど、元々桑野が持っている愛嬌も合わさってハマっていた。まさかの恋愛要素もあって驚いたが、やっぱり上手いことこなしていて少し腹が立った。次会ったら、同じセリフを言って茶化してやろうと思った。

そのくらい楽に、桑野の仕事を見られるようになっていた。


ラジオは、今期まではコンビの仕事としてなるべく2人で行って、来期以降は俺1人で行う形で決まった。桑野は俳優業を優先させて、ゲストとしてスケジュールが合えば生放送に参加するそうだ。

コンビが揃わなくなった以上もう存続は無いかなと覚悟はしていたが、意外にも俺たちの評価は高かったらしく、とりあえず1年間はそんな風に続けさせてもらえることになった。

じゃあ絶対に、ここは俺が守らないといけないなと思った。仕事ではあるけど、案外一番素直に2人で話せる場所でもあったから、桑野が戻って来れるようちゃんと守ろうと思った。


今週は桑野の撮影がちょうど終わったタイミングなので、久々に2人揃っての放送だった。

もうタイトルコールもお知らせも全部俺1人での読み上げに変わったけれど、変わったのはそれだけで、桑野がいればあの頃の2人のラジオに戻る。

これがずっと続けばいいなと思った。人が話している最中にペン回しを続ける桑野の手元を見ながら、続けられるよう頑張ろうと、そう思った。



「許斐って今彼女いるの?」


「俺?別にいないけど…何急に」


「じゃあまた一緒に暮らす?今引っ越し考えててさ、どうせならと思って」


放送後、エレベーターの中で2人になったタイミングで桑野がそんなことを言った。


「……なんで?いやまあ、良いけど」


「だってお前俺のことかなり好きでしょ。じゃあなるべく一緒にいた方がいいんじゃない」


すごい自信だと思った。

絶対に俺には無い部分だ。こんなこと普通、思ってたって自分から言えないだろ。


「桑野だって好きじゃん、俺のこと」


「好きだよ、ずっと。じゃあ考えといてね」


外に出ると、スタッフが呼んでくれていたタクシーがもう道路脇に止まっていて、手前のそれに乗り込む直前に桑野はそう言った。

びゅうっと風が吹いて、アウターの裾から冷たい空気が忍び込む。いつの間にが冬が来ていた。もう気を抜いていたらすぐに年末になってしまうなと、自分もタクシーに乗りながら急かされるような、焦ったような気持ちになる。


また同棲するなら、年が明ける前に面倒なことは済ませたいなと、窓の外のイルミネーションを見てぼんやり考えた。

許斐ひかる 小さい居酒屋と商店街が好き。高円寺に住みたい

桑野綾人  新しい飯屋と人の多い街が好き。渋谷に住みたい

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