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ジャドウとの対話

スター流はスターの引退と失踪に伴い、表向きのトップを闇野美琴としていたが、まだ未熟であることを理由に指揮権をジャドウに預けていた。


指導者を失った会長室で、ジャドウは自慢の白い髭を撫で、窓から下の景色を眺めていた。


行きかう人々に慌ただしく走る車を見て、ジャドウは嘆息し、シャンパンを入れた盃を掲げ、ぐびりと飲む。


「下等なる人類の鈍間のろまな進歩に、乾杯!」


理由など、どうでもいい。


ジャドウは酒が飲めればそれでよかった。


二杯目の白ワインに突入した時、低音を轟かせる。


「吾輩に何かご用ですかな?」


無人の部屋に響くジャドウの声。


音もなく扉が開き、一陣の風と共に黒い影がサッと飛びかかる。


ジャドウは冷静に腰の鞘からサーベルを引き抜き、対象に一閃。


太陽光が差し込み、人物を映し出す。


淡い金髪をツインテールに碧眼、透き通るほど白い肌をした美少女。


赤いナポレオンコートにピンクのベストを合わせ、首には水色の三角の飾りをしている。白いキュロットスカートに黒光りするストラップシューズという上品さ漂う恰好をした、メープルだ。


メープルは懐から愛用のフルートを取り出し、刃を受け止める。


鍔迫り合いから間合いをおき、相手の様子を伺う。


「さすがは腐ってもジャドウね」


「フフフフフ……メープルよ。平和な生活でもなまくらにはなっていないと見える。

それで、何用かね?

まさか吾輩と手合わせするためだけに現れたわけではなかろう」


メープルは微笑し、美琴の様子が妙なことを伝えた。


それから自販機で購入したコーヒーのタブを開けて飲みだす。


「あなたなら何か心当たりがあるかと思ってきたのだけれど、無駄足だったみたいね」


「骨折り損のくたびれ儲け。ご苦労なことですな」


「冗談はいいから、スター流のメンバーリストを見せて頂戴」


「よかろう」


ジャドウが一冊の本を投げよこすとメープルはパラパラとそれをめくった。


以前はブラックリストに掲載されていた自分のページも正式のリストに追加され、内心喜んだ。


しかし何度見返してもこれで全員の気もするし、違うような感じもする。


「ジャドウ、あなたが記入し忘れたメンバーはいないかしら?」


「ほほう。

小娘の分際で吾輩の仕事を疑うとはなかなか良い度胸をしていますな」


「正直言ってあなたのことが信用できないのよ」


「それは大変な褒め言葉。感謝致しますぞ」


大仰な口調で語るジャドウにメープルは眉根を寄せる。


この男は昔からそうだ。


常に飄々と振る舞い、本心を見せることがない。


元々冥府の王で、悪の本締めからスターへの恩義で正義へ鞍替えしたわけだが、スターのいない今、この男が流派に所属する理由は皆無だ。


にもかかわらず美琴に代わって実権を握っている。


美琴を体よく利用し、支配者として君臨したがっているのでは?


疑念が膨らんでいると、ジャドウが再び口を開いた。


「メープルよ。お前の勘違いではないかね?

現にスター流はずっとスター様を頂点に吾輩とカイザーの二大柱で運営してきたではないか」


「そこよ!」


メープルは珍しく声を強めた。


「あなたとカイザーだけというのが引っかかっているの。 もうひとり、誰かいたような……」


「おらぬ。お前はスター様の高弟が吾輩とカイザー以外に存在すると?

愚かなる妄想もここまでくると救いようがないですな」


「言ってくれるわね」


ギリッと奥歯を噛みしめ睨みつけ、臨戦態勢に入る。


だが、拳を緩めて思った。


ここでこの男と戦っても不毛だ。


「あなたに期待した私がバカだったみたいね。失礼するわ」


「それがよかろう。子供の下らぬ空想に付き合うほど吾輩も暇ではないのでな」


メープルは次の瞬間には、もうジャドウの目の前から消えていた。


逃げ足の速いやつと感心しながらも、ジャドウはワインのボトルを傾ける。


「スター様の弟子は吾輩とカイザーのみ。それ以外などいるわけがなかろう。

否、存在するはずがなかろう」


ジャドウはグラスに注ぎ入れた酒を飲んでは注いでを繰り返す。


彼の今の仕事は酒瓶を空にすることだ。

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