小さな違和感
メープル=ラシックは週1回、美琴とムースを招待しお茶をしている。
紅茶を飲んでスコーンを食べ、雑談に花を咲かせて、時にはヴァイオリンの腕前を披露する。
給仕であるラグを除けば、女子三人だけの気楽な時間。
この日も毎週と変わらず茶会を楽しんでいたメープルだったが、小さな違和感を覚えた。
美琴とムースの距離が近い。
肩を寄せ合ったり、ケーキを互いの口にフォークで食べさせたり。
まるでふたりの世界に浸り、恋人同士のように見える。
ムースは以前から美琴を好いていたので問題はない。
気になるのは美琴の態度だ。
メープルが知る限り、美琴はムースに友情は抱いても恋愛感情はない。
本人の口から聞いて確認済みだし、秘めたる異性の想い人がいることも知っている。
だが、今の様子はどうだろう。
完全にカップルそのものではないか。
妙な疎外感と甘々な空気に耐えられず、口を開く。
「ふたりとも、いつからそんなに仲良くなったの?」
「まあお姉様。わたくしと美琴様は運命の赤い糸で結ばれていますもの。これぐらい、当然のことですわ」
「私は美琴に聞いているのよ。よかったら教えて頂戴?」
「実は、ムースさんとお付き合いをさせていただくことになったんです。
……結婚を前提にして」
耳まで真っ赤にしてモジモジと切り出す美琴にメープルは青い目を見開いた。
ありえない。
同棲しているのは聞いていたがもう結婚まで話が進んでいたとは。
これはムースが美琴の優しさにつけこんだ結果ではないかと危惧したが、態度からすると違うように見える。
「あなた、想い人はどうしたのよ」
「何のことですか?」
「ホラ、前に話していたじゃない。好きな人がいるって」
きょとんと小首をかしげる美琴にメープルが説明すると、美琴はムースを見つめ。
「わたしが好きなのは世界でただひとり、ムースさんだけですよ」
「美琴様っ」
ぎゅっと熱く固いハグをする姿に、メープルは強い疑念を抱いた。
今日の美琴はどこかおかしい。
そういえば、以前は美琴の意中の人が誰なのか見当がついたが、今はどういうわけか頭に浮かんでこない。
ふたりが帰った後、メープルはスター流の集合写真を眺めた。
美琴がスターに勝利し、これまで殉職した弟子たちも蘇った。
あの日、全員で記念写真を撮り、スター流は新たな一歩を踏み出した。
まだ一月ほどしか経過していなのに、何年も前のことのように思える。
メープルは目を細めて写真を眺めていたが、ふと疑問が起きた。
「誰か、欠けているような気がする……」
全員が写っているはずなのに、誰かが足りない。
とても大切な誰かがいない。
だが、それが誰だったのかどうしても思い出せないのだ。
「もしかすると」
メープルは呟いた。
「美琴が変になったのは、それが原因じゃないかしら?」
穴が開くほど写真のメンバーたちを見る。
スター=アーナツメルツ
ジャドウ=グレイ
カイザー=ブレッド
川村猫衛門
ロディ
ランス=アームストロング(ラグ)
ムース=パスティス
メープル=ラシック
闇野美琴
間違いない。全員いる。
揃っているはずだが、誰かがいない。
問題のない写真だが、何かがおかしい。
モヤモヤが残る。
「調べてみる必要がありそうね」