進展
「やっぱり、そうか。」
屋敷に戻ったコーサが資料を見て自分の記憶が正しかった事が分かった。
「これで、研究が進む。ふふふふふふ。」
あまりにも盲点だけにそれを乗り越えれたのに笑いが込み上げてくる。
「コーサ様、部屋から不気味な笑い声が。」
「あぁ、貴方は初めてですか?」
「バラカイナ草の研究に行き詰まっていたので、最近は聞かなくなりましたよね。」
新人のメイドがコーサの部屋から聞こえてくる悍ましい声にビビりまくっていると、ベテランメイド達が懐かしそうに話していた。
「コーサ様は研究が上手くいったりすると、こんな笑い方するのよ。」
それ以外では普通に笑うのに、メイド達が嬉しそうに笑っていた。
「なんで先輩達はそんなに嬉しそうなんですか?」
後輩メイドはその笑いを聞いた先輩メイド達が嬉しそうにしている理由が分からなかった。
自分はもう既にこの場から逃げ出したいと思っているくらいなのに。
「あら?分からない?」
「これが聞こえると言う事はコーサ様の研究が上手くいっていると言う証拠です。」
「そして、今コーサ様がしている研究は一つだけ。」
そこまで言われて後輩メイドも気づく事ができた。
「まさか?!」
「そうです。バラカイナ草の研究が上手くいき出したと言う事です。」
先輩メイド達が喜ぶ中後輩メイドは戦慄していた。
何度かコーサを見かけたことのある後輩メイドはコーサがそんなに周りから凄い言われる人物には見えなかった。
普通の貴族の子供。そう言う風に見えていた。だからこそ何人もの天才が破れてきたバラカイナ草の研究が上手くいっている事が信じられなかった。
「貴方、疑っていますね。」
後輩メイドの内心を先輩メイドの一人が気づいた。
「まぁ、無理もないですね。貴方は元々、外様です。コーサ様の凄さが分からないのも仕方ありません。」
「そうですね。これから知っていけばいいのです。」
まるで分からない自分が恥ずかしいと言われているように感じた後輩メイドは羞恥心に身を震わせながら自分が可笑しいのかと自問自答していた。
「皆さん、そんな所で新人さんをいじめるんじゃありません。」
「あら?レス?どうしてこんな所に?」
メイドで唯一のコーサ専属のメイドであり、研究の助手としても部屋に入る事が許されているレスがコーサの笑い声が聞こえる部屋の外にいる事が先輩メイド達には不思議だった。
「コーサ様のお茶を用意していたのよ。見たら分かるでしょう。」
レスはティーセットを持ってきているため予想できるだろうと言っているのである。
「それが変でしょう。コーサ様は研究中はお茶など一切の飲食をしないじゃないですか?」
「?コーサ様は研究しているのですか?」
先輩メイドの発言に今度はレスが不思議がっていた。
レスはコーサが帰ってきたのを知ったので外から帰ってきたコーサに飲み物を用意し用と思ったからであるからだ。
「ほら、今は小さくなったけどよく聞いたら聞こえるでしょう?」
「っ!これは喜びの!」
レスがコーサの部屋に近づくと微かにコーサの笑い声が聞こえていた。
ちなみにこの部屋は防音仕様なのでさっきまではっきり聞こえていた方が異常なのである。
「つまり、やったのですね!コーサ様!」
レスはさっき先輩メイド以上に喜んで祝福していた。
それは誰よりもコーサの苦戦と苦労をしているからこそ、この笑い声が聞こえてくるのが嬉しいのである。
「そうですよ。私達はこのまま執事長に報告するので仕事を任せたよ。」
「了解。」
レスが歓喜している横で先輩メイド二人が執事長にコーサのバラカイナ草の研究に転機が訪れた事を伝えに行った。
「あのレスさん。入らないんですか?」
もう数分間、扉の前で歓喜しているレスに部屋に入らないのかを聞く後輩メイドだった。
「うん?あー、貴方は知らないのでしたね。この声は吉兆の印であると同時に警告音です。」
「警告音?」
レスは後輩メイドに念入りに忠告した。
でも、後輩メイドはレスの言っている事に疑問を思った。
「何を警告しているんですか?」
「研究の邪魔したら許さないと言う警告です。」
後輩メイドの疑問にレスがはっきりと答えた。
「昔、この事が屋敷に広まっていない頃、ある一人のメイドがコーサ様の笑い声を不思議がり中に入りました。そこで何かを見たのでしょう。驚いたメイドはコーサ様の薬品が入った瓶を倒してしまったのです。」
「その後は?」
後輩メイドが固唾を飲んでレスの言葉を待っていた。
「そして…………」
「何してるの?」
「「「きゃあああああ!!!」」」
レスが話していると静かに扉が開いてコーサが話しかけてきた。
その事に驚いたメイド達が悲鳴をあげた。
「うるさいな…もう……」
「コ、コーサ様。もしかして研究の邪魔をしてしまいましたか?」
レスはコーサの部屋の前で話しすぎて声が部屋の中に届いてしまって研究の邪魔していたのではないかと怯えていた。
「あ、あのレスさんが怯えている?!」
顔などは自然体でも若干手足が震えている事が後輩メイドにも分かった。
「別に邪魔にはなっていないよ。切りが良いから。お茶にしようと思ってレスを呼び出たらみんながいただけだよ。」
「そうですか………」
明らかにレスはコーサの言葉にホッとしていた。
「それなら良かったです。ちょうどコーサ様が帰ってきたとお聞きしたのでお茶の準備をしていたのです。」
レスはコーサに手元のティーセットを見せて言った。
「やっぱりレスは気が利くね。ありがとう。君たちも立ち話を咎める気はないけどしっかり仕事はしてね。」
「はい!ほら、お前も頭下げろ!」
呆然としていた後輩メイドの頭を掴み強制的にお辞儀をさせる先輩メイドであった。
コーサはそう言うとレスを連れて部屋に戻って行った。
「はぁ……しっかりしろよな!」
「すみません。あのレスさんが怯えているのが信じられなくて。」
後輩メイドはどんな事にも怯えず冷静に対処するレスしか見た事がなかった為、あれほどに怯えているのが信じられなかった。
「まぁな。さっき話していたメイドの事を覚えているか?」
「はい、途中でしたね。そういえば。」
先輩メイドはさっきの話の真相を話し出した。
「あの話に出てくるメイドな………レスなんだよ。」
「えっ?!」
次々とレスの新情報に頭がパンクしそうな後輩メイドだった。
「あれは凄かった。私も信じられなかった。心配して入ったレスが次の瞬間悲鳴をあげていたんだからな。」
今と変わらず当時も防音だった部屋から聞こえてくるとは思えないほどの悲鳴に当時その場にいた者全員が戦慄して中に入って様子を見る事もできなかった。
「だから、当事者であるレス以外何をされたのか知らないし、私らも聞けない。」
後輩メイドにも絶対これ以上この話をレスから聞こうとするな。と忠告する先輩メイドだった。
でも、後輩メイドの好奇心は心の奥で鳴り続けていた。