最難関の壁
「コーサ様、やっぱり………」
「いや、ここまで来たんだ。あと一つ何かあれば…」
あれから二年が経ち、8歳になったコーサはバラカイナ草の研究の壁にぶつかっていた。
「ですが、バラカイナ草が成長しないと言う報告がきています。」
「前の肥料も失敗か。」
バラカイナ草が発芽する事は出来たが、それ以上に成長せずに枯れてしまうのだ。
色々と調べて研究用の畑も昔は群生地だった土地に増やしたが、結果は変わらなかった。
「当主様もこのまま続くようなら研究を変えろとのお達しが来ています。」
「研究がそんなすぐ結果が出るわけないんだが………うちには悠長に研究を続ける資金も時間もないからな。」
暗にバラカイナ草にこだわらず、他の薬草に新種改良で同等のものを生み出せと言う事だろう。
コーサも馬鹿ではない。
そっちの方が成功確率も費やす時間も結果的に良い事を分かっている。
だが、そんな事ではインパクトに欠けるのである。今まで不可能だった事を可能にする。そのインパクトがコーサには欲しかった。
「それに百年問題を解いたらそれだけで価値が生まれる。」
「コーサ様………」
レスはコーサが家を継がない事は知っているので、いつかコーサは婿入りなどが人生の選択肢に入ってくる。
その時に百年問題を解いた人となれば婿として価値は上昇する。そんな事もストロンガー家の者として家のために考えている事をレスは感動していた。
コーサは死後の考察してもらう為の価値が上がると思っているだけである。
「はぁ、だとしても、これだけの研究を続けるわけにはいかない。もう一回群生地に行ってくる。」
「お供します。」
「いや、いい。一人で考えたいんだ。それにあまり人が来すぎると枯れると言う噂がバラカイナ草にはあるからね。」
バラカイナ草の研究は進んでいない為、実しやかな噂も存在するのだ。
「分かりました。お気をつけてください。」
既にそこらの騎士より強いコーサを脅かす魔物が出てくるとは思わないが、それでも心配だった。
「あれ?」
コーサが出た後、唯一メイドの中でコーサの部屋の掃除を許されているレスが机を片付けているとあまり見ない薬品があり不思議がっていた。
「さて、どうするかな。」
コーサがバラカイナ草の群生地に来るまでは良かったが、結局解決法が思いつかなかった。
「?……あっ!」
コーサが見つけたのはバラカイナ草の無惨に枯れた姿だった。
「最近は気候も安定しているし、魔物にしても重要な物だから。荒らすわけないから。やっぱり人が来すぎたのが原因か?」
コーサはさっきレスに話した噂が本当なのかと思ったが、流石にそれはおかしいと思った。
「人が来すぎたから枯れるなんてそんな事はないだろう。」
コーサはここ二年でバラカイナ草が生命力が高い事が分かっていた。だから、人が踏み荒らしたり、多少土が汚染などされても枯れる事がない事は計算できた。
「うん?珍しいな。」
コーサが見つけたのはミミズだった。
このミミズの名はハクイミミズ。
夜行性で夜になると植物の葉を食べるために茎を登る特徴を持つミミズである。
「おお、完全な緑色。本当にポーションみたいだな。」
このミミズは食べた葉の成分を蓄積する。
貯める場所が血管や肉である為、身体の色が食べた葉に左右される。コーサが持っているミミズはバラカイナ草を食べていたので身体が綺麗な緑色になっていた。
「こんな所にいたらすぐに食べられるぞ。」
コーサはそう言うとミミズを土の上に置いた。すると、ミミズは土に潜っていった。
「まぁ、ここら辺はモグラなどの生息域だから。すぐにとは言わないけど死ぬだろうな。」
バラカイナ草の研究の副産物でこのミミズを発見したコーサはバラカイナ草を研究する傍らでこのミミズも観察していた。その結果、バラカイナ草を食べているハクイミミズは他の生物から食べられにくくなる性質がある事がわかった。
それはハクイミミズ自体が天然のポーションになるので、他の生物から食料ではなく、バラカイナ草と同じく薬だと思われているのである。
「…………………」
ハクイミミズの事を思い出していたら、何か引っ掛かっていた。
バラカイナ草の研究に必要な何かを見逃している気がする。
「…………………そうだ。おかしいんだ。」
コーサは単純な事を見逃していた。
「生息地が減るのがおかしいんだ。」
一般的にバラカイナ草の乱獲によって群生地が減ったと言われている。
でも、それはおかしい。バラカイナ草の生命力は根っこだけになっても時間をかければ復活するぐらい強い。その上、根っこには薬効はないので人間も他の生物も取る必要性はないどころか損でしかないのだ。
「なら……なんで……」
そもそもなんで此処が残ったのか、コーサはそこに疑問を思った。
此処は他の群生地より森の浅い場所にあり人が来やすいのだ。コーサの調べでは此処より深い場所の群生地が枯れた事もある事が分かっている。
「そうか、分かった!」
コーサは急いで屋敷に戻った。
ある調査資料を確認するために。