検証
僕は考えた。
どうしたら皆に考察される人物になれるのかと。
その結果、何より知名度が必要だと気がついた。誰も知らない人を考察する人はいない。
だから、貴族という知名度を残しやすい立場に生まれたのは運が良かった。
そして、この身体には才があった。薬学の才があった。
「おぉ!凄い!動ける!違和感なく!」
コーサは今、病院に来ていた。
もちろん、見舞いではない。筋肉維持薬の最終チェック。自分以外にも予想通りの結果が出るのかを確認しに来ていた。
「これは不思議な感覚ですね。」
何度も戦線離脱から復帰を繰り返している中年のベテラン騎士は寝たきり状態からリハビリを経験しているため、寝たきりから復活して身体に衰えを感じない今の状態に何とも言えない違和感を感じた。
「それは慣れて下さい。それにあくまでこれは戦線離脱前に戻っただけで強くなる訳ではありません。治験者の中には自分が強くなったと勘違いを起こした馬鹿も居ましたので、医者にはそれを注意するように規則として加えました。」
患者達、特に騎士にはその馬鹿が誰なのか検討がいくのか。全員苦笑いしていた。
「ハハハハハ!!そんな馬鹿!アイツだけですよ!坊ちゃん!」
「坊ちゃんはやめてくれと言っているだろう。アルベルト。」
ストロンガー家最強を謳う騎士団。
マルス騎士団団長が笑いながら病室に入ってきた。今回の治験にはマルス騎士団からも出ているのでコーサはアルベルトと知り合っていた。
「お前ら、坊ちゃんがここまでな物を作ってくれたんだ!魔物の討伐数が増えてないなど戦績が伸びてなかったら、お前らを1から鍛え直すからな!他の団の連中もこれは騎士団の総意だ!これから入院する奴にも伝えておけ!」
浮かれている患者に喝を入れる団長の姿は正に最強に相応しい立ち振る舞いだった。
「分かってますよ。団長、コーサ様のおかげでリハビリに費やしていた時間でより訓練も出来るんだ。俺達に怖いものはもうないですよ。」
患者の一人がそう言うと皆頷いていた。
騎士団の連中は例外を除いて戦闘狂ばかりである為、リハビリが必要になる怪我での戦線離脱を何よりも嫌っている事が多かった。
中には嫌すぎて怖がっているものすらいる始末である。
発言した患者もその一人だったようだ。
「コーサ様、次は何の薬を作るんですか?俺達何でもしますよ。」
今回の件でよりコーサやストロンガー家の忠誠心が高くなった患者達は次の治験も己を使ってくれと目が言っていた。
「いや、次作るのは薬じゃないよ。」
「そうなのですか?坊ちゃん。」
アルベルトはびっくり箱のような発想とそれを実行に移せる能力を持つコーサを楽しみにしていたので、コーサの方針は残念だった。
「これからはバラカイナ草の栽培法の確立をメインに進めるからね。他に手を出す余裕はないんだ。」
「バラカイナ草ですか………」
アルベルトも騎士団団長だけあってバラカイナ草の事もその栽培法を見つける難しさも知っていた為難色を示していた。
「これが成功すると領内の資金が増えるから。戦争資金が増えるよ。」
「我ら騎士団に何なりとお申して下さい!」
それを聞いたアルベルトは膝をついてコーサに宣言した。
「ありがとう。その時はお願いね。」
「はっ!」
この領地の財政は他と比較して貧しいのである。
理由はダンジョンと強力な魔物が跋扈する土地から争いが絶えない為、資金が一切貯まらないのである。
輸出品も魔物の余った素材くらいしか無く、領内で武器なども作っているが全て領内で消費してしまう為、輸出が出来ないのである。
「坊ちゃんのお陰で戦線維持が容易になったので感謝しかないのですが、坊ちゃんの研究成果を狙って他の貴族の諜報部員が来ているという話です。気をつけてください。」
戦闘には強いストロンガー家ではあるが、諜報には弱い面がある。気配には敏感ではあるのだが、情報収集や特に防諜が下手なのである。
今までは戦闘馬鹿の貧しい領土としか見られていなかったが、コーサが開発したポーションにより注目が集まってきているのである。
「大丈夫だよ。」
コーサはそんな事は前々から分かっていたので、対策は万全なのである。